第七話 ミッション1:輸送車護衛【5】
最悪の予想通りに全ての鉄球や崩れた岩壁がぶち当たってもまだ青機龍の進撃は止まらない。
青機龍の攻撃範囲に入った俺は、その口内に向け走り出す。水流攻撃を避けて赤色レーザーの間を抜けて、大口を開けているその中へと飛び込む。
「食らえゴブホーンの一刺しを!【ホーンアタック】発動!」
ゴブホーンが白く発光する。その一撃が青機龍の口内をズタズタに引き裂くはずだった。だがゴブホーンは青機龍の口内に到達する前に牙の壁によってポキリと折られてしまう。更には勢い余って頭部が牙と激突、それと同時にゴブヘルムが壊れ爆発、俺は丸裸の状態で青機龍の体内へと転がり落ちていった。
ナック「トウマ!無事か?」
サーシャ「トウマ、返事をして。」
トウマ「・・・無事とは言えないがまだ撃墜はされていない。全部の装甲が壊れて裸同然だけどな。」
サーシャ「生きてるだけで幸いよ。ああ、良かった。それでトウマは何処に居るの?それとボスの動向はどうなっているのかしら?」
トウマ「どうやら俺は飲み込まれて龍の体内にいるみたいだ。中は暗いが【暗視】があるから視界には問題はない。問題がありそうなのは狭さだな、ボス龍の体内はAQAでは狭すぎて身動きしづらいよ。」
ウェス「ボス龍の背後から見た感じだと、トウマという標的を見失ったのかボス龍の動きは止まっているよ。」
キタ「相変わらず俺達の攻撃ではボスにダメージを負わせられてへんな。」
ナック「現状の装備ではボス龍の装甲には傷一つ付けられないな、やはり生身の部分に攻撃を当てないとダメージは通らない様だ。」
トウマ「くぅ、試しにボス龍の体内を蹴ったり殴ったりしたけど素体の力では攻撃が効いてる様子は無い。せっかく四方八方が剥き出しの生肉だらけなのに武器が無くては何も出来そうに無いな。」
サーシャ「仕方が無いわね。今回、ボス攻略は諦めてミッションクリアを目指すわよ。」
キタ「ちょっと待ってくれ、どうしても諦めたないねん。今度は俺がボスの体内に入って中から攻撃したるわ。」
ナック「そこまでして倒したいのか?撃墜されれば寿命が減るんだぞ。今回は諦めて準備を整えてから再挑戦しても良いじゃないか。」
キタ「普通のシュミレーションゲームならそれでも構わんけどな、これはAMIDAのオンラインゲームや、他の誰かがボスを倒せば二度と現れない可能性もあるんや。倒さなかった事により先のミッションに変化が起こる可能性もある。そやから、このボスを倒すまでは例え石に噛り付いてでも離れたくないねん。」
トウマ「・・・噛り付く・・・そうだ、俺にはまだ武器があった・・・。」
サーシャ「えっ?」
トウマ「装備は無くなったけど、この素体AQAにはまだ牙がある。そして俺にはまだ使えるスキルがあるんだ。」
ナック「あっ!あの無駄スキルか!・・・あっと御免、失言だった・・・三種のバイトスキルだよな。」
トウマ「ああ、確かに無駄スキルと思っていたけど、無駄かどうか試してみるよ。」
キタ「もしかしてボスに噛み付くんか?」
トウマ「バイトスキルが通用するか分からないけどな。やってみる価値はあると思うんだ。」
ナック「そうだな、駄目で元々作戦なんだから、試してみるのも悪くはないな。」
サーシャ「はいはい、もう好きにして、私は遠くの方から馬鹿な男たちを見守ってるわ。」
サーシャ隊長の許可を得て俺は最後の抵抗を試みる。
「スキル発動【クラッシュバイト】!」
AQA素体の牙が白く光を放つ、俺は目の前の肉の壁に向けて牙を付きたてた。ゴムのように弾力のある龍肉だが、噛み千切る事に成功する。いける!俺は続いて【スラッシュバイト】を発動させた。上顎の二本の犬歯が長く伸びて白く輝く、身を屈めながら龍肉の地面へと犬歯を滑らせ切り裂いていく、これまたいける!三枚に下ろしてやる勢いで牙を突き立てながら青機龍の体内を縦横無尽に切り付けまくった。
キタ「おおっ!ボス龍が苦しんどるで!トウマの噛み付きが功を奏したみたいやな。」
ナック「内部が生身という事はボス龍の外甲さえどうにかすれば意外と簡単に倒せるのかもしれないな。」
ウェス「そのどうにかするがどうにもならないんだよね~。」
ナック「・・・だな。」
「三つ目のバイトスキル【エネルギーバイト】発動!」
AQAの牙が白く発光する。青機龍の肉壁に噛み付くとAQAのエネルギーが最大値まで回復した。
そうか、エネルギーバイトは噛み付いた相手のエネルギーを奪うスキルのようである。
使用してみて分かった三種のバイトスキルの効果は以下の通りだ。
【クラッシュバイト】噛み千切る(噛み砕く)効果がある。硬いものでも大丈夫そうだ。
【スラッシュバイト】噛むと言うより牙が鋭く伸びる為、敵を切り裂くのに適している。
【エネルギーバイト】噛み付いた敵のエネルギーを奪う。エネルギー補給に役立ちそうだ。
この三種のスキルを順繰りに使用していると第二モニターに異変を知らせるメッセージが表示される。
『テンザクチバクリュウの肉を摂取しました。素体への栄養としますか?YES/NO』
トウマ「肉を栄養にするかどうか聞かれているけど、どうしよう?」
