第七十六話 集団戦:黒軍VS黄軍【2】
『エリア2 X:260 Y:303 Z:21 にて設置型+B220:B294トラップが発動、 3ポイント獲得しました』
『エリア2 X:262 Y:301 Z:21 にてAQA【スライムザッコー】が撃破されました』
『エリア3 X:106 Y:211 Z:199 にて設置型トラップが発動、 3ポイント獲得しました』
『エリア2 X:288 Y:304 Z:20 にて設置型トラップが発動、 3ポイント獲得しました』
『エリア3 X:102 Y:199 Z:200 にてAQA【スライムザッコー】が撃破されました』
『エリア3 X:100 Y:186 Z:201 にてAQA【スライムザッコー】が撃破されました』
『エリア2 X:296 Y:305 Z:21 にてAQA【スライムザッコー】が撃破されました』
『エリア3 X:100 Y:184 Z:199 にて設置型トラップが発動、 3ポイント獲得しました』
『エリア2 X:332 Y:310 Z:18 にて設置型トラップが発動、 3ポイント獲得しました』
『エリア3 X:97 Y:176 Z:199 にて設置型トラップが発動、 3ポイント獲得しました』
『エリア2 X:335 Y:313 Z:20 にて設置型トラップが発動、 3ポイント獲得しました』
『エリア3 X:95 Y:173 Z:199 にて設置型トラップが発動、 3ポイント獲得しました』
『エリア3 X:94 Y:170 Z:201 にてAQA【スライムザッコー】が撃破されました』
『エリア2 X:341 Y:312 Z:19 にて設置型トラップが発動、 3ポイント獲得しました』
『エリア2 X:344 Y:312 Z:21 にてAQA【スライムザッコー】が撃破されました』
『エリア3 X:92 Y:163 Z:199 にて設置型トラップが発動、 3ポイント獲得しました』
『エリア2 X:356 Y:314 Z:21 にて設置型トラップが発動、 3ポイント獲得しました』
『エリア3 X:90 Y:160 Z:199 にて設置型トラップが発動、 3ポイント獲得しました』
自機コックピット内にて操縦桿を握らず、無表情にモニター画面を見つめるパイロット。
流れるように表示されていく情報は彼の脳内で画像変換され詳細な戦況を浮かび上がらせていた。
彼の名はミロク、カミラ小隊副隊長にして戦を自在に操る軍師である。
ミロクは得られた情報から、ある程度の先読みを終えると、自小隊のみへの専用回線を開き、解析した情報を伝える。
「定時報告、黄軍偵察部隊と思われる五機編成の小隊が二、素直に拠点目指して進行中。機雷への対策処置は未だ無く、開戦直後に比べ敵軍の進行速度は著しく低下。NPC機に関する戦果情報が無い事から偵察部隊には同行していないと推測される。当初作戦に変更なし、カミラ小隊各員は引き続き作戦行動に従事願う。応答不要、以上」
ここまでは極めて事務的な口調で情報を伝えていたのだが、通信回線を黒軍回線に切り替えた途端に口調が変わる。
「未だスタート地点で蹲り、身動き一つ出来ない者どもに告ぐ、何時までも拠点コロニー内に居られると迷惑だ!直ちに方々へと逃げ惑え、運が良ければ死なずに済むぞ」
挑発混じりの警告をしてみたが反応はない…どうやら屍どもの様だ。
屍状態の彼らはLBO攻略に失敗し続け、自らの寿命を多大に減らし、茫然自失に陥っているクラスメイトではあるが、今後は共にLBOを攻略していく戦友でもあるのだ。
だが、早々にLBO攻略を諦め、軍団戦が終わると同時に自主退学する者も出てくるだろう。
学園としては少しでも多くソウルを稼ぐために、新たな戦力として新入生を編入させるだろうが、それでは黒軍側の攻略が遅れてしまう。
そうならない為に、引いてはカミラ隊長の為に、ここは彼らを奮起させねばならない。
