第二話 AQAメイキング
― リミット ブレ~ィ♪ ―
扉を潜るとまた変な音が聞こえた。おそらく今後も聞く事になるんだろうな。
目の前に同じ黒の軍服を着た同級生二人と受付嬢の言っていた大柄で軍服に沢山の勲章を付けた偉そうな感じのロイド将軍がいた。
同級生は将軍を見つめたまま動かない。その二人を無視して将軍は俺の方を向いて微笑みかけてくる。結構失礼なおっさんだな。
とりあえず近寄り話しかけてみる。
「よく来たなトウマ、お前がリブノシュタット騎士団に入団する日を心待ちにしていたぞ。」
何故か将軍は俺と既に知り合いであるかのように話しかけてきた。将軍の話を聞いていると俺にとっては初対面でもロイド将軍にとっては昔からご近所さん付き合いをしていたそうだ。なるほど、これがゲーム設定というやつか。ロイド将軍は一見厳しそうだが優しい一面もあるようで、心配されつつも激励してくれた。将軍と話し終わるといつの間にか同級生が消えていた。将軍は俺とばかり話をしていたから気を悪くしたんじゃないかな?怒ってなければいいけど・・・。
将軍からは格納庫に行って俺が搭乗する人型ロボット、LBOではアドヴァンス・クエスト・アームズ(通称AQA=アクア)と呼ばれる向上型探索兵器の最終調整をするように命令された。ロボット・・もとい、AQAに乗って敵を倒せば寿命を延ばすポイントが貰える。逆に撃墜されると搭乗者の寿命が減ってしまう。寿命の増減は状況により変動するそうだ。
― B・L・O リミット ブレ~ィク♪ ―
格納庫へは将軍の部屋を出てエレベーターに乗り、地下格納庫まで一直線でたどり着けた。
「これがAQAか、すげーな。」
何体もの巨大なロボットが所狭しと並び、整備員らしき人たちが忙しなく働いている。
AQAの全高は10m位だろうか、もっとあるかも知れないな。
「久しぶりねトウマ、一介の整備員から帝国騎士の仲間入りを果たした気分はいかが?」
俺に話しかけてきたのは下半身は紺色のツナギ、ツナギの袖部分を腰に巻きつけ、上半身は赤シャツ一枚のグラマラス姉さんだ。褐色の肌に油まみれの姿がいかにも出来る整備員って感じで好感が持てる。どうやら俺は軍に所属する前は整備員だったようで、この姉さんも俺と旧知の仲の様だ。そういえば軍服になる前は俺もツナギ姿だったな。
「整備や修理をやりもせず、夜中に格納庫に忍び込んではAQAを操縦してロイド将軍にどやされていたわね。」
俺って整備員としては駄目な奴だったんだ。これは機械スキルの【整備】や【修理】を取らずに【暗視】や【無音】を持っているからこう言われているのだろうか?だとしたらこのゲーム、かなり芸が細かいな。
そして整備姉さんから俺専用AQAの最終調整をするから操縦席に乗るよう指示を受ける。操縦席はAQA素体の胸部に球体部分があり、その球体が操縦席になっている。ここから操縦席に着くまで体の自由が利かず、強制的に移動させられる。成程これがゲームというものか、感覚はリアルだけど本当は仮想空間にいるんだな。
さて、操縦席正面のモニターにはAQAの姿が表示されており、自分に合ったパーツや装備を選べるようになっている。
「それにしても、何も付けていない状態だと貧素な躰つきだよな。」
AQAの裸は眼蓋のない赤い眼球、剥き出しの牙、僅かばかりの筋肉が付いていて、蹴られれば折れてしまうような印象を受ける。この体に機械装甲を装着させることにより、格納庫に並んでいる他のAQAの様にロボットらしい外見になる・・はずだ。
整備姉さんの説明によると選択できる系統別機械装甲は、速度系のコボ、攻撃系のゴブ、防御系のオクの三種類だ。パーツ毎に選択可能だが、同系統のパーツを装備すると追加装備や専用スキルが付くので最初はセット装備を選択するよう勧められた。
配達なら速度重視、力仕事は攻撃重視、店番なら防御重視ってところだな。勿論、俺は攻撃系のゴブ装備一式を選択する。
次は装備の選択だ。ゴブが装備できるのは【銃】三種、【剣】三種、【盾】三種の計九種の中から三つまで装備できる。
