第五十二話 ミッション5:戦艦駆逐【3】
『【蜂の巣型空母カララドーム】ノ損傷率33%ヲ確認。』
強力なバリアがあるとは言え、バリアの死角から攻撃されれば機動力の乏しいカララドームでは、リヴァイア・サクトゥ、プレグナル・オウガ両機の挟み撃ちから逃れる術は無く、一方的に攻撃を受け続けている。
バリアを展開したままではロビカララを出撃させること適わず、現在、戦場に大勢居たカララの群も、AQAの射撃や戦艦の砲撃によって撃墜され、かなりの数を減らしていた。
「目に見えて数が減りましたね。」
「無駄に長いミッションだったな。」
「無意味な前進で時間を潰してもうたからな。」
『敵残数50ヲキリマシタ、【BFAカララ】ハ【蜂の巣型空母カララドーム】ヘト撤退シテ行キマス。』
己の命など一切顧みないはずの戦闘バチが自分達の巣へと戻っていった。
カララドームもカララ群を迎え入れる為か、その動きを止め、己が身を守る為のバリアを解除してしまう。
諦めて抵抗をやめたのだとは思えない。トウマ達は攻撃の手を緩めたりはせず、より慎重に、反撃を警戒しつつ集中砲火を浴びせ続ける。
『【蜂の巣型空母カララドーム】ノ損傷率70%ヲ確認。・・・緊急事態発生、戦闘宙域ニ高レベルノ魔力反応アリ、当旗艦ノ前方ニ、ワープゲートガ出現、敵空母ガ、ワープゲートヘ移動ヲ開始、逃亡ヲ図ルモノト判断サレマス。マタ、時空ノ歪ミニヨリ、ワープゲートノ左右ニ、別種ノ転移門ガ二ツ出現シマシタ。』
旗艦の電子頭脳【トミー】の告知通り、巨大なワープゲートの傍に小さな異次元へと通じる穴が確認できた。
一つは転移門の穴から青い光を発し、もう一つは黄色い光を発しているが、二つとも徐々にその穴を狭め閉じようとしている。
異常は味方機にも現れていた。プレグナル・オウガの左肩に嵌め込まれている紋機章が黄色く発光し、リヴァイア・サクトゥの項に埋め込まれた逆鱗がより青く輝いている。
「何故だかわからないが、リヴァイア・サクトゥがあの転移門の先へ行きたがっている気がする。」
「プレグナル・オウガも同じだよ、あの黄色い転移門に導かれている様だ。」
「イベントを取るか、目の前の敵を取るかだな。中途半端な選択は全てを逃しかねないぞ。」
ナック自身、自分の忠告をサーシャが聞き入れるとは思っていない、案の定、サーシャは全てを逃すなと指示を出す。
「トウマ、オヅヌの両名は直ちに己が導かれし転移門へと移動、残りのAQAは全力でカララドームを叩くわよ。」
「「「了解。」」」
再び半球状のバリアを展開しつつワープゲートへと移動を開始し、戦場からの脱出を図るカララドーム。
決して逃すまいと、ゼクセドアルスから飛び出し、ありったけの攻撃を敵空母へと加えるサーシャ小隊。
プレグナル・オウガは機体スキル『瞬歩』で転移門を潜り、リヴァイア・サクトゥは機体スキル『加速』を使用し、転移門が閉じきる前に何とか潜り抜けた。
『トウマ機、オヅヌ機ハ【エクストラミッション】ヘト移動、一時戦線離脱トナリマス。マタ、【蜂の巣型空母カララドーム】ノ損傷率90%ヲ確認。ワープゲート通過マデ残リ二分三〇秒。』
「最悪取り逃がしたとしても栄養素はいただくわよ。全機カララドームに取り付き、噛み付きなさい。」
AQAエンテイケンプはカララドームの出撃ハッチを無理やりこじ開け、残りのAQAは中に潜むカララ蜂へと全弾一斉発射、蜂の巣の一ブロックを壊滅させ、すかさず空母内部へと突入、ロイヤルゼリーならぬ、カララのエネルギー源を発見するやいなや全機が飛びつき噛み付き、栄養素を吸収する。
『機体スキル『連係』を取得しました。』
全隊員が同じスキルを取得。
頂く物は頂いた。後はカララドームを殲滅するのみ、彼らは円陣を組み内部からの破壊に全精力、全戦力を注ぎ込んだ。
その甲斐あってか、カララドームがワープゲートへ到達する前に撃墜することに成功、見事ミッションクリアとなる・・・筈だった。
