31 同士討ちのジェミン
「ほらほら~、どうだい? 凄いだろう、あたいの宴会芸は!」
「おぉ、すごいわ! コップに入った水が全くこぼさずにジャグリングするなんて!」
てっきり攻撃を仕掛けてくるものばかりだと思っていたのに、なぜかそのまま宴会芸を続けるジェミン。
恐ろしさを見せるという話は何だったのか。
呆れる俺に対して、クレアは感動しているのか食い入るようにジェミンのほうを見つめている。
「おい、クレア、そろそろ良いだろ。こんな時にそんなものを見てる場合じゃないって……うわぁッ! な、何するんですかドバイさん!」
「……」
突然、背後からドバイさんが剣を振り下ろしてきた。
間一髪、俺は身をかわすことができたが、再び襲い掛かってくる。
「クレア、大変だ。ドバイさんの様子がおかし……ぐはッ!」
俺がドバイさんの攻撃をかわしつつ助けを求めると、突如としてクレアに腹を思いっきり殴られる。
殴られ慣れてるはずなのに、痛みがいつもの比ではない。
俺は、耐え切れずにその場に屈みこむ。
「きゃあああああっ!」
少し遠くのほうで叫び声がした。
ミルフィさんの声だ。
「ダメよ、ビッツェさん。そんなところを触っちゃ。ね?」
「……!?」
何故かイチャついているミルフィとビッツェ。
こんな時に、何をやってるんだ。
「イーッヒッヒ! 実に愉快! 実に爽快!」
「なん……だと…………。これはジェミンの仕業なのか」
蹲る俺の傍には、さきほどまで宴会芸を繰り広げていたジェミン。
何やら上機嫌に高笑いを浮かべている。
「そうさね。今更気付いてももう遅いって話よん? どうせただの宴会芸だと思って油断してたんだろう? イヒヒ。ところがどっこい、純粋で清らかな人の心を操るあたいのとっておきの秘技なのさ~」
「お、おい、待てよ。その言い方だとまるで俺の心が汚れてるみたいじゃないか!」
「……その通りですが何か?」
「こ、このやろう!」
俺の心は水洗便所のように綺麗だっつーのに!
「大丈夫か?」
「お、おう、やっぱりライアンの心も汚れてたのか!」
「やっぱりとはなんだ! やっぱりとは!」
倒れる俺にライアンが駆け寄ってきた。
しかし、こっちは二人か。
これは、マズイんじゃないか?
ドバイさんとクレアが操られてる状態じゃ俺たちに勝ち目なんて……。
「げふぅ!」
「ライアンっ!」
そのライアンも一瞬にして、クレアに弾き飛ばされて気を失ってしまった。
全く使えねえ。
くそ、他に、他に操られていない人は……?
「一体何が起こってるんだワイ? あ、黄金プリンはまだなんだワイ?」
「……」
いた! 国王のアリラカだ。
だが全く戦力になりそうもない。
この期に及んで、黄金プリンを求める辺りが良い根性してやがる。
もしかしたら、かなり強いのかもしれない。
「ひょっ!?」
と思ったが、国王はドバイの攻撃で一瞬でやられてしまった。
「イヒヒ。その絶望の顔、たまんないねぇ! もっと見せとくれよ! 苦しみ、嘆き、そして悔やめ! あたいを甘く見たことを地獄で後悔するがいい!」
俺の顔を踏みつけながら、ジェミンが言う。
そうか、こいつだ。こいつを倒せば術が解けるかもしれないッ!
「うおおおおおおっ!」
「おっと、あたいに攻撃しようだなんていい度胸じゃないのよさ。そんな活きのいい君にはプレゼントをあげないとねえ? そりゃそりゃ!」
黒く太い鎖で俺の動きを封じるジェミン。
く、俺はこんな大道芸人にも勝てないのかッ!
こんなはずじゃなかったのに。
俺は壁として、クレアを、仲間を守らないといけなかったのに。
それなのに――ッ!
「おう、ビッツエ、てめえいい加減にしろっつってんだろうが! おらおら!」
顔を見上げてみると、ミルフィさんがビッツェをボコボコに殴りつけている。
ああ、ミルフィさんも心が清らかだからジェミンに操られているのだろう。
「おら、てめえらも、いい加減に目を覚ませや、ごらぁ! うぜぇんだよ! ぶっ殺されてーのか!? ああん?」
あ、あれ?
何故か操られているクレアやドバイをも攻撃し始めるミルフィ。
「あ、あれ? 私は一体何を?」
すると、クレアたちが頭を抱えて不思議そうに辺りを見渡している。
「ちぃ! あたいの術を解くなんてなかなかやるじゃないのよさ! どこの誰だか知らないけど、甘く見てたのはあたいのほうだったみたいだねッ! 今日のところはこれくらいで勘弁しといてやろうじゃないのよさ! さらばなのじゃ~!」
焦った表情で、慌ただしくその場を去ろうとするジェミン。
「……逃しませんよ! アップルホールドッ!」
「にゃは、さっすが魔王様ニャア!」
手前の入口から入ってきたシャルノたちと鉢合わせ、とっ捕まるジェミン。
「全ての元凶はあなたですね、同士討ちのジェミンさん?」
「な、なんのことだい?」
「ドバイさんを操り、カラリア王国の滅亡を企んでいた悪の組織オリバーの幹部だという情報を入手しました。もう言い逃れはできませんよ?」
ばたばたと暴れるジェミンにシャルノが冷たく言い放つのだった。




