第二部 天使ってなんぞや
皆さんご機嫌麗しゅう。龍神愁です。
とりあえずあの後、物体を復元するという能力を持つ友人を呼んで部屋を直してもらいました。いやぁ持つべきものは友ですね。
そんでもって、それから家に泊まってもいいという事を例の天使に伝えたら見るからにパーッと顔が明るくなってました。まぁ警察に突き出されるよりはマシだと思ったんでしょうねw
そして現在は夜です。
それでは本編をどうぞ
ジューッ という音が龍神家に響き渡っている。まぁ成り行きから見れば分かる通り、今は僕が夕飯を作っている真っ最中だ。
「うはぁ~。美味しそうな匂いだねぇ!」
「おぃ、お前一応居候なんだから少しは手伝えよ」
両手にフォークとスプーンを装備して、夕飯を今すぐにでも食べられるような準備をしているのは件の天使さんだ。
空から降ってきたっぽいところを鑑みると、事情に関しては深入りはしない方が良いような気がした。よくは分からないけれど、どっかの組織から逃げてきたって事なんだろう。
まぁ、馬鹿のような天使さんを見ていると、そんな風にも考えられなくなるのだけれど。
「は~い。出来たぞぉ~」
僕がわざと間延びしたような声を出しながらキッチンの方から食卓へと料理を運んでいくと、天使さんは分かりやすく目をキラキラさせた。
「うっはぁ!!美味しそう!!」
そう言うと天使さんは料理を口へと運び始める。
「美ッ味しいぃ!!」
「どうだ!!我が自慢のカレーはッッ!!」
なんだか天使さんに釣られて妙に高いテンションになってしまったけれど、とりあえずソコは気にしないでおこうか。
今食卓に並んでいるのは、カレーと肉野菜炒めというありきたり尚且つ老若男女に受け入れられそうな料理だ。正直メンドくさかったんで手抜きなんだけど。
「へぇ~。料理上手いんだね」
「まぁな。両親は仕事で海外行っててほとんど家に帰ってこないし、兄さんがいるけど、仕事でほとんど夜遅くに帰ってくるから。必然的に僕が家事全般をしているんだよ」
別にその事を寂しいと思ったことは無いし、苦痛に感じたことも無い。
そういえば、カレーにがっついている天使さんに聞きたいことがあるんだった。
「なぁ、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
「ふみゅ?」
部屋で発見したときと同じような声を出す天使。チラッとコッチを見たときにカレーが口元に付いている事に気付いて苦笑する僕。
僕はジェスチャーで口元を指差しながらティッシュを差し出す。これでさっさと拭きなさい。
僕のジェスチャーに気付いたのか、ティッシュを受け取って可愛らしく口元を拭く天使。
何だか、こう見ると普通の女の子なんだよなぁ。※頭の上の天使の輪と、背中から直に生えている翼を除いて。
「で、聞きたいことって何?」
拭き終わった天使さんが聞いてくる。そうだった。危ない危ない、忘れるところだった。
「えっとさ、一応同棲生活を始めるにあたって、とりあえず君の名前を教えてくれないか?」
僕はこの天使さんの名前を知らない。かといって天使さんと呼ぶのもなんとなく嫌だ。
「あぁ名前ね。そういえば言ってなかったね。私の名前は、ルナーク=リュート=クレイエルって言うんだ。」
「ル・・・・ルナ・・何だって?」
名前が長くて覚えられない。というか、やっぱり日本人じゃなかったんだ。
「やっぱり私の名前、長いよね。まぁ私はルナって呼んでいいよ。で、君の名前は?」
あぁ、そういえば僕の名前もまだ言ってなかったな。
「龍神愁って言うんだ。難しい漢字の龍に、ゴッドの神でたつがみ。秋に心と書いてしゅうって読むんだ」
「ふぅ~ん」
ルナはあまり興味無さそうにモグモグしている。全くもって失礼な奴だ。
「食い終わったら食器、シンクに置いておけよ。洗わなきゃなんないからさ」
「ふぁ~い。あれ?愁は食べないの?」
「あぁ、色んなことがあってあんまり腹減ってないからな」
僕はそう言いながら携帯のディスプレイへと目を向ける。時刻は7時半。つまらないテレビでも見るかと思い、ほぼ一人暮らしの僕には広すぎるのではないかというリビングのソファにドカッと体重を預ける。
テレビをつけては見たものの、どうも眠い。入学式のせいで精神的に疲れが溜まったのだろうか。まぁいいや。とりあえず睡魔に逆らうことなく眠ろうそうしよう夜に眠れなくなるとか知ったことかバカヤロウと思いつつ、僕は眠る。眠れなくなったときのことなど、その時に考えればいい。
「うっ...うぅ~ん」
眠たい目を擦りながら起きてみたけれど、眠い。それに何だこの全身が気だるい感じは。
僕は携帯のディスプレイを見る。時刻は8時半ってところか。一時間程しか寝てないのに、何故か日付けを越えたのではないかと錯覚するほど眠った感がある。
「おぉ~い・・・ルナ・・・・・?」
気付けば、ルナの姿が見当たらない。
「ルナ~?」
呼んでみるけれど、返事は無い。キッチンの方へ行ってみたけどシンクに食器が綺麗に片付けてあるだけだった。
「(国に帰ったとか・・・?もしかしたら何らかの組織に連れ戻されたのか・・・・・?)」
とかいう事を真面目に考え始めた僕だったけれど、とりあえずサッパリしようとテレビを消して脱衣所へと向かった。
ガチャと脱衣所のドアを開けた瞬間、ひゃうっ という可愛らしくもどこかで聞いたような声が聞こえた。僕の今想像した悪い予感は、おそらく100%当たっていると思うけれど、だがしかしそれが分かったところでドアへ既に込められてしまった力を瞬時に抜くことなど出来なかった。
当然、目の前には全裸の天使さんが舞い降りてきてしまった訳で。
「愁・・・!!」
マズい。悲鳴なんてあげられたら僕の方が間違いなく警察へと突き出されてしまう。
僕はほとんど反射的にルナの見てはいけない部位を見ないように目を伏せた。だが、それだけでは目の前の天使の怒りは当然収まることなど無いらしい。
「何でこんなベタかつ女の子の怒りをかうようなことを平然とやってのけるかなああアアアアぁぁぁァァ!!!!」
外国人っぽいのに、何故か風呂に入るという予想の斜め上の行動を見せた天使様の理不尽な怒りの矛先は、当然の如く僕へと向かった。
僕は、天使というのは今まで見たこと無かったから知らなかった。
けれど、僕はこの日、初めて天使というのがどんな存在なのか知ったような気がする・・・