第六話 ミッション1:輸送車護衛【4】
深く、深く、沈んでいく、あれほど澄んでいた水が渦巻きにより今はひどく濁っている。湖の深部は濁りによって光が遮られているのか、正面スクリーン越しの周囲は暗く黒い。まるで深い闇に包まれていくかの様な感覚だ。通信音も途絶えてしまい、渦巻による水の音もやがて薄れて聞こえなくなり、無音の世界が広がっていく。このまま沈んでいくのだろうか?浮上しようと機体を動かそうとしたが、俺の体の方が動かなかった。これはゲームなのに、ゲームだと分かっているのに、それでも俺は死んでしまうかもしれないと恐怖した。
「邪機を纏いし人間よ、我が住処を邪気で汚したのは其方か?」
どこからか声が聞こえる。ふいに正面スクリーンに赤い光が二つ見えた。
「お前は誰だ?」
操縦席から外に聞こえるはずのない質問を呟く。
「我が問いかけに問で返すとは無礼者め。」
・・・成程もっともだ。
「俺はトウマ、輸送車の護衛任務中に怪物と戦い、その最中に湖へと落ちてしまった。この湖が尊い場所だったとは知らなかったし、汚すつもりもなかった。だが、結果汚してしまった事は詫びようと思う。迷惑をかけてしまって済まなかった。」
相手の言葉が聞こえるし、相手にも俺の言葉が聞こえている様だ。言い訳して素直に謝ってみたものの、やっぱりゲームだから許してはくれないのだろうな。
「ほう、邪機を纏う者にしては頭を垂れるに躊躇はせぬか、その姿勢に免じ、邪なる人機を脱ぎ捨てるならば命ばかりは助けてやるとしよう。」
そうだよな、ここは絶対にYESと言えない条件を出すよな。
「あんたにゃ悪いが、この人機も命も捨てる訳にはいかないんだ。」
返事を澄ますと先程までピクリとも動かせなかった体が自由に動かせる様になった。そして【暗視】スキルが発動し闇の中で赤く光っていた二つの光が巨大な龍の眼であった事を知る。俺と話をしていたのはこの龍だったのか、AQAの何十倍もの大きさだぞ。こんなのを相手にして勝てるわけがない、早く逃げなくては、俺は少しでも早く水面へと上がろうとして操縦桿を動かす。
「ほう、我の前から逃げ出すか、正しい反応だ。・・・だが、そう簡単には逃さぬぞ。」
泳ぐというより足掻く感じで逃げるAQAの背に向け龍の角が突き刺さる。そして、そのままの状態で水面へと押し上げられて行き、水上へと飛び出した瞬間に背部装甲のゴブバックが破壊されて爆発、その衝撃により機体は湖の際まで飛ばされてしまう。
機体は尻餅を付いた状態で湖から現れた青い龍を見上げる。改めて見ると、龍の姿かたちはしているが、赤い眼以外は角も青い龍鱗も機械で出来ており、その全長は100mを越す巨大な機械龍だ。
サーシャ「な、なによこれ!?」
ナック「うわ~、ボス戦に突入かぁ~。」
キタ「あかん、あかん、こんなん絶対勝たれへんわ~。」
ウェス「・・・。」
良かった。通信機は壊れていなかった様だ。皆の声が俺に安心感を与え、皆の言が俺を不安にさせる。
トウマ「ごめん、こいつを怒らせてしまった。どうしよう?」
サーシャ「兎に角、逃げましょう。」
キタ「脱兎の如く逃げるんや!」
それから俺達は遮二無二逃げた。青機龍は俺に狙いを定め低空飛行で迫りつつ様々な攻撃が俺を襲う。足装甲を失った俺のAQAは滑るような移動はできず、人間と同じ様に腿上げ走りで逃げなくてはならない。青機龍の口から吐き出される熱線を跳んで避けるが、熱線が撒かれた後の硬い大地は、泥濘んだ泥道へと変わった。さらに青機龍は両眼から赤い光線を射ち出してくる。向かってくる光線と光線の間を機体を捻り半身になってやり過ごす。光線が通った後の地面には二本の線が削り描かれていた。俺は逃げ回っているうちに泥に足を取られてしまい赤色光線をくらいそうになった。咄嗟にハンマーナックルで防いだものの盾ごと腕を破壊されてしまう。
頼みのドリルガンとチェーンソードは収納していたゴブバックが破壊されたことにより、すでに失っている。
ちくしょう、これで残りの装甲は頭だけになっちまった。武器もゴブヘルムに付いているゴブホーンだけだし、これはもう逃げるしかないのか?