【銃】クリスタルバレット:水晶の中に含まれるエネルギーを抽出して打ち出す。装填数六発。
【銃】ドリルガン:弾丸の形状がドリルになっており、貫通力は高い。装填数一発。
【銃】レーザーライフル:長距離狙撃用光線銃。命中精度も高く使いやすい。装填数四発。冷却時間二秒
【剣】クリスタルダガー:水晶の中に含まれるエネルギーを抽出して切断する替刃式水晶剣。
【剣】チェーンソード:回転式ノコギリ刃の剣、切断力は高い。
【剣】レーザーブレード:短期決戦用光線剣。攻撃力は高いがエネルギーの消耗が多く、長時間の使用は難しい。
【盾】クリスタルシールド:水晶の中に含まれるエネルギーを抽出して防御力を高めている。軽量大型盾。
【盾】ハンマーナックル:拳に装着する二対の高強度手甲。防ぐというより弾くのが目的。攻撃も可能な重量小型盾。
【盾】レーザーシールド:短期決戦用光線盾。防御力は高いがエネルギーの消耗が多く、長時間の使用は難しい。中軽量中型盾。
武器を見て気付いたが、やはりLBOは撃ったり斬ったりして戦うゲームの様で、雰囲気的に見てもスポーツで戦うゲームではなさそうだ。だが、ドリルやチェーンソー、ハンマーがあるのだから、まだ大工仕事が無いとは言い切れない、バイトスキルを選んだのはきっと間違いではないはずだ。
そんな希望を抱きつつ、選んだ装備はドリルガン、チェーンソード、ハンマーナックルだ。やはり男は無骨な位が調度いいな。
機械装甲を付けると剥き出しの目や牙が隠れてロボットらしく見える。
装備効果を確認するには正面右横のステータス画面に詳細が表示されている。
AQA:素体レベル:1 攻撃力+5 防御力+5 回避力+5 命中力+5 脳波力+5 耐久力+5 精神力+5 幸運力+5 機動力+5
機械装甲
【頭】ゴブヘルム:攻撃力+2 防御力+2 命中力+3 脳波力+2 耐久力10 セット効果:追加装備 ゴブホーン攻撃力+10
【体】ゴブメイル:攻撃力+2 防御力+4 脳波力+2 耐久力15
【腰】ゴブフォールド:防御力+2 回避力+2 耐久力10
【腕】ゴブアーム:攻撃力+2 防御力+2 回避力+2 命中力+2 耐久力10
【脚】ゴブグリーブ:攻撃力+2 防御力+2 機動力+10 回避力+10 耐久力10
【背】ゴブバック:防御力+2 機動力+12 回避力+8 耐久力10
追加スキル:ホーンアタック(一突鬼)
装備武器
【銃】ドリルガン:攻撃力+20(貫通力10)
【剣】チェーンソード:攻撃力+30(切断力10)
【盾】ハンマーナックル:攻撃力+5 防御力+8 回避力+2(耐久力20)
続いて能力値を確認してみる。
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パイロット:トウマ 操縦レベル:1
AQA:ゴブ 素体レベル:1 装甲レベル:1
最大攻撃力:103(60)
最大防御力:40(13)
最大回避力:41(12)
最大命中力:71(61)
最大脳波力:18(9)
最大耐久力:22(17)
最大精神力:30(25)
最大幸運力:-94(-99)
最大機動力:27
※括弧内の数字はパイロット能力
戦闘スキル:戦闘レベル:1【クラッシュバイト】、【スラッシュバイト】、【エネルギーバイト】、【ホーンアタック】
機体スキル:機体レベル:1【暗視】、【無音】
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全てを決定すると例によって最終確認ボタンがモニターに現れた。躊躇なく押すと整備姉さんから労いの言葉をもらう。
「ご苦労さま。これで最終調整は終わったわ。この後は本基地四階の司令室にて指令を受け取って頂戴。」
よし、よし、いよいよ待望の戦場に突撃だな。いったいどんな指令が下るのか楽しみだぜ。
― リミッブレィクッ! ―
エレベーターから四階に上がり、案内板に従って進むと司令室はすぐだった。そこには偉そうなおっさんの他に三人の顔なじみがいた。
