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[8]継承

 ノーブルの姿が消えても、髭面の男は動こうとしなかった。蓮と香奈は家の中から窓越しに様子を伺っていたが、いつまでも動こうとしない男を不審に思い、外に出てゆっくりと近づいていった。男は庭の真ん中で項垂れたままピクリとも動かない。だが、二人が男に手が届く程の距離まで近づいた時、男の唇が微かに揺れた。

「え? なに?」

 香奈が男の顔に耳を寄せる。男の声は、静かにそよぐ風の音にすら掻き消されてしまいそうなほど小さかった。それでも何とか聞きとった内容を蓮に伝える。

「なんか、蓮に用事みたい」

「俺に?」

 警戒しつつも、蓮は男の顔に耳を近づけた。

「……君が名伏の後継者か」

 男の言葉は質問というよりは、自身への確認に近かった。蓮が戸惑っている間に、男は言葉を紡いでいく。

「少年よ、私はこれより罪を犯す。私は私の、いや、私が背負う数え切れない人々の望みを、使命を果たすために君を巻き込む。たとえ君に怨まれようとも、私はやめるつもりは無い。これは君にしか出来ない事なのだ。」

 男の声は小さいままだったが、蓮はその言葉の中に力強い意思を感じていた。

「少年よ、よく、聞くのだ、ワレワレは、長いあ、いだ、、、たたか、、、、が、、おそら、、、、もう、、じか、、、がな、、しょ、、、た、、ん、、だ、、、、、、、、、、、」

 男の声は所々ノイズが混じって、やがて完全に聞こえなくなってしまった。ノイズが増えるにつれて男の体はその存在自体が希薄になり、最後にはまるで霞のように消え去った。蓮も香奈も、何が起こったのか理解出来ずに目を白黒させている。

「何、今の……? おじさんはどこ行っちゃったの?」

 蓮は無言でその場に屈みこんだ。ほんの数秒前まで男が立っていた筈の場所を見つめる。そこには、一冊の古ぼけた分厚い本が落ちていた。蓮は本を拾うと、しばらく表紙を触ったりしていたが、不意に立ち上がって香奈の方に振り返った。

「……部屋に戻ろう、香奈。落ち着いて、ゆっくり考えたい」

 そう言うと、香奈の返事を待つことなく家の中に戻っていった。

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