味方の援護射撃も青機龍の硬い装甲に弾かれ、損傷を与えてるようには見えない。
ナック「いくら攻撃を当ててもお構いなしにトウマを狙い続けてるぞ、どうやらボスはトウマ以外は眼中にない様だな。」
ウェス「こちらの攻撃が効いている様にも見えないけどね。」
サーシャ「ごめんなさいトウマ、そのまま逃げ続けて、その間に輸送車を基地まで移動させるわ。」
トウマ「謝るのは俺のほうだ。こいつを怒らせたのは俺の責任だからな。だから俺に構わず任務を遂行してくれ。」
青機龍の咆哮により機体バランスを崩されながらも、何とか逃げ続けられている。このまま粘れば最悪でも俺がやられるだけで、チームは任務を達成する事が出来るはずだ。
キタ「ちょっと待て~い。まだミッションクリアは早いで!クリアはボスを倒してからにしようや。」
いつの間にかキタのAQAが渓谷の頂上にまで移動していた。
キタ「トウマ、ボスを谷底まで誘い込むんや。ほんで真下に来たら俺がこの鉄球を落としてボスを潰したるわ。」
ウェス「成程ね、初任務にしてはとんでもないボスだと思ったけど、ちゃんと攻略法は用意されていたんだね。」
ナック「どうだトウマ、ボスを誘導できそうか?」
トウマ「ああ、何とかやってみるよ。」
サーシャ「それじゃあ、ナックとウェスもキタを手伝って頂戴。輸送車は基地の手前で待機させるから、キタの作戦が失敗した時点で輸送車を進めミッションをクリアするわよ。」
キタ「よっしゃ、駄目で元々作戦始めよかぁ!」
草原で逃げ回っていた俺は進む方向を変え谷へとひた走る。青機龍は俺の周囲を旋回する事により長大な胴体を壁とすることで、俺の行く手を阻もうとするが、手掛け足掛けではあるが俺の跳躍力は青機龍の背中まで届くほどだった。巨大機龍をひと跨ぎとまではいかなくても乗り越える位なら出来るもんだな。その後も尻尾振り回し攻撃や、青機龍の右手に握られている青い水晶玉を飛ばす攻撃などを横に飛んだり跳ねたりして何とか避け、谷の入口へと到達する。
ナック「トウマ、こちらは鉄球を落とす態勢が整っているから、そのまま駆け抜けてくれ。」
トウマ「了解、俺の方には落とさないでくれよ。」
狭い道幅の渓谷に入った。青機龍は獲物を喰らおうと大口を開けて襲いかかってくるが岩壁の間に嵌り込み思うように動けずもがいている。それでも岩壁を削りながら徐々に進んでいるのは流石ボスと言ったところだろうか、怒気を放ちながら迫り来るその姿は威圧的であり圧巻である。
キタ「ほな落とすで~。」
ウェス「上手く当たりますように!」
「「「せ~の!」」」
ナック、ウェス、キタの三機がかりで落とした鉄球は青機龍頭部の少し後ろ(首?)の辺りに命中した。
『グギャオオオオオ!!』
絶叫を上げてのた打ち回る青機龍、キタの目論見どおり鉄球は青機龍に有効な一撃を与えられた。
キタ「よっしゃー、どうや倒れたか?まだやったらもう一発落としたるで。」
トウマ「・・・鉄球のせいで動けなさそうだけど・・・気のせいか青機龍の色が黒くなってきてる様な・・・。」
ナック「まずいな。」
キタ「あかん、次や次、こうなったら鉄球落としまくるで。」
色が変わるってだけで皆がどよめきたつ。そんなに拙い事なのだろうか?
