第七十五話 集団戦:黒軍VS黄軍【1】
正午より始まった集団戦、六つの軍団勢力が三つのステージに分けられ、今回は白軍(勢力値50)対赤軍(勢力値41)、青軍(38)対緑軍(44)、黄軍(56)対黒軍(38)となった。
初めての集団戦に序盤は様子見の勢力がほとんどの中、黄軍のみが積極的に戦場を侵攻していった。
黄軍のAQAが五機、黒軍NPCAQAを蹴散らしながら黒軍支配宙域を侵攻する。
「弱い、弱い、黒軍との集団戦ってチュートリアルより簡単なんじゃないの?」
黒軍AQAを単機で撃破した部隊の先頭を行く黄色のAQA、形ばかりの小隊編成は組んでいるものの、基本的には個々で戦い、勝ち取った戦利品は独占するのが彼らの基本方針となっている。
「確かに黒軍のNPC機は弱いけど、プレイヤー機もそうとは限らないでしょ」
自分の獲物を倒し、物資を回収する女性パイロット、NPC機は三機ほど撃破したが、未だにPC機とは交戦していない事に油断はするなと注意を促す。
「へっ、弱くなけりゃ要塞から出てきてるっつーの!それにしてもガラクタばかりだな、やっぱりPCが相手じゃないとろくなもんが出そうにねえぞ」
悪態をつく男性パイロットは回収した物資がまたもやRANK1のガラクタだと分かると、とたんに興味を失いそれを放り捨てた。
「まさかとは思うけど、奴らNPCと同じで、まだRANK1の機体だったりしてね」
冗談交じりに敵軍勢力の予測をするが、その予測は大よそ的を射ており、黒軍AQAのほとんどが未だにRANK1の機体ばかりであった。
それに対し、黄軍の全AQAはRANK2に達しており、一部の部位や装備にはRANK3の物も見受けられる。
「まあ、勢力値を比べても俺らより強い勢力は無いからな、まず負ける事は無いだろ。それにゲームに関しちゃ俺達より優れた奴らなんていやしねえ、今後は今以上に差は開くぜ」
黄軍に所属する1年5組の生徒は、ゲームヲタク、ゲーマー、廃人など、連綿と受け継がれるゲーム好きの称号を冠する者達、言い換えればゲームを本職とする者ばかりが集められたクラスである。
大きい口を叩くだけあって六軍の中では黄軍が一番先にミッションの攻略を進めている。もちろん特例を除いての話ではあるが…。
チュートリアルミッションをクリアした後の黄軍の攻略スピードは他軍を圧倒していた。
それは情報共有を可能とする携帯端末【攻略掲示板】及び、ミッション内で得られた物資を共有できる【アイテムボックス】を入手したからだ。
・先行攻略班【とにかくミッションを先に進め、後続へ情報を流す班】×2小隊
・究極攻略班【効率的な攻略を探求し、ゲームの極みを目指す班】×2小隊
・捜索班【隠し要素、裏ワザなどを模索、研究する班】×2小隊
・収集班【装備、アイテム等を集めるコレクター班】×1小隊
・解析班【各班で得られた情報を基に攻略法を編纂する班】×1小隊
黄軍は5人小隊を8個作り、小隊を5つの班に分け、班内で得られた情報は直ぐに携帯端末を通じて黄軍全プレイヤーに開示、それを解析班が攻略法として纏め上げる。
レアアイテム以外の物資は共有財産として全員が使用可能となっており、戦闘機会の少ない解析班であっても機体性能の低いAQAに搭乗する事はない。
隠しアイテムの入手方法、入手場所、隠しボスの出現方法、攻略法、隠しエリアの出現位置、出現条件、裏ルートの発見方法、高性能な機体、強力な武器のレシピ等々、彼らは嬉々として探し、奪い、獲得してきた。
しかし、組織的に動きはするが皆の為といった思想ではなく、根本は己が為だけに動いており、弱者を貶し、強者を妬む、今は協力的でも最終目標は『俺様強ぇー!』。他者のチートは嫌うが、己はチートになりたいという自分勝手な願望が強い面々なのであった。
