第六十三話 クロスイベント オヅヌ+ケントツカムイVS緑軍グリムドゥーナ騎士団+耳長騎士と笑顔仮面【1】
小鳥の囀り、虫の声、風が木々を揺らし、流れの緩い川の水面に魚の影が映ると、そこへ狙いを定めた大きな鳥が飛来する。
水面を掠め飛ぶと、嘴には逃げる間もなく捕えられた魚がピチピチと跳ねている。
そんな普段と変わらぬ様子の森へ、ズズズ、ズズズと重量物を引き摺るかのような音が静寂を吹き飛ばす。
深く暗い洞窟を抜け森に侵入してきたのは複数の機械巨人であった。
「はぁ~、やっと抜けられましたね」
「せっかく翅があるのに屈んで抜けなきゃいけない洞窟ってどうなのよ」
匍匐前進の体勢からAQAを立ち上がらせ人心地付くと同時に愚痴をこぼす女性パイロットが二人。
「気持ちは分からなくもないけど、部隊の士気を下げないように、もっと前向きな事を言ったらどう?」
「洞窟で敵に遭遇しなかったことを喜ぶとかね」
後続の二機が洞窟から這い出し二人を嗜める。
「そうそう、中で敵に遭ったら互いの頭と頭がごっつんこでしたよ」
最後の一機が洞窟から出ると地響きが収まり、森は普段以上の静寂を取り戻す。
「ララベル隊長、ライム師匠はどちらに?」
ララベル小隊副隊長のミーシアは、ふと思い出したようにララベルに問いかける。
ミーシアはいつもララベルの右側に立つ、意図してではないが自分は隊長の右腕でありたいと想う心がそうさせているのだ。
「いつもの事よ、こちらからの通信は無視、ライム師匠は私達が困るまで現れないわ。」
皆に伝わるわけではないが、ララベルは少し肩を上げ、仕方がないといった表情をつくる。
「ライム師匠ってヘルプ機能じゃありませんでした? もうミッション19なのに、今でもしっかりサポートしてくれますよね」
疑問を口にしたのはリィン、斥候役の彼女は天性の感を頼りに周囲を見回し、敵機が潜んでいないか周辺を警戒している。
「もうではなくて、まだミッション19なのではないかしら?」
リィンの問いに答えたのは最後に現れた修理担当のセレナである。戦闘時は最後尾、もしくは中心に据えられ最優先警護対象となっている。それだけ緑軍ではダメージ回復役が貴重だとされているのだ。
「一日1ミッションクリアしたとして、土日を除くと一年で約260ミッションクリアする計算よ。四日目でミッション19はハイペースだとしても300以上のミッションがあると期待しても良いんじゃないかしら」
リィンと同じく、斥候役のステラは直感ではなくAQAのセンサー等の計器類に神経を集中し、索敵を行っている。希望的観測を述べた彼女は多くのミッションを経験してみたいと思っているが、ステラのざっくりとした計算が導き出したミッション数の多さに他の隊員は辟易している。
五機のAQAはいずれも緑を基調としたカラーリングをしており、白のラインと洗練されたフォルムが秀逸である。隊長機以外のAQAはRANK2クララス、緑軍ウィステリアス王国グリムドゥーナ騎士団の主力量産機であり、クララスと同じRANK2ではあるが機体性能の高い隊長機クララ・ランス、隊長機らしくクララスよりも装飾が華美で装備も多い。
緑軍のAQAは、右手に精霊錫杖と呼ばれるワンドを用い精霊魔法を使う。左手には精霊の力を取り込む精霊玉という名のオーブを持つ、形状や性能はそれぞれ違うが、ワンドとオーブが緑軍騎士団の主武装である。そして素体背部には四枚の翅が生え、背部装甲を装着していても、飛行の妨げにならない構造をしており、機体スキル無しでも飛行が可能となっている。
飛行や精霊魔法に費やすエネルギー量は少ない、むしろ周囲に存在する物質からエネルギーを四枚の翅が常に汲み取り吸収しているので、エネルギー切れの心配はほぼ無いと言える。だが、それは翅が有ればの話であり、一枚でも翅を失えばエネルギー自然吸収機能は失われるのだ。