サーシャ「えっ?」
キタ「栄養ちゅうくらいやから悪くはならんのとちゃうか?」
ナック「何かのイベントに繋がるのかもしれないな。」
トウマ「分かったYESにしてみる。」
ドキドキしながら選択ボタンを押す。
【素体レベルアップ】:レベルが2になりました。
【素体レベルアップ】:レベルが3になりました。
【素体レベルアップ】:レベルが4になりました。
【素体レベルアップ】:レベルが5になりました。
【素体レベルアップ】:レベルが6になりました。
【素体レベルアップ】:レベルが7になりました。
【素体レベルアップ】:レベルが8になりました。
【素体レベルアップ】:レベルが9になりました。
【素体レベルアップ】:レベルが10になりました。
【素体レベルアップ】:レベルが11になりました。
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【素体レベルアップ】:レベルが25になりました。
トウマ「素体レベルが上がったぞ。」
キタ「何やて!」
ナック「レベルアップはミッションクリアした後にするものだと思っていたが素体レベルの上げ方は違っていた様だな。」
キタ「レベルアップの条件がそれぞれ違うんとちゃうか?操縦レベルはミッションクリア後のインターミッションで、装甲レベルは入手アイテムで上げるんやろな。素体レベルは敵を倒して上げるもんやと思っとたけど敵を食べて上げていくみたいやな。」
ウェス「まさかロボゲーで食べて強くなれるなんて思ってもみなかったよ。」
サーシャ「えーっ!本当に食べたの?」
トウマ「いや、食べるつもりは無かったんだけど、やたらと噛み付いてたらいつの間にか食べてたみたいだ。」
ナック「これって噛み付きスキルを持ってコボのAQAを選ばないと分からなかったところだよな。」
サーシャ「それで素体レベルが上がって何か変わったの?」
トウマ「えーっと、素体レベルが25になって、他の能力値は全部+51になった。」
キタ「何やて!レベル25?」
サーシャ「どれだけ上がってるのよ。まだひとつ目のミッションよ。」
ナック「AGにしてはゲームバランスがおかしいな。」
ウェス「そうだね。これまでのAMIDAゲームは地道に努力を積み重ねていくタイプばかりなのにね。」
キタ「もしかするとバグステージとちゃうかな。バグ申請したら改善されるかもしれへんな。」
サーシャ「考えるのは後からにしましょ、とにかく、そのボスをはやく倒して頂戴。」
トウマ「りょ、了解。」
そうだな、皆を待たせてるわけだし、早く青機龍をやっつけないとな。
龍肉が食べられると分かったので、今度は食しながらバイトスキルを順繰りに発動させる。
そして、また第二モニターに栄養にするかと問われるメッセージが表示された。もちろん答えはYES。
【素体レベルアップ】:レベルが26になりました。
【素体レベルアップ】:レベルが27になりました。
【素体レベルアップ】:レベルが28になりました。
【素体レベルアップ】:レベルが29になりました。
トウマ「今度はレベルが四つしか上がらなかった。何故だろう?」
ナック「それはレベルを上げるための必要経験値が段々多くなっていくからだよ。」
キタ「相当レベル差が無い限り一気にレベルアップなんてせえへんもんや、よっぽどこのボスのレベルが高いっちゅうこっちゃ。」
サーシャ「むしろ、また食べて、まだレベルが上がるほうが驚きだわ。」
ウェス「敵を食べて強くなるゲームはあるにはあるけど、食べられるのは一回だけだし、敵を倒してから食べるのが普通だよね。」
ナック「ボスだから複数回食べられるのかもしれないな、試しに何度も食ってみてくれ。」
トウマ「分かった。やってみる。」
俺は再度テンザクチバクリュウに噛み付いた。そのまま肉を平らげる。
『テンザクチバクリュウの肉を摂取しました。素体への栄養としますか?YES/NO』
三度目のYESを選択。
【素体レベルアップ】:レベルが30になりました。
【素体レベルアップ】:レベルが31になりました。
『テンザクチバクリュウの栄養を全て摂取しました。』
『機体スキル【低空飛行】を入手しました。』
『機体スキル【水中移動】を入手しました。』
『機体スキル【潜水】を入手しました。』
なるほど敵を食べると素体レベルが上がり、食べた敵の栄養素を全て摂取すると新しい機体スキルが摂取できるのか。
機体スキルを入手して以降は、いくらテンザクチバクリュウの肉を食べても素体への栄養とするかの選択肢は表示されず、レベルアップもしなくなった。
何十回目かの三連バイトコンボで、ついにテンザクチバクリュウは力尽きる。最後の咆哮が戦闘終了を知らせる鐘の音に聞こえた。
俺は龍の体内にいた筈なのにいつの間にやら平原に移動しており、空を飛ぶテンザクチバクリュウが力尽きて大地へと落下し息絶える瞬間を見ていた。
【100ソウル獲得】
サーシャ「トウマ、その姿は何?」
気が付くと隣にサーシャのAQAデュラが居る。デュラだけでなく、他の皆の機体も居た。・・・ん?その姿?