だが、利己的であろうとも強いものは強い。
レベルアップの方法を見つけられず、組織的に動くことも出来ず、攻略に役立つ情報すら得られなかった黒軍プレイヤーに比べれば、早々に組織体系を整えた黄軍プレイヤーのゲーマーとしての能力は突出しており、今回の集団戦における黄軍の勝利を疑う者はどこにも居なかった。もちろん特例を除いてだが…。
「もう雑魚はいいっての!」
黄軍RANK2AQAトルストロイの持つマシンガンが火を噴きまくり、黒軍RANK1AQAスライムザッコーに無数の風穴が空けられる。
銃撃に曝され為す術なく木端微塵にされるスライムザッコー、弱いが故に倒して得られる物資はRANK1素材のスライムゼリー、RANK2AQAのパーツ素材としては使えない代物で、黄軍にとっては物足りないどころか無用の長物であった。
「RANK1のNPCを倒しても得られるポイントは、たったの1!逆にこちらのNPCが倒されたら20ポイントも取られるのよ、これって理不尽じゃない?」
「怒るなよリーゼ、狙いはNPCじゃなくて敵の拠点だろ。あれを落とせば1000ポイント、三つ全部落とせば3000だ」
「逆に、こちらの拠点が奪われたら20000ポイントよ。RANKが一つ違うだけでポイント差が二十倍、やっぱり理不尽だわ」
憤りを口にしながらも、四機目のNPCAQAを撃破する女性プレイヤーのリーゼ。
「RANKの差でポイントが違うのは仕方がないだろ、どのみち黒軍では拠点ひとつ落とせないだろうし、考えるだけ無駄だ」
集団戦では戦果を挙げた分に応じて戦功ポイントが得られる。
戦功ポイントには個人ポイントと、軍団ポイントの二種類があり、個人ポイントの総和が軍団ポイントとなる。集団戦終了後に獲得ポイントに応じたソウルとアイテムが個人と所属軍へ与えられるのだ。
「これだけ弱いと私達だけで敵の拠点を落とせるんじゃないかしら?」
「後続NPC部隊を利用すれば出来なくはないだろうな」
「じゃあ、やってみましょうよ、いいでしょゼット隊長」
リーゼの提案に部隊の最後方にいた隊長機が親指を立てる。
「さっすが隊長、物分かりが良い」
喜ぶリーゼだが、他の部隊員は一様に、また隊長の女性贔屓が始まったと呆れつつ苦笑いを浮かべていた。
「部隊案として決まった事に異論を挿むつもりはないが、攻略が無理そうだと分かった時点で俺は撤退させてもらうぞ」
「ははん、好きにしなさいよ、貴方が一番に逃げだしたら【臆病者】の称号を上げるわ」
「俺は慎重に物事を進めたいの、何度も言うがLBOは慎重に慎重を重ねて進めていくゲームなんだよ」
「ふ~んだ!この部隊に貴方が居るせいで捜索班なんて地味な班をやらされる羽目になったのよ、私の配属希望は究極攻略班なのに!」
「いやいや、リーゼの性格なら先行攻略班だろ、究極は俺達の実力では無理っぽいしな」
究極攻略班が黄軍部隊の花形であり、いずれもゲーム業界では名の通った実力者が所属する班である。
「まあ、小隊単位でクリアできるミッションステージなんてあと僅かだろ?いずれは大隊規模でのステージ攻略になるんだ、今更究極攻略班に抜擢されても直ぐに解散する羽目になるだけだろ」
「そんなこと無いわよ!例え大隊規模の攻略になったとしても、やる事は一緒だわ、先行攻略班が偵察隊、捜索班が探索隊、収集班が補給隊、解析班は…遊撃隊?他はともかく究極攻略班が主力部隊になる事は目に見えて明らかじゃない」
「そんな見栄に拘るよりも利益に拘る方が得だと思うけど…」
「ああ、もう!いつもいつも損得勘定は聞き飽きたわ!」
そんな遣り取りを黙って聞いていた小隊長は機体の両手を上げ、首を振りながらお手上げのポーズをとった。
ズガン!!