「よう、初めてゲームをするにしては早かったな。」
俺に声を掛けてきたのは南 智和、入学式では俺の隣に座っていたので少しばかり話をした。棒高跳びの選手で、ジュニアの部だが世界大会優勝経験もあるそうだ。人見知りしない性格のようで、既に周囲の奴らとも打ち解けている。
「そうか?でも知らないゲーム用語が多くて正直なところ今でもよく分かっていないんだ。」
返事をすると南の頭の上におそらくパイロットネームであろう『ナック』の文字が表示される。
「南じゃなくてナックって呼べばいいのか?」
南が頷く、どうやらオンラインゲーム内では本名を言うのは禁句で、互いにパイロットネームで呼び合うのが常識らしい。
「親しき仲にも礼儀ありってね。他の奴らもPNで呼べよな。」
成程、勉強になるな。ナックにはこれからもお世話にならなくてはやっていけなさそうだ。
「じゃあ、皆さん改めましてトウマです。今後とも宜しく。」
ナックも含め他の二人にも挨拶する。
「トウマじゃあリアルと同じじゃない、私はサーシャ、宜しくねトウマ。」
「俺はウェス、よろしくな。」
みんなリアルとあまり変わらない顔だったので、誰が誰なのかは直ぐにわかる。入学式後にクラス発表があり、その後、五人ひと組に班分けされた。その際に皆と軽く自己紹介をしていたんだ。
「それで、みんなここで何してるんだ?」
「トウマともう一人の到着を待っているのさ。」
ナックによると傍にいるおっさん(レスナー司令官)からの指令が五人で挑める内容のものらしい、個人でも挑戦は可能だが、このVRMMORTSは複数人で進める方が効率的なのだと教えてくれた。
その為の班分けだったのか、なるほどな。
VRMMORTSやオンラインゲームについて色々と教わっている間に最後の一人が司令室に現れた。
「なんや、みなさん、俺のこと待っててくれたんかいな。」
関西弁の男は驚きと感激の表情を見せる。
「待ってたけど、君って関西の人だったんだ?」
西の人間は方言を直す気がないと聞くが、こいつも直す気なんて更々無さそうだ。
「そや、西から来たのに北っていいます。大阪人やけど笑いのハードルは低めで頼んます。」
こいつも俺と一緒でPNを本名と同じキタにしている。絶対にオンラインゲーム初心者だ。
「キタと同じく本名をPNにしてしまったトウマです。ゲーム初心者同士仲良くしような。」
親しみを込めて挨拶したつもりだったがキタは俺に驚愕の表情を見せる。
「なんでやねん!本名と同じか~い、ってツッコミ待ってたのに、先にやられとったんかいな!あかん、キャラ被ってもうた~。」
悶絶する大阪人、呆気にとられる一同、辺りをのたうち回るキタにナッツがツッコミを入れるまで司令室はおかしな空気が漂っていた。
「じゃ、じゃあ、気を取り直してミッションを受けましょうか。」
サーシャが少し引きつった笑顔で司令官の方へと皆を促す。
「よく来たなヒヨっ子ども ~中略~ 貴様らはまだ前線へ出るには早すぎる。まずは後方で幾つかの任務をこなすのだ。」
説教じみた訓戒のあとに簡単な任務を受けるように指示を受ける。
すると司令官の後ろにある巨大モニターに指令内容が映し出された。
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ミッション1 輸送車護衛
参加可能人数:1~5名
作戦内容:輸送車の護衛
勝利条件:目標地点に輸送車が到達。
敗北条件:AQAの全滅、輸送車の撃墜。
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参加ミッションを決定し、俺たちは司令室の奥にある作戦会議室へ移動する。
― L~B~Oー♪ ―
最初以降は無視していたが、移動するたびに頭に響く音曲はなんとかならないものだろうか、段々耳障りに感じてきた。
「エ~ル、ビ~、オオー♪」
・・・キタは楽しめてるようだ。
心なしか他の皆の表情も穏やかなので、もしかすると不快に思ってるのは俺だけなのだろうか?
