18 戸惑う勇者
「ナイトッ! 生きてたのね、良かった!」
私は、そう言ってナイトに駆け寄った。
「お、おう。なんかいろいろと心配かけちまってすまなかったな」
「べ、別に心配なんてしてないし? ただの壁が調子に乗るからあんな目にあったんでしょ!」
「面目ない」
「ま、まあ、生きてたんなら良いのよ。てっきり死んじゃったかと思ってたんだから! ぶ、無事なら無事って早く言いなさいよね、全く」
ああもう、ナイトの顔を見てると無性に殴りたくなるのよね。
このニヘッとした笑い顔がむかつくのよ。
なんか兄貴を思い出しちゃうし。
「あ、あの勇者さん」
「何よ大食い魔王、何か文句あるわけ?」
「そ、その、み、ミルフィさんはどうしたのですか?」
あっ!
そうだった。
確か天候がどうとかっていう怪しい魔法使いに捕まってるのよね。
でも、そのことは話さないほうが良いみたいだし……。
「え、えっと、ミルフィはちょっと私用で別行動してるのよ!」
「そうですか、それならいいのです。急いでいたために『ドラゴンの風』の行き先を指定してなかったもので、何か事故でも起きたのかと心配してました」
気付いたら魔法使いの家にいたのはそういうことだったのね。
町にスライムの姿はない。
ライアンの言った通り、スライムの正体はナイトだったのかしら。
もし、本当にそうだったとしたら、私は一体どうすれば良い?
ナイトを倒すの?
この手で――?
イヤだ。
そんなことしたくない。
でも、スライムを放っておくわけにもいかないし……。
「ああもう、私はどうしたらいいのよっ!」
「急に叫んでどうかしたのか?」
「な、なんでもないわ!」
とにかく、ミルフィを迎えに行かなきゃ。
「ニャア! カレがー降ってきたニャ! 早くゲットしないともったいないニャア!」
「ええっ!? いつもと時間がズレてるじゃないっ!」
祭りの時間はとっくに過ぎている。
そういえば、あのビッツェとかいう魔法使いが料理を降らしてるんだっけ。
とにかく今はカレー確保に全力を尽くさないと!
「うわぁ、服がカレーくせえ。液体だと全部取りきるのキツイのな」
「あんたが下手なのよ、もっと天候を見極めなさいよねっ!」
まあ、カレー祭り初参加にしては上出来だけどね。
祭りの中でもかなり難易度が高いほうだし。
「カレー、美味しいです」
「食べてるときが一番幸せニャア!」
魔王とレミエルは相変わらず、がっつり食べている。
レミエルはともかく魔王なんてあんなに小さい身体のどこに入っていくのやら。
「さて、急いでカレーを配りに行くわよッ! いつもより遅くなっちゃったから急がないとねッ!」
「うええ、まだ食べてる途中なのに……」
文句を言うナイトを引っ張って今日も今日とて食料の配給活動をする。
あれ? そういえば、あの変態仮面はどこ行ったのかしら?
祭りの時から姿が見えないわね。
また変なことしてなければ良いんだけど。
「さてと、ちょっと私はミルフィを迎えに行ってるから、ナイトはここで休んでなさい」
「お? またそう言ってちゃっかり遠くで入る気じゃねえだろうな? また誤解で覗きだなんだ濡れ衣着せられるのはゴメンだぞ」
私とナイトは配給終了後に再び温泉へとやってきた。
ナイトがやたらとカレー臭いせいでもある。
若いのにカレー臭、なんちゃって。
「今回は、本当に戻るわ。一時間後くらいには戻ってくるからそのつもりで!」
そう言い残して、私は移動魔法を使う。
目的地は、あの魔法使いの家。
遅くなってごめんね、ミルフィ。
今、行くよ!
「あ、あれ?」
「ん? どうした? 行かないのか?」
おかしい、場所をイメージしてそれから魔法を使うだけで移動できるはずなのにッ!
そういえば、あの魔法使いの家、中から移動魔法が使えなかったわね。
城の牢屋と同じく特殊な結界が張られているのかしら?
「困ったわね、移動魔法が使えないわ」
「おいおい、どうすんだよ! こんな秘境の温泉地から移動できないのかっ!?」
「あ、そうじゃなくて、ミルフィの居る場所への移動魔法が使えないだけよ。他の場所へは普通に戻れるから心配しないで」
「なんだよ、驚かすなよ」
どうしよう。
ミルフィが居る場所がわからない。
これだと、迎えに行くこともできないわ。
「ん? ちょ、ちょっとあんたいきなり服なんて脱ぎだしてどういうつもりよ!」
「え、温泉なんだから当たり前だろ。お前がさっさと行かないから待ちくたびれたんだよ」
デリカシーのないアホを思いっきり蹴り飛ばす。
派手に水しぶきをあげて温泉に落ちていった。
「ぷはぁ、ちょ、ひっでえ! 何すんだよ! 俺を殺す気か!」
「女の子の前でいきなり服を脱ぐからでしょっ! バカなんじゃないの!」
本当にムカツクやつね。
このまま、ここに放置していこうかしら。
「ま、まあ、ちょっとミルフィの家に行けないみたいだし、私も温泉に入ることにするわ! でも、絶対に覗かないでね!」
「お? それ振りか何かか?」
「違うわよ、バカなんじゃないの! 今度覗いたらマジで置いて帰るからそのつもりで!」
そう言って、私はナイトに背を向けて温泉に入る。
そして、これからのことを考えることにした。