緑軍のAQAは脆い。翅に限らず、機械装甲ですら脆弱である。故に近接戦は避け、高い機動力と多彩な精霊魔法を駆使した遠距離攻撃を主戦法としている。
「今のところ敵影はありませんが、どうやらこの森には精霊結界、結界名【蜃気楼】が張られているようですね。結界を解除すれば索敵範囲は広がり何か手掛かりが掴めるかもしれません」
マップ表示にもセンサー類にも敵機の反応はなかったが、ごく微細な精霊結界特有のノイズ波をステラは感知したのだ。
「その結界は封印結界じゃあ無いでしょうね。前回同様、封印を解いたら隠しボスが登場なんて嫌よ」
「またレアパーツが出るかもしれませんよ、私達はまだレアパーツ入手してないんですから」
直感索敵により敵は居ないと判断したリィンは、周辺への警戒そっちのけで隊長機に言い寄った。
「それに、苦戦してたらまたライム師匠が助けてくれますって」
ミッション18にてボスが封印された精霊結界を解いた事により、ララベル小隊は手痛い損害を被っていたのだ。
同じ轍は踏むまいとララベルが躊躇するのも無理はない。
「リィン、私達の目的は制限時間内に魔獣封印の強化符を本隊に届ける事よ、余計な道草はクリア報酬に影響することを忘れないで」
「ふぃ~ん、ごめんなさ~い」
ミーシアが隊長にせがむリィンを窘める。
「ステラ、本隊との合流地点は分かるかしら」
「いいえ、結界の影響で私の通信機器では交信は不可能です。」
索敵機の機器類で不可能なら、部隊の誰にも交信は出来ない、地道に探すか、精霊結界を解き計器類を正常な状態にさせるのか、隊員たちはララベルの決断を待つ。
「もう少し周辺を探ってみましょう。総員、飛翔」
ララベルの指示で五機が翅を広げ森を見下ろす高度まで上昇する。
「リィン、ここから本隊の位置は見える?」
「ふぇ? いいえ、何も、見えるのは木ばっかりですよ、本隊のホの字すら見えません」
空に上がれば分かる事もあるかと思われたが、視認可能な範囲に特徴的なものは何も見つけられなかった。
「道なき道を進むよりは、示された道を行くのが常道と判断します」
「では、精霊結界を解除するのですね」
「ええ、精霊結界は【蜃気楼】だったわね。水と火の精霊にコネクト、属性は私が火を担当します。ミーシアは水をお願い」
「了解。カウントを開始します。3、2、1、コネクト」
「コネクト」
精霊力を取り入れる器であるオーブが発光するとAQAの機体色が徐々に変色していく、ミーシア機が緑から青へ、ララベル機が赤へと変わっていった。
「精霊界との接続完了しました」
「結界は思ったより広範囲よ。解除できそう?」
「やってみます。精霊結界【蜃気楼】解除開始」
ミーシア機のオーブから汲めども尽きぬ大量の水が溢れ出て真下の木々へと降り注ぐ、ララベルのオーブからは炎が吹き出し、零れ落ちる水を追う様に火の粉が舞い落ちていく。
ここで両機が下方の森へと向けてワンドを振るう。すると、水と火の精霊力が精霊結界に干渉し少しずつではあるが結界を崩していった。
どこまでも続くかと思われた森から整備された石畳の街道が出現し、彼女らが進むべき道を示した。
「ふぅ、解除完了」
「ミーシア、お疲れ様、精霊力の活用も随分と慣れたようね」
「いえ、隊長のサポートがあればこそです。私なんてまだまだです」
口では謙遜するミーシアだが、嬉しさと気恥ずかしさで、その頬は赤く染まっていた。
「ララベル隊長、前方に戦闘反応有り、アルテア小隊が黄軍AQAと交戦中の模様」
「あら、また先を越されたわね」
「敵の数は十機です。苦戦が予想されますね」
精霊結界が解かれたことにより索敵範囲が広がり、早速ステラが敵と交戦中の味方を発見する。
「何しに来たのかと言われそうだけど、見て見ぬふりは出来ないわ。総員、アルテア小隊の援護に向かいます」
「「「「了解」」」」