「さて、ここではミッションで各人がどのように動くか相談し、敵味方の配置と作戦内容の確認を行う重要な場所よ。」
成程、役割分担を事前に決められるのか、うん、それは確かに重要だな。
「そしたらみんなのステを見せ合おか、まさか全員後衛とかちゃうやろな?」
防御力が高く、盾となり部隊を守る者や、素早く動き相手を撹乱し、回避や近接戦闘を得意とする者が前衛で、攻撃力は高く防御力は低いが遠距離戦闘を得意とする者が後衛と呼ばれるらしい。
「じゃあ、俺は前衛と後衛のどっちだ?」
俺の発言に皆が訝しげな顔を向ける。
「・・そうか、まあ、トウマはMMOどころかゲーム自体が初めてなんだし良いステの振り方なんて知らないよな。もしステ振りに失敗していてもトウマの機体は俺達でカバーするから気にするなよ。」
前衛にするか、後衛にするかを考えてポイントを割り振らなきゃいけなかったんだな。皆スマン、迷惑かける。
慰められつつも皆が俺のステータスを覗きに来る。俺は一体どんな失敗をやらかしちまったんだろう。
「な、なんじゃこりゃ~。メッチャ高ステやんか、攻撃100超えってなんや?命中も高いし、幸運も・・・ってマイナスってなんや?」
やってしまったか、やっぱりマイナスはまずかったかな。
「ステがマイナスだと、どうなるんだろう?ナックは知っているか?」
オンラインゲーム経験者のウェスでもマイナスにするとどうなるのかは知らないようだ。ナックも他の皆も首を捻っている。
「なんでや、基礎能力値を変更できるのは解っとった。俺は防御力を下げて、その分を回避力に多く割り振ったからな、でも俺が確かめた時はゼロで止まったんや、マイナスにはならへんかったで。」
え?そうなの?マイナスなんてならないものなのか?
「もしかして幸運力だけはマイナスに出来るんじゃないかしら?キタが確かめたのは他のステじゃなかった?」
「そや、俺が確かめたのは防御力だけやった。他のはゼロまで下げとらん。」
戦場が映し出されたモニター机に両手を突っ伏して項垂れるキタ。ステータスがマイナスになると知っていても、マイナスにはしなかっただろうに何がショックなんだろう。
「ま、まあ幸運力は価値の高いアイテムが出やすかったり、クリティカルアタックが出やすかったりする運要素のステのはずよ、だからマイナスでも大丈夫じゃないかしら?」
「ほ、本当か?」
「た、多分ね・・・。」
サーシャの視線が、す~っと俺から横の方に流れていった。
「後悔しても今更だからな、不運になったことは後で考えよう。問題は装備とスキルだな。」
装備とスキルも問題ありなのか?ナック、それって結局は全てに問題があるってことだよな。うお~、皆、重ね重ねスマン。
「攻撃力と命中力が高いのに長距離装備じゃ無いんだよな。」
そうか、長距離装備のレーザーライフルを選ぶべきだったのか・・・スマン、ナック。
「でも、他のステが低いって訳じゃないし短所にはならないだろ。これだけ攻撃力が高ければ切り札的な役割が担えるはずだ。」
おお、ウェス、庇ってくれて有難う、ウェス。俺は心の中で感涙しているぞ、ウェース。
「切り札か・・・それなら攻撃特化の両手持ちを選ぶべきなんだけどな。」
そうか、両手持ち武器を選ぶべきだったのか・・・ん?そんな武器あったっけ?
「なあ、両手持ち武器って何?」
また皆が俺を怪訝な表情で見る。どうやら、また地雷を踏んじまったようだ。
「大振りで手数は少なくなるけど一撃の威力が高い武器のことで、【重剣】や【槍】がそうよ。」
そんな項目なかったですよ。俺が見逃していたのだろうか?
「ページ切り替えが分からなかったんじゃないか?」
・・・ページ切り替え?何ですかそれ。
「それはちゃうやろ、それやったら三ページ目の【盾】は選択でけへんからな。」
ってことはどういう事だ?
