第七十二話 オヅヌ専用機
「おいっす!どうだ?何連勝した?」
俺が負けるとは、いや、オウガデスが勝つとは微塵も思ってないんだな。
「おはよう、もう数えてないよ。途中から獲得点数が何点貯まったのか分からなくなった」
機獣将棋を始めて二回目の朝を迎える。昨日の日中はララベル小隊の隊員や、アルテア小隊の隊員らも参加し、多人数対局で盛り上がった。
そして夕食を済ませた後、彼女たちはミッションを終わらせ帰って行ったが、俺の方はまだ勝利条件を満たせていないのか、ミッションクリアには至っていなかったので、オウガデスと徹夜で対局を続ける事になり、朝方にライムが様子を窺いにやって来たのだ。
「ぐはははっ、見ろ!野郎の姿が透けてるぞ!」
そう、連敗を続けるオウガデスは灰になるどころか、徐々に薄くなり、今では消えて無くなりそうなまでに透き通っている。
背後の襖が見えるほど透明なオウガデスだが、その存在感は健在で、見えずともそこに居る事が感じられるのだ。
ひとしきり笑い終えたライムは、俺の大将駒を手に取り満足そうに頷く。
「もう限界突破は果たしているようだし、対局はもういいだろう」
「限界突破?」
「ああ、このゲームのプレイヤーには成長限界ってのがあってな、特別な課題をクリアすると成長限界が一段階解除される仕組みになっているんだ。俺やオウガデスにも課題があったりするから、この世界は面白い」
ライム曰く、オウガデスのくだらない噺に耐えるのも、機獣将棋の対局を続けたのも課題クリアに必要だったらしい。
そう聞くと、面白い話は出来ないのに、機獣将棋は弱いのに、俺の為にずっと付き合ってくれたオウガデスには、お礼を言わなくてはいけないな。
「礼?それよりもするべき事がある。付いて来い」
ライムに促され別の部屋へと連れて行かれる。廊下の階段を下り、地下室へと入ると、そこはAQAの格納庫だった。
手前にオウガデスのAQAガメオヴェア、真ん中は左肩に黒鬼門が埋め込まれた素体が、これは俺の機体だな。奥にはライムのAQAライムライトが格納されていた。
俺の機体は素体のままなので、完全装甲のAQA二機に比べて一回り小さい。
「これからオヅヌの機体を改造するから操縦席に座れ」
改造?パワーアップしてくれるのか?
強くしてくれるなら否は無い、素直にコックピットに乗り込んだ。
「よし、それじゃあ始めるぞ」
ライムが機獣将棋で使用していた大将駒を素体に向けて投げた。
それを素体が操縦してもいないのにパクリと食べる。
『未知の栄養素を摂取しました。素体への栄養としますか?YES/NO』
へー、大将駒って未知の栄養素なんだ。へ~、栄養になるんだ。
素体がどう変化するのか楽しみだ。もちろんYESを選択。
『未知の栄養素を取り込みました』
【限界突破】完了。
素体レベル限界突破。
操縦レベル限界突破。
搭乗ランク限界突破。
機体スキル所持量限界突破。
戦闘スキル所持量限界突破。
【素体レベルアップ】:レベルが62になりました。
『未知の栄養素の栄養を全て摂取しました』
『機体スキル【瞬歩】が【縮地】に上位変化しました』任意の場所へ瞬間移動、もしくは任意の機体を引き寄せられます。
『機体スキル【霧化】を入手しました』任意の部位の霧化が可能になります。
『機体スキル【透過】を入手しました』エネルギーを大量に消費しますが透明になれます。
『機体スキル【共闘】を入手しました』任意の特殊ASの特性を一時的に得られます。
『機体変化【月鬼眼】を入手しました』月鬼眼未使用時、素体頭部に任意で月鬼眼が展開可能になります。
『機体変化【月鬼角】を入手しました』月鬼角未使用時、素体頭部に任意で月鬼角が展開可能になります。
『機体変化【霧魔核】を入手しました』素体体部に任意で霧魔核が展開可能になります。
『称号:【月鬼騎士】を得ました。』月鬼属性の装備が可能になります。
『称号:【霧魔騎士】を得ました。』霧魔属性の装備が可能になります。
『戦闘スキル【月読】を入手しました』月鬼眼使用時に限り、先読み行動が可能になります。
『戦闘スキル【月光】を入手しました』月鬼角使用時に限り、全ての攻撃に忘却効果が加わります。
『戦闘スキル【アウトブレイク】が【霧弾】に上位変化しました』霧弾一発につき1の固定ダメージを与えます。
素体の風貌が筋肉質だが締まった身体付きになり、螺旋状の黄金二本角、名前の如く、月の光を宿した月鬼眼、左肩には黒鬼門、牙や爪が縮んで目立たなくなっている。角と眼の他は黒いので悪魔に見えなくもないが、以前よりは断然格好良い。まあ、装甲を纏ってしまえば印象は変わるだろう。
スキルや称号も色々と増えた。
「ありゃ、俺の特色が色濃く出ちまったな。野郎の方が出てればもっと強くなってただろうが、やっぱり運がないよな」
そうか、鬼は俺で、月はライム、霧魔はオウガデスの属性なのだろう、能力配分は運次第ってところかな、当然ながら俺の場合は不運に傾くだろうが、それでも大幅パワーアップしているから不満は無い。
「次はAQAの製造だな、これには時間が掛かるが我慢してくれよ」
「ああ、皆の事は心配だが、焦っても良い結果には結びつかないだろうから腰を据えてミッションクリアを目指すよ」
「成程、まあ、どう急ごうが今回の軍団戦は間に合わないしな」
「軍団戦?」
「ああ、軍団戦は今日の正午からだぞ。弟子たちはもう向かってる」
そういえば土曜日は軍団戦の日だった。獲得したソウルを奪い合い、得たソウルをスポンサーに売りつけるのが俺達の使命だ。
軍団戦に参加しなければいくらソウルを持っていても売り買いは出来ない。ソウルを持ち帰らない生徒は学校側から厳しい指導を受け、場合によっては退学になる。更に日曜日の自由時間も貰えないので弟や妹に会いたがっていたトウマはきっと落胆するだろう。
サーシャ隊長だってソウルを売れないと困るはずだ。小隊の士気も落ちるだろう。
「済まないライム、やっぱり集団戦には参加したい。どうにか間に合わせられないだろうか?」
「ん?いや~、どう考えても間に合いそうにないな」
急いでAQAを製造したとしても、その後に試運転、調整、それらを省いてもトウマのいるステージの次元門を開き、サーシャ隊長達の居る次元門へ繋げなくてはならない。そして救出戦に突入し、敵ボス撃破でミッションクリアとなるが、時間的に無理があるそうだ。
「そこを何とかならないかな?」
「ふふふ♪お困りの様ですね♪お手伝いしましょうか?」
声の主は先程まで消えかかっていたオウガデス、今は自分を取り戻したのか、はっきりと視認できるまで回復していた。