「これが最後通告だ。そのまま拠点内に居たら更にソウルを失う事になる。それ以上、寿命を縮めたくなければ速やかにそこから立ち去れ」
ソウル喪失の言葉一つで先程とは打って変わって動き出す屍共、ソウルハザードネタはこれからも使えそうだな。
ようやく動き出したとはいえ、宇宙服も着ずに右往左往する者や、武器も無く、装甲も無いAQAに乗り込んだは良いものの、何処へ逃げれば良いのかと判断も付かず、再び動けなくなる者もいる。
…屍はゾンビになってもやはり屍だな、生き返ったわけではなさそうだ。
「私たちは失ってばかりで、どうすれば生き残れるのかがわからないの…。これ以上失いたくない…。通信を送ってくれた貴方、迷惑は承知の上でお願いします。どうか助けてください」
…腐っても死体と思っていたが、生き返りたいという意思を示せる奴がいたのは僥倖である。
それに彼女のような丁寧に懇願できる奴は義理を重んじる傾向があり、利用しやすい。
「俺はカミラ小隊所属のミロク、君は?」
個人専用通信に切り替え、モニター越しに映った相手を視認する。
一般的には綺麗な部類に属する女性なのだろうが、カミラ隊長と比べるまでもなく俺にとっては何ら興味を引くものを持ち合わせてはいない。
「私はケイト、一応は小隊長をしてるけど…。不甲斐なくて皆には迷惑ばかりかけてるの」
素体AQAに武器は鉄パイプか、戦う意思はまだある様だが・・・。
「この集団戦において戦う意思はいらない、ケイトに諦める覚悟があるのなら助けてやる」
「えっ?」
俺の言ってることが理解できずに呆けるのも無理はない。
集団戦開始の一時間前に告知された情報を見定め、俺は勝つのを諦めた。カミラ小隊での局地的勝利は可能だが、黒軍が勝利し続けるには多くのモノが足りないのだ。
「今のところ黒軍の戦力として期待できるのは俺達カミラ小隊だけだ。黄軍との戦力差があり過ぎて、ちょっとやそっとの戦術では黒軍側に勝ち目はない、よって今回は軍団戦での勝利は諦め、ソウルの消耗を極力抑えた敗北を目指す」
勝つ気の無い作戦に意気消沈するケイト。
「そうですよね、ミロクさんの言う事はもっともですよね。でも、もうこれ以上ソウルを失いたくなくて…ごめんなさい」
「勝ちの目がないわけではないが、それは不確定要素であり、それに賭けるよりも通常ミッション攻略に精力を傾ける方が得策だ。カミラ小隊が集団戦前までに稼いだソウルは寿命約二十年分、一週間で一人頭二年分だ。ミッションを進めれば稼ぎも多くなるから、まだまだ失った寿命を取り戻せるチャンスはある。それに、君たちにはミッション20までの攻略法を教えてやる。だから落胆するのはもうやめろ」
人は成功例と道標を示してやれば皮算用を始める。そして自分の都合の良い様に想像の翼を羽ばたかせ、希望の光を見出し瞳を輝かせるのだ。あとは浮足立つ彼女に少しだけ釘を刺しておけば、後々上手くいかなかったとしても俺に唆されたと恨むようなことはしないだろう。
強くなるにはAQAの装甲RANKを上げるよりも、まずは素体レベルを上げる事が重要で、それを上げるには敵に噛み付けば良いと教えてやった。
たかが噛み付くだけの行為だが、暴走した状態ならともかく、普通に噛み付くなんてロボットゲームの概念から外れる攻撃である事や、口部開放型以外の頭部装甲を装着したままでは噛み付きが出来ないといった装備による落とし穴に気付かなければ、経口摂取によるレべリングなんて発想は生まれないであろう。
敵を捕食する事に嫌悪感を抱くと思ったのだが、意外にも彼女は平然としている。
「素体のレベルを上げれば、まだまだLBOを続けられるのですね」
先程まで絶望していたのに、あの悲壮感は何処へ行ったのだろうか?
希望を見出すと人はこれほどまでに明るくなれるのだろうか?
或いはただ単に立ち直りの早い性格なのか?