「なっ!?」
突如響いた衝撃音、視れば右脚部に宇宙機雷が接触し、爆発した様である。
機雷の威力は極めて低く、然したる損害は受けていないが、皆は無駄口を叩くのは止め、周囲を警戒する。
「迂闊に動くなよ、敵の位置を探るのが先だ」
「誰に言ってんの!?そんな事、言われなくても分かってるわよ!」
仕留めるべき獲物が罠に掛かった所を叩くのは常套手段である。黄軍側も自軍支配宙域には同じ様に罠を複数設置し、のこのことやって来た獲物が罠に引っ掛かった所で潜伏していたNPCAQA部隊が奇襲する様に設定していた。
黒軍側も同様の罠を張っていると予測し、NPC、あるいはプレイヤーAQAが襲ってくるかと思われたのだが、一向にその姿は見えない。
しばらくした後、どうやら奇襲はなさそうだと判断し、ゼット小隊は警戒しつつ侵攻を再開する。
「到底、奇襲とは呼べない散発的なNPCAQAの出現、触れても大したダメージにはならない宇宙機雷の罠、黒軍は何がしたいんだ?」
当初の目論見とは違い、黒軍軍事拠点への進行が遅れている上に思う様に戦功ポイントが稼げず、宇宙機雷に触れて爆発する度に奇襲への迎撃態勢をとらされ、結局奇襲は無く進行を再開するという繰り返しに、ゼット小隊の面々は苛立ちを募らせていた。
「なあ、フロード、確か宇宙機雷って千個で一つじゃなかったか?機雷一個のダメージはたかが知れているけど、百、二百とダメージが積み重なると楽観視できないとされているRANK1の罠だったはず」
「RANK1の罠なんて覚えてねーよ、最初に見比べはしただろうけど、結局うちはRANK3の罠しか選んでないんだ。第一、同じ宇宙機雷なら威力の高い方を選ぶに決まってるだろ」
「それはそうだが、千個の機雷をこれだけの広範囲に設置できるもんなのか?」
「出来るかどうかなんて知らねーよ、だけど実際にばら撒かれてるんだから出来るって事なんだろ」
「もしかしたら【分解】のスキルで機雷を千個に分けたんじゃないかな?それがどれだけ時間と労力を消費するかは分からないけど、向こうも勝つ為に工夫を凝らしてるんだ。決して油断しちゃいけないと思うよ」
黄軍のRANK1宇宙機雷は黄緑色で結構目立つ色をしている。本来ならば、RANK1宇宙機雷を設置するのは侵入し難いエリアを造る為である。一つの威力は微々たるものでも、密集した機雷群の中を突破するには多少のリスクが伴うと思わせる事が目的の罠であり、暗い色である必要はないのだが、黒軍の機雷は真っ黒で視認し難い色をしていた。
「分解したところでRANK1の罠がランクアップする訳じゃないだろ、逆に機雷の設置場所を分散させ過ぎたせいでダメージ量はかなり減ってるぜ」
「おそらくだけど、黒軍はダメージよりもポイント稼ぎを優先しているんじゃないか?罠設置で獲得できるポイントはRANKに関係なく一律で1ポイント、本来なら1ポイントしか稼げないけど、千個に分けた罠を設置するだけで1000ポイント得られるとすると、それだけでRANK2のAQAを5機撃墜したのと同じポイントが稼げるって事になるからな」
「なるほどね」
「この事を解析班が知ったらどんな顔するだろうな、調べなかった、試さなかった、知らなかったじゃ、奴らの面子が丸潰れだもんな」
「どうせ、『知ってたけど攻略の上では必要なかった』って言うに決まってるわ」
「フンッ、大した事のない情報でも解析班だからこそ解き明かせた情報だって言ってくる奴らだぜ、知ってたなら自慢を特盛に乗せて吹聴しまくっているはずだろ?」
「まあ、捜索班としてはどんな些細な情報でも報告する義務があるからな、解析班へ連絡通信を入れておく」
黄軍捜索班のゼット小隊は解析班からの指示があるまで、宇宙機雷の破壊とNPCAQAの撃破をコツコツと積み重ねるのであった。