『【蜂の巣型空母カララドーム】ノ撃沈ヲ確認、『ミッションクリア』デス。・・・緊急ミッション発生、カララドーム内ヨリRANK6BFA【クイーンカララ】ガ出現。コノ『緊急ミッション』ハ回避ガ可能デス。『ミッションヲクリア』ヲ選択スル場合ハ全機『旗艦ゼクセドアルス』ニオ戻リクダサイ。』
カララドームが爆発四散した中から、ロビカララを一回り大きくした体長12mの中量級のBFAクイーンカララが現れた。緑色の複眼、白いマントの様にも見える四枚の鋼製虫羽を持ち、襟付きジャケットアーマーに似た鋼殻装甲、基本体色は黄色、四肢は黄色と黒の縞模様、どこかに隠し持っているのだろうか、見た限りでは武器を所持しているようには見えない。
「キタ、ウェス、サクラ、チナツ、メイプル、ホーリーはゼクセドアルスに帰艦し、補給と修理を済ませて、女王蜂は私とナックで対応するわ。」
「でも、相手はRANK6のボスですよ。たった二機で太刀打ちできますか?」
ホーリーの質問に大丈夫だとは言えない。だが、命令は変わらず帰艦せよと指示される。
「万が一、俺達がやられても、その時点でミッションはクリアになり、ペナルティは二人分で済むはずだからな、皆、悪いがここは隊長の指示に従ってくれ。」
そう言いながらナックはクイーンカララへと接近、先制の連撃を繰り出す。
「解りたくはありませんが・・・解りました。隊長達を援護しつつ帰還します。」
ホーリー達はクイーンカララに直撃させるよりも、その行動範囲を狭めるような援護射撃を続けながら旗艦へと戻っていった。
援護射撃が続いている間、クイーンカララは防御を優先していた。
エンテイケンプの腹部への膝蹴りを両腕、両脚を屈めブロック、クイーンカララは踏ん張りを効かせず力の流れる方向へと飛ばされる。
そこへサーシャの操る四機のランス型AW『フレイ』がクイーンカララの背中を串刺しにしようと突貫するが、二機は鋼製の虫羽に弾かれ、残りの二機はクイーンカララの手刀により払われ逸らされる。AWの攻撃はいとも簡単にいなされてしまった。
だが、クイーンカララがAWの対応をしている所へ、頭部と腹部目掛けてエンテイケンプの両腕による双打が、同時に前後へ開脚した右足が前蹴りとなり、クイーンカララの脛脚を狙う。
三点同時攻撃に対し、クイーンカララは後方へ倒れるように下がりつつ、両脚でエンテイケンプの双打を蹴り上げ払いのける。
両腕を弾かれ体制を崩したエンテイケンプの背後からサーシャのAQAヴァルキリー・クロアが飛び出しランスガンでクイーンカララに向けビームコーティング弾を放つ、そのタイミングに合わせ四方に配置していたAWフレイから黄色光線が放たれるが、クイーンカララは自身の周囲に赤いバリアを展開、バリアはビームの効力を掻き消すと、三本指の右腕がコーティングを剥がされた実体弾を掴み、粉々に握り潰す。
「どうやら女王蜂は近接攻撃、もしくは実弾で倒すしか無いようだな、回避力が高くて、ちっとも攻撃が当たらないけどな。」
「バリアを張っている間、女王蜂の目が緑から赤になっていたわ、眼を潰せばバリアは張れなくなる可能性はあるわよ。」
その眼を潰すのが一苦労である。サクラ達がゼクセドアルスに帰艦した事により、援護射撃は無くなってしまい、先程よりも行動範囲が広がったクイーンカララは戦闘宙域を自由に飛び回り、サーシャ達を翻弄する。
その回避力の高さからクイーンカララの戦闘タイプは近接戦闘型だと思われたが、その実、違っていた。
女王蜂の突きや蹴りは決して弱い攻撃力では無いが、それよりも驚異だったのは手の平から拡大しつつ高速で射出されるハニカム模様の魔法陣、そこから召喚されるBFAカララの姿形をしたエネルギー体の群にサーシャ小隊は苦戦する。
エネルギー群には若干の追尾性能はあるものの、単発であれば回避は簡単なのだが、魔法陣から任意のタイミングでエネルギー体を喚べるらしく、四方八方に散りばめられた魔法陣から放たれるエネルギー群の乱舞を避けるのは容易ではなかった。
補給修理を済ませたサクラ達六名が戦線に復帰するが、厄介な魔法陣を優先的に破壊する為、クイーンカララの相手は変わらずサーシャとナックが相手をしている。