いずれにせよ前向きな思考を持つ奴は猜疑心が薄くて助かる。
「続けてもらわねばこちらも困るからな。集団戦を終えた直後に、図書室か購買部へ向かえ、そこで情報端末アイテム【助手の電子辞書】が入手可能だ。」
「はい、行ってみます。教えてくれてありがとうございます」
礼などいらない、端から全員に持たせるつもりだったからな。だが、こんな情報程度で感謝されるとは思ってもみなかった。
「端末にプレイヤー情報を登録したら俺にフレンド申請を送れ、受諾後、これから行うべき攻略法のテキストを送ってやる」
「はい、宜しくお願いします」
「よし、ケイトは仲間たちを率いて黒軍側拠点要塞へ行け、その後は要塞に居るカミラ隊長の指示に従え」
「はい」
一人の士気を上げておけば、後は蘇生者が屍共へ復活の呪文を唱えて回る。
ねずみ講式復活の呪文と言ったところか、カミラ隊長を頂点とする黒軍統一の第一歩としては順調な滑り出しだ。
さてと、俺の方は来週からの事よりも、目先の事を片付けないとな。
今回の集団戦において拠点防衛は旨味がないので選択肢から捨てた。下手に抵抗して黄軍に戦果ポイントを献上するのは下策。それにも増して、戦意も無い彼らを拠点に居座らせたままでは、彼らが撃破される度に軍事拠点からのリスタートとなる恐れがある為、黄軍にとって絶好の戦果ポイント稼ぎになるのは必定、それは下策の極みであり、同じ負けるにしても出来る限りソウルの損失は少量に抑えて置きたいところである。
だが、今回は諦めても、次回からは勝たなければならない、その為の布石を打っておく必要がある。罠による時間稼ぎは順調、拠点コロニー内のゴミ掃除は終えた。次は粗大ごみの処分だな。
通信回線をカミラ小隊専用回線に切り替える。
「経過報告、第二軍事拠点内の掃除は終わった。問題なければ次の作戦に移行する」
「こちらコウ、第一軍事拠点内には目ぼしいものは無さそうです」
無さそう…、コウの発言でなければ聞く価値も無い言葉だな。利する事柄限定ではあるが、コウの憶測が信に値する事はこれまでの戦果で証明されている。
集団戦に役立ちそうなアイテムやイベントが向こうに無いのであれば、こちらにも無いと判断して良いだろう、何より時間が惜しい。
「では自動操縦にズレが無いかを確認後、第一拠点を離脱してくれ、こちらも準備が整い次第、拠点の移動を開始する」
「了解しました」
黒軍には軍事拠点として二基のコロニーと一基の要塞が配備されている。どの拠点も微速ではあるが移動は可能で、敵軍に奪われず作戦宙域外へと脱出させれば少しだけ戦果ポイントが獲得できるのだ。
拠点退避成功で300ポイント、RANK2の敵機を一機撃破で200ポイント…、脱出させても得られるものは少ない。
だが、敵に軍事拠点を奪われると1000ポイント、二拠点で2000ポイントを与える事になるので、これは避けておきたい。
「粗大ごみの始末を土曜にするのは主義に反するが…」
「そうも言ってられないのが辛い所だな」
この声はカミラ隊長!ああ、その御声を拝聴するだけで戦意が高まる。
胸の奥から熱い感情が次々に溢れ出てくるが、俺は副官として常に冷静でいなければならない。
「ゴミ掃除は私の得意とするところです。カミラ隊長はゴミのリサイクルに御尽力ください」
「ミロク、戦友はゴミではなく宝だ。分かっているだろう?」
くぅ~、仰る通り『宝』でございます。我々はカミラ隊長を飾りたてる宝飾品であるべきでした。それをゴミなどと蔑むとはカミラ隊長を貶しているのと同義でございました。
「失礼な物言いでした。お許しください」
「責めるつもりはない。ただ仲間の心を傷付けない様に気を付けてさえいてくれたならそれで良い」
くはぁ~、なんという勿体無いお言葉、小隊回線ではなく黒軍回線に切り替えておくべきだった。
士気高揚へと繋がったに違いない金言を迂闊にも全兵へ伝え損なうという大失態、冷静さを欠くとは本当に情けない限りだ。
「肝に銘じます」
モニター越しでしか表情は窺えないとはいえ、動揺を悟られない様に努めて冷静に振る舞う。
カミラ隊長は満足気に頷くとモニターから姿を消した。
拠点要塞に控えるカミラ隊長にケイト率いる『ゴミ』改め『戦力外』二十名を『手駒』へと変えていただいたなら、こんな結果の見えている集団戦はさっさと終わらせてしまおう。
各軍定員四十名の集団戦における黒軍側の参加者は三十名。
カミラ小隊十名、ケイト小隊五名、他十五名。
強制参加である筈の集団戦にサーシャ小隊十名が不参加なのはミッション攻略の途中だからだ。不参加によるペナルティ『全ソウルの没収』、これがマイナス値すら取り上げられるものだと推測し、わざとミッション内に留まる事で集団戦不参加を決め込んだのなら、サーシャ小隊に策士ありという事になる。入学式で一瞥した限りでは黒軍にカミラ隊長や俺以上の傑物が居る様には見えなかったが、黒軍内のミッション攻略情報によるとサーシャ小隊に只者ではない逸材が居るのは間違いない、彼女らが集団戦に参加していたなら、今回の集団戦を無視してでも詳細な攻略情報を聞き出したかったところだ。
まあ、そんな奴らがソウルを蓄えていない筈がない。断定はできないが、俺達の知らない高難易度のミッションで苦戦しているといったところであろう。
現れない賢者、遅れてくる勇者、さて、二者選一どちらを楽しみにするべきか…。