サーシャ「トウマ、気をつけて、ボスがパワーアップするわ。」
トウマ「そんなこと良くわかるな。」
キタ「ボスのパワーアップはゲームの定番やからな。」
青機龍の体表が光沢のある青黒へと変わると、赤い眼を一層輝かせ強烈な雄たけびを上げる。
『ギャアアアアオゥ!!』
ナック「・・・。」
ウェス「・・・。」
キタ「・・・なんでや?パワーアップしたのにパワーダウンしよるボスなんか初めて見たで。」
キタの言うことはもっともだった。青機龍が変わったのは色だけではなく、大きさも一回り大きくなったのだ。
サーシャ「いったいどういう事なの?」
ナック「ボスが岩壁に挟まれたまま大きくなったもんだから、余計に窮屈になって身動きできずにいるんだ。」
サーシャ「何よそれ、鉄球を落とす位置までボスが進まないと倒せないじゃない。」
ウェス「ボスの背中に乗って地道に斬り倒すしかないのかな。」
トウマ「こんな時にチェーンソードやドリルガンが無いなんて、俺は何をやってんだ。」
キタ「自分を責める必要は無いで、過去を嘆くより今出来る事をやっていこうや。」
ナック「ああ、そうだな、キタの言うとおりだ。とりあえず俺たちは下に降りてボスの尻尾の方から攻めるとしよう。トウマは頭部から攻め込むのは危険だろう、レーザーや水流攻撃の範囲外で待機していてくれ。」
トウマ「わかった。皆、気をつけてくれよ。」
俺はトリクワガタが襲ってきた場所まで移動し、皆の動向を見守ることとなった。
黒くなった青機龍は先程までもがき暴れていたが、今はじっと伏せった状態でいる。暴れてでも良いからこっちに来てくれないだろうか。
ナック「相変わらず黒くてでかいままだがやけに静かだな。」
キタ「・・・なあ、なんか微妙に揺れてないか?」
ウェス「うん、僕もそう思ってた。確かに揺れてるよね。」
言われてみれば地面が揺れている気がする・・・いや、揺れてる!しかも段々と揺れが大きくなってるんじゃないか?
ナック「地震じゃないよな、これはこのボスが起こしてるんだよな。」
サーシャ「各機、ボス龍から離れて!手が付けられないようなら輸送車を進めるわよ。」
キタ「わ、わかった。どうしようもないと判断したら合図を送るわ。」
打ち合わせを進める間も地震はより大きくなっている。ここぞとばかりに青機龍は首をもたげ水流を吐き出し、レーザー光線を四方に撃ちまくりだす。岩壁が崩れ青機龍は再び俺の方へと前進を始める。崩れた岩壁や壁際に置かれていた鉄球が青機龍へと降り注ぐが、損傷を受けながらも前進を続ける。
キタ「あかん、落ちてきた鉄球が次々とボスの背中を転がってこっちにきよる。これじゃあ近づかれへんで。」
ウェス「普通のゲームなら全ての鉄球を当てたら倒せるはずなんだけどね。」
キタ「ボスが暴れて勝手に鉄球をくらっているのは良いが、もう鉄球も残り少ないがな。こりゃホンマに拙いかもしれんで。」
ナック「もしかするとあのオオバサミの敵はボス対策で残しておくべきだったんじゃないか?」
キタ「そうか、あの罠はボス用やったんか、こらえらいことしてもうた~。」
トウマ「キタのセリフを借りるけど、過去を嘆かず今出来る事をしようぜ。」
キタ「はは♪そやな、ええ事言うやないか。トウマの言う通りや。」
ウェス「それじゃあ鉄球が全て落ちてもボスが倒れなかったらどうする?」
トウマ「皆聴いてくれ、ここから見ていて気づいた事があるんだが、ボスの口の中は機械じゃなくて生身っぽいんだよな。」
ナック「なるほど、ボスの弱点は口内なのかもしれないな。危なくて近付き難いけどな。」
トウマ「俺、行ってみるよ。位置的に行けるのは俺だけだからな。」
サーシャ「待って、武器もなしにどうするつもり?」
トウマ「まだゴブヘルムのゴブホーンが残ってるんだ。専用スキルもあるし何とかやってみるよ。」
サーシャ「・・・分かったわ。申し訳ないけどトウマが撃墜されれば輸送車を進めるわね。」
トウマ「もちろんだ。俺に構わずそうしてくれ。」
キタ「トウマ、骨は拾ってやるからな。まあ、口の中に入れば骨も残らんと思うけどな。」
ナック「健闘を祈るぜトウマ。」
ウェス「僕も祈ってるよ。」
俺、特攻します。