11 ミルフィの家に泊まることになった
「あらあら、随分と派手にやられたのねえ」
「あの暴力勇者を早く何とかしてください」
ボコボコにされた俺はミルフィに治療をしてもらいにきた。
まあ、温泉地に置いていかれなかっただけマシだったけど。
「うふふ、クレアちゃんはね、あれでも頑張り屋さんなのよ? 口では強がっているけど、本当はすごい寂しがり屋なんだから。だからあまり怒らないであげて、ね?」
「……まあ、勇者がこの世界のために頑張ってるのは俺も分かってるつもりだよ。だからこそ、俺も手伝ったわけだし」
ミルフィは勇者との付き合いも長いらしく、いつも手を焼いてるらしい。
勇者、性格に難あり、って感じだもんなあ。
「さてと、治療するからそこのベッドに横になって?」
「りょーかい、これでいいのかー?」
「おう、そうだ。それでいい、動くんじゃねえぞ? 動いたら死ぬからよ? よーし、良い子だ」
なんでこの人は魔法使うときだけ性格がガラッと変わるんですかね。
大分慣れてきたとはいえ、やっぱり怖い。
いつもニコニコした優しい表情が一変、鬼のような形相になるんだよね。
なるべく目を合わせないようにしておこう。
「ぐあああああ、いてええええッ!」
「おらおら、動くなっつってんだろうがよぉ! 大人しくしとけやゴラァ!」
はぁ、この世界の回復魔法はどうして痛みを伴うんですかね。
まあ、ちょっと我慢すれば傷は癒えるから文句は言えないけど。
「はぁはぁ、も、もう大丈夫だよ。ありがとうミルフィ」
「いえいえ、どういたしまして~。私にできることがあったら何でも言ってね?」
回復魔法を終えたミルフィはまた普段通りに優しい笑顔を取り戻していた。
治療するときもこの顔なら良いのに……。
と、そこでいきなり部屋の扉が木端微塵に破壊された。
なんだ、敵襲か!?
「にゃっほー! ナイトー、迎えにきたニャア!」
レミエルが満面の笑みでやってきた。
派手な登場だな、おい。
「おい、お前。毎回、何かを壊さないと気が済まないのか? ここ、ミルフィさんの家なんだぞ!」
「そんなことはどうでも良いニャ! 今日も魚を獲りに行きたいニャ! ナイトも一緒に行くニャア!」
そう言いながら、ベッドで横になってる俺の手を引っ張り連れ出そうとするレミエル。
その様子をじっと見ていたミルフィがレミエルを無理やり引き離した。
「ごめんなさいね~、ナイト君は治療したばかりだから安静にしてなきゃいけないのよ~。だから、今日は帰って、ね?」
「ニャニャ!? そうなのニャ? どこ怪我したのニャ? 勇者ニャ? 勇者にやられたニャ? うちが仕返ししてやるニャア!」
レミエルはそう言い残して物凄い勢いで走り去っていった。
「あれ、治療したばかりって安静にしてなきゃいけなかったのか」
「うふふ、ああでも言わないと無理やり連れていっちゃうでしょう? 魔王軍と仲良くなんて、なれるわけないんだから……」
ミルフィは少し寂しそうに笑った。
うーん、レミエルはちょっとアホだけど悪いやつじゃないと思うけどなあ。
魔王シャルノだって、大食いなだけで、別に人々に直接危害を加えるわけじゃないし。
「ところで、レミエルを追いかけなくていいのか? 勇者に仕返しするとか言ってたけど」
「うふふ、大丈夫ですよ~。クレアちゃんはあれでも勇者なんですからね~」
そんなもんなのか。
この世界のことはまだよく分からないけど、勇者も魔王も笑って過ごせる日が来ると良いのにな。
それからしばらく部屋の扉を直したり、ミルフィと勇者やこの世界のことを話したりした。
どうやら、今晩はミルフィがこの家に泊めてくれるらしい。
野宿よりはマシだけど、一人暮らしの女性宅に泊まるのは大丈夫なのだろうか。
「ところでナイト君?」
「ちょ、なんですか? 近いです、顔が近いですよ!」
「クレアちゃんのこと、どう思ってるんですか~?」
「は、はいぃ!?」
俺がベッドで横になっていると、ミルフィが近寄ってきた。
いきなり何を言い出すんだ、この人は。
「二人で一緒に温泉に入ったりしてたんでしょ? どうなの? 好きなの?」
「そ、そういうんじゃないですから」
俺の上に馬乗りになるように覆いかぶさってくるミルフィ。
あうあう、この状況はいろんな意味でマズイです。
「ねえ、ナイト君?」
「ひゃ、ひゃいっ!?」
俺の頬を指でツーッとなぞりながらミルフィが言う。
俺は、驚きのあまり変な声を出してしまった。
ど、ど、ど、どうしたら良いのこれは。
「どうかしら、クレアちゃんより私のほうが魅力的だと思うのだけど?」
「あ、いや、その……」
これは、誘ってるんだよな?
ここは男らしく、それに応えてやるべきだ。
けど――。
人生最大の分岐点だ。
ここで選択を誤れば、異世界での暮らしが地獄と化す。
そんな気がする。
「ねえ?」
「えっと、その……」
どうしよう。
流れに身を任せてしまうべきか?
それとも、心の準備ができないとかで丁重にお断りするか?
ああ、もうどうすりゃいいんだあああッ!?
「うふふ、冗談よ~。照れるナイト君も可愛いわねえ」
「へっ?」
そんなことを言いながら、ミルフィが俺から離れる。
「あらあら、怒っちゃったのかしら?」
「……そりゃ怒りますよ。何なんですか、冗談じゃ済まされないですよ」
はぁ、もう心臓が止まるかと思ったよ。
この人は何を考えてるかよくわからないや。
「ふふ、クレアちゃんのことこれからも頼みましたよ?」
そう言い残して、ミルフィは部屋から去って行った。
本当に、何を考えているのかよくわからない人だ。