トウマ「全部の機械装甲が壊されて裸体だけになってしまったんだ。」
サーシャ「裸体に筋肉がやたらと付いているじゃないのよ。」
トウマ「へ?・・・本当だ!これは何でだ?」
キタ「その話は後にしてくれや、今は急いでボスのアイテムを漁るんや。」
サーシャ「そうね、今はアイテム取得を優先するべきよね。この件は後で話をしましょう。」
言うが早いかサーシャはテンザクチバクリュウの残骸を漁りに掛かる。
【???パーツ入手】×2
サーシャ「やったわ♪ボスアイテム三個よ。」
キタ「ん?まだボスの残骸は消えてへんで、まだ拾えるんとちゃうか?」
サーシャ「あら、私の前からは消えてるわよ。」
ウェス「ということは一人一回取得する権利があるって事だね。」
キタ「流石はボスやな、太っ腹♪」
ナック「それじゃあ残りの者でアイテム拾いをするか。」
トウマ「そうだな。点滅も始まったし急ごうか。」
(((・・・点滅。)))
【???パーツ入手】×2
【???パーツ入手】×2
【???パーツ入手】×2
【???レアパーツ入手】
ナック「おっ、レアパーツ引いたの誰だ?」
キタ「アイテム三個やから俺とちゃうで。」
ウェス「僕も三個だよ。」
トウマ「じゃあ、俺かな。やっぱり一個だけだけど。」
サーシャ「レアパーツを複数個手に入れるのはなかなか出来ないものよ。」
ナック「寧ろトウマが引いて正解だったかもな。」
キタ「せやな、どのみち一個だけやろからな。」
トウマ「くっ、レベルも上がったし、もしかすると二個入手できるかと期待していたのに・・・。」
サーシャ「それで、結局レベル幾つになったの?」
トウマ「素体レベルが31になって機体スキルを三つ覚えた。」
キタ「なんやて?」
ナック「なるほど興味深いが、制限時間が厳しくなってきたから詳しい話はミッションをクリアしてからにしようか。」
サーシャ「そうね、急ぎましょ。」
俺たちは急ぎ輸送車が停車している場所へと戻り、制限時間内に目標地点へと到達できた。
急ぐ際に俺は機体スキル【低空飛行】で移動したのだが、走るのと同じ速度でしか飛ぶことが出来なかった。それでも皆からは羨ましがられた。うん、羨望の眼差しを受けるのも悪くは無いな。
― 達成条件を満たしました。ミッションクリアです。 ―
黒軍前線基地に辿り着くと、基地司令官が登場し労いの言葉を受ける。
そして基地の整備員により輸送車のハッチが開かれ、俺たちが運んできたものは三機のAQAだった。ご丁寧にも司令官がこのAQAについて説明してくれた。司令官によるとAQAはリヴァイアと呼ばれる最新機で、リブノシュタット騎士団のエースパイロットに支給されるらしい。
最後にお前らも早くエースパイロットになって活躍するように叱咤された。エースパイロットか、なれるならなってみたいものだ。
・・・
・・・
・・・リミットブレイク改編作業開始
ピピッ、ピピ、ピピピ。
『ミッション1裏面クリア』
ピピピッ。
『リブノシュタット騎士団エースパイロット、ムラクモ、ヤタ、サヤカにAQAリヴァイアが支給されました。』
ピピピピ。
『黒軍の勢力が1増加しました。』
ピピッ。
『各勢力再計算、白軍26、赤軍25、青軍23、緑軍23、黄軍25、黒軍21』
ピピッ。
『テンザクチバクリュウ撃破により黒軍にエクストラミッションが追加されました。』
ピピピピッ。
『パイロットネーム:トウマ、パージせずに機械装甲を外し、リミットブレイクを達成しました。』
『隠しスキル1、【地図機能】を入手しました。』
ピピ、ピピピ。
『パイロットネーム:トウマ、テンザクチバクリュウを撃破、リミットブレイクを達成しました。』
『隠しスキル2、【部位脱着】を入手しました。』
ピピピ。
『パイロットネーム:トウマ、能力値99超え、リミットブレイクを達成しました。』
『隠しスキル3、【探索機能】を入手しました。』
ピピッ。
『パイロットネーム:トウマ、難易度★5をクリア、リミットブレイクを達成しました。』
『隠しスキル4、【二段跳躍】を入手しました。』
『難易度★6のミッションまで参加可能になりました。』