「もしかして幸運力が関係しているんじゃないかしら?私の場合【盾】は四ページ目だったわ。」
「なんやて!」
なんだと!幸運力によって選択肢が増減するのか?だとすれば、この先も不遇な境遇を多分に味わうのかもしれないぞ。
「選択装備が少なかったんじゃあ仕方がない、不幸であったことは後で考えよう。あとの問題はスキルだな。」
ま、まだ問題がありますか・・・。
「噛みつきスキルを選ぶならキバ攻撃のできるヘルムを選ぶべきだったな。」
ん?噛み付きスキル?
そう、俺はバイトの意味が噛み付く事だと分かっていなかったのだ。ウェスに指摘されたのだが、噛み付き可能な装備はゴブでは無くコボの方だったらしい。
「スマン、俺は皆の足を引っ張りそうだ。迷惑なら俺をメンバーから外してもらっても構わない。」
個人で戦うのなら皆に迷惑は掛からない、色々と選び間違っていたとはいえ、自分で決めた事なんだから俺はこれでやっていく覚悟はある。
「実のところ少し不安はあるけど、まだ迷惑を掛けられたって程じゃないよ。大事なのはチームワークだから、勝手な行動をしなければ大丈夫、まだ誰も戦場に出た事がないのだから、足でまといになるかどうかは誰もわからないさ。」
「ナックの言う通りや、可能性は低いが、トウマが活躍して俺が足でまといになる事もありえへんとは言い切れんからな。」
「そうそう、マイナスも目立つけど、攻撃や命中は僕の三倍はあるよ、他のステも軒並み高いしね。」
「確かに能力の合計値で言えば私達の中では群を抜いて一番ね。」
おお、言われてみれば俺のステータスはマイナス分を考慮しても高いな。なぜだろう?
「俺の基礎能力値は4か5か6で、ボーナスポイントは20やったで。」
「私は基礎が防御10、他は6か7、ボーナスは26だった。」
ウェスもサーシャと似たような数値で、ナックは基礎能力値は高いがボーナスポイントは12しかなかったそうだ。でも皆よく数値を覚えているな。俺なんかもう朧ろげにしか覚えてないぞ。
俺の場合、皆と比べて能力値が高かった分、装備の選択数が少なかったのかもしれないな。うん、そう思うようにしておこう。
あーだこーだと推論と議論は暫く続いたが、結論は出ずに話はミッション攻略について、各自どう行動するかに切り替わる。
「敵に襲われるとしたら、序盤は東側の森と西側の岩場からだな、中盤は谷に入ると道幅が狭くなり勾配のきつい上り坂になるこの場所が危険そうだ。」
「後半は一見すると奇襲ポイントは無さそうだけど、湖から来る可能性も考慮しとかないとな。」
皆凄いな、ベテラン社員の様に意見を出し合っているぞ。経験不足の俺では会議に全く口を挟めなくてもどかしい気分だ。
「盾役が私だけなのが気になるけど、よく見れば私たちの班は結構バランスの取れた編成ね。」
防御特化型のサーシャが輸送車の傍で並走護衛し、機動力重視のキタが先行索敵し、遠距離特化型のウェスが輸送車後方からの後備警戒と援護射撃を担当する。汎用型のナックと攻撃特化型の俺は敵が襲撃してきそうなポイントを哨戒する事に決まった。
他にも通信方法の確認や、敵と接触した際の取り決めなどが話し合われ、配置を決定し、いざ出撃の運びとなった。
あぁ、チクショウ、滅茶苦茶不安だ。もの凄く緊張する。落ち着け、大丈夫、皆がフォローしてくれる。俺は作戦通りに動けば良いだけだ。
作戦会議室を出た途端に視界が暗くなり、例の不快音が聞こえる。ほんの数秒後に視界が明るくなると、いつの間にかAQAゴブに乗り込んでいた。おお、こういったところはゲームっぽいな。そして、少しの期待と多くの不安を胸に、モニター画面に映っているカウントダウン表示を見つめながら静かに出撃の瞬間を待っていた。
― ミッションスタート10秒前・・・8・7・6・5・4・3・2・1・ミッションスタートです。 ―