第七十一話 クロスイベント オヅヌ+ケントツカムイVS緑軍グリムドゥーナ騎士団+耳長騎士と笑顔仮面【9】
「オウガデスさん、先手をどうぞ」
十局ほど対戦したが、全戦全勝。
最初の数戦は苦戦したものの慣れれば簡単、包囲網を形成し、突出してきた駒を狙い撃つ、地形で嵌めたり誘い出したり、オウガデスは面白いように術策に掛かるのだ。
完全勝利こそ無いものの、それに近い勝利を続けている。
オウガデスが自軍に有利な地形を抑える行動に出たなら、俺は態と陣地を譲った。
この場合は、地形を抑え待ち構える相手は無視し、手付かずの相手を狙い数を減らす事を優先したのだ。
オウガデスは慌てて援軍を回すが、その駒を忍ばせていた伏兵で叩く。
二駒倒せば後は数の力で押せば良いだけ、連敗によりオウガデスの微笑みが苦笑に変わっている。
「ちょっと、今の一手は待ってもらえませんか♪」
「ええ、良いですよ。勝利報酬三倍で良ければ」
ステータス的にはオウガデスの駒の方が強い、かなりのレベルダウンハンデを貰っているのだが、それでも自分のどの駒よりも強敵が揃っているのだ。駒特性も多く性能も高いのにそれを使いこなせていない、胸を借りるつもりで挑んだが、肩透かしを食らってしまった。
「ま、まいりました♪」
十一勝目を手にしたところで、ライムが襖を開き入ってきた。
「おいっす!またぬるい修行をやってるな。お前に負ける方が難しいってのに」
「ライムさん、土足で入って来るなり不躾な事を仰らないで下さい♪」
「下手の横好きに付き合う方も苦労するんだぞ」
「なかなかどうして♪好きこそ物の上手なれとはいきませんね♪」
ライムの乱入で調子を取り戻したオウガデスだったが、十二局目も俺の勝利で終わった。
「なあ、オヅヌよ。こいつに勝っても面白くないだろ?対戦者を増やしても良いか?」
靴を投げ捨て胡坐をかいてライムは俺に提案してきた。
「それはどう言う事だ?」
俺の問いにライムはにやりと笑うと立ち上がり、襖の奥に控えていた者たちを呼び寄せる。
「こいつらは俺が見込んだ弟子でな、今回の件でもっと強くなりたいと申し出てきたんだ。師匠として弟子の面倒は見てやらないとな」
一礼して入ってきたのはララベルとアルテアだった。
「同学年に負けたとあっては、末代までの恥、まして師匠の御友人を利用して更なる高みに昇ろうなどとは不埒な、師匠が許しても私が許しませんわ」
俺を指さしながら見下し、いきり立つアルテアはどや顔でふんぞり返っている。
「わたくしも負けたままでは済ませぬ性質ですので、もう一勝負お付き合い願いたいですわね」
アルテアに比べ多少控えめだが、言ってることは同じに聞こえるのは気のせいか?
「おやおや♪これはお嬢様方、大勢での対局は大歓迎ですよ♪ささ、此方へお座りください♪」
扇子一振りで座布団が敷かれ、将棋盤が新たに三面追加されマス数が18×18マスの324マスに増設される。
「初心者が増えましたので、各自大将一駒、機獣五駒から始めましょうか♪」
「結構です。多人数での対局は順番ではなく全員同時に指すのでしょう?他は対局でのルールと同じだとライム師匠から教わりましたわ」
「私たちは召喚機獣を持ちませんので大将駒はライム師匠の分身機、主要駒は小隊機を使用させて頂きます。宜しいですね?」
正座し、背筋を伸ばして、しっかりと話す姿は凛としていて綺麗だ。
流石は大企業の令嬢と言ったところか、きちんと教育されてきたのだろう、甘やかされながら育てられたお嬢様方では無さそうだ。
俺としてはサーシャ隊長の様に、もう少しがさつさが有った方が好みなんだが…。
「な、なんですの?殿方が女性の顔をマジマジと見るものではありませんわ」
「あっ、いや、ごめん、つい」
ついうっかり隊長と比べてしまうなんて、悪いことを考えてしまった。機獣将棋に集中しないと…。
「いやあ♪微笑ましいですね♪」
「あん?そうかぁ?」
大人の余裕を持つからなのか、オウガデスは微笑みながら呟き、ライムは興味なさげに返事をする。
対局結果は三戦二勝、三戦目はララベルに取られてしまった。
意気消沈しているのはオウガデス、速攻で大将を討たれた後はずっと項垂れている。
その様子を見て笑い転げるライム、修行してもらってるのになんだか申し訳ない。
「やはり耐久力があり多彩なスキルを持つ機獣が有利ですわね」
「あら、所持スキル数はAQAの方が多いわよ、攻撃力も負けてないし一概に甲乙は付けられないわ」
いやいや、飛行能力を持つAQAの方が圧倒的に有利だよ。
ランク差はあるが、レベル差で調整している為、どの駒もステータス的には大差ない。
むしろ、全てにおいて勝っているオウガデスの持ち駒の方が絶対的有利な筈なのだが、それでも負け続けている。
多人数対局になって、より一層弱さが際立っていた。
「実戦では負け知らずと聞いておりましたのに、この不甲斐なさでは噂はデマだったのだと言わざるを得ませんわね」
「言い過ぎよアルテア、これはあくまでも修行なんだから、オウガデス様は私たちに花を持たせてくれているのよ」
「わはっは、あ~苦しい、もう両手でも花は持ちきれないってよ、実戦じゃあるまいし、花を持たせても持たさなくても結果は一緒だってーの」
笑いに来たんだ。絶対、オウガデスの負ける姿を笑いに来たんだ。なんて悪党なんだ。
「はい、オウガデスさん、討ち取りましたわ」
予定通りにオウガデスの大将駒を倒し、これまで通り三つ巴の戦いが始まる。
「横に強い虎は後方から倒す」
「あら、ここでアルテアと勝ち合うなんて狙いは同じだったのね。もしかしてオヅヌさんに誘導されたのかしら」
「ああ、挟撃されると踏んで狙ってみた。ぶつかり合ったところを反転して強襲するよ」
多人数対戦ならではの戦い方を見つけ機獣将棋の奥深さを知った。
この戦術を実戦でも使えたら良いな。
その後、十局行われた四人対局は俺が四勝、ララベル四勝、アルテア二勝、オウガデスの連敗記録は更新され続ける結果となった。
「あ~、笑わせてもらったな。どうだ、連戦で疲れただろ?今日はこれ位にして飯にするぞ」
「これからだといいますのに、仕方がありませんわね。明日に備えなくてはなりませんもの、今日はここまでで勘弁して差しあげますわ」
「御付き合いいただき、ありがとうございました」
「ありがとうございました」
ライムに促され互いに一礼を終えると、食事の用意がなされた別室へと移動する。
対局室に残ったのは叩きのめされ真っ白に燃え尽きたオウガデスただ一人であった。