ヴァルキリー・クロアのAWフレイ四機に魔法陣を破壊させつつ、自機は大盾と騎士槍を構え、エンテイケンプと共にクイーンカララへ接近戦を仕掛けていた。機体適正でいえばサーシャ機は接近戦を苦手とするが、防御面で言えば両エース機と並び部隊最高硬度を誇る。
とは言え、【大盾】ヴァシヴァルドは数十回の攻撃を受け止めズタボロ、その耐久力に限界が近づいていた。
「サーシャ隊長、予備の盾です。そちらは修復しておきます。」
サクラのAQAフェル・ハーピィが旗艦から予備の大盾を運搬し、ヴァルキリー・クロアへと受け渡す。
「助かるわ、ありがとう。」
「えへへ、私とメイプルちゃんは補給担当ですからね。」
御用の際はいつでもどうぞと言い残し、サクラは戦闘範囲外へと避難していった。
クイーンカララとの戦闘も二時間が経過し、数で勝り、上手く連係を取り合うサーシャ小隊側が少しずつではあるが優勢になってきていた。
女王蜂の虫羽は二枚が叩き折られ、左手の指を二本失い、右側複眼は突き潰され、サーシャの予想通り、複眼を失ったことで赤いバリアの右側半分は消失している。
女王蜂の死角からエンテイケンプが大炎刀で斬りかかる。迎撃の魔法陣がエンテイケンプの眼前に出現、間髪入れずにエネルギー体が発せられるが、これを飛び上がるように上方へと回避すると、身を翻しながらクイーンカララへと浴びせ蹴りを放つ。女王蜂は身を捻って右側へ回避するが、それを待ち構えていたヴァルキリー・クロアの騎兵槍が、左側複眼に突き刺さり、女王蜂の頭部を貫いた。
「これで止めだ!」
大きく振りかぶったエンテイケンプの大炎刀がクイーンカララの体を袈裟斬りに切り裂いた。
クイーンカララはギチギチと断末魔の声を上げ、光の粒子へと変わり消えていった。
ソウルとパーツと栄養素が旗艦ゼクセドアルスに回収されていく、それを見ながらサーシャ小隊の皆は一息ついた。
「ああ、今回は噛み付く暇もなかったな。」
「確かに余裕は無かったけど、あの二人抜きで私達は勝ったのよ・・・ふふふっ。」
エース不在でボス戦に勝利できた事が嬉しくてたまらない、この成果が私を含め隊員たちの大きな自信へと繋がるでしょうね。
「全隊員帰艦します。トウマ達が戻るまで艦の中でゆっくりしましょう。」
「「「はい。」」」
「「「了解。」」」
・・・だが、彼らに安寧なる休息は許されなかった。
コックピットに緊急事態を告げる警報音が鳴り響き、トミーから緊急通信が入る。
『【クイーンカララ】ノ撃墜ヲ確認、『緊急ミッション』ハ、クリアデスガ、・・・更ナル緊急ミッション発生、新タナ転移ゲートヲ確認、RANK7BFA【キングカララ】ノ反応アリ。コノ『緊急ミッション』ハ回避ガ可能デス。『ミッションヲクリア』ヲ選択スル場合ハ全機『旗艦ゼクセドアルス』ニオ戻リクダサイ。』
戻ろうにも転移ゲートの出現位置は丁度ゼクセドアルスの真ん前であった。退路に立ちはだかるキングカララの大きさは約20m、筋繊維が多いのか、体を覆う鋼殻がはち切れんばかりに膨らみ、ガッチリとしていて超重量級の印象がある。出現時からバリアを展開しており、複眼は赤く、四枚の大きな鋼製虫羽と小さな二枚の鋼製虫羽を持っている。甲冑のような黒い鋼殻装甲、体色は全身が黒黄色、頭部に金色に輝く冠の様な角が生えている。両手持ちのポールハンマーは一撃でAQAを叩き砕きそうな重厚感がある。
クイーンカララとは違い、見るからに機動力はなさそうだ。
あちらから向かってくる気配は無く、戻るに戻れない状態で睨み合いが続くかと思われたが、敵機を射程内に確認した『旗艦ゼクセドアルス』の自動戦闘モードが起動、全砲門がキングカララの背部に向くと、一斉攻撃が始まる。
赤いバリアを張るキングカララに旗艦のビーム兵器は通用しなかった。
背後からの不意打ちに怒りの火を灯しただけであった。
キングカララは振り返り、ゼクセドアルスを叩き壊そうと両手で握ったポールハンマーを振り上げた。
「マジか!」
「うそだろ。」
「嘘でしょ。」
「なんでやねん。」
「ダメーーー!!」




