表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/9

[7]追手

「君は、さっきの私の話を全然信じていないのだろう?」

 愉快なショウでも見ているかのような男の笑いを、何故か蓮は不気味に感じた。なるべく感情が出ないようにして、蓮は男に言葉を反す。

「全く、というわけではありませんが、大部分についてはその通りです」

「別に気にすることは無いよ、確かに私は嘘を吐いていたのだから」

 あっさりと、男は自ら偽りを認めた。

「今度こそ本当の事を話そう。私の任務はある物を探して、処分することだ。一度は見つけたんだが、あと一歩というところで逃げられてしまった。その時のダメージで倒れてしまい、君達と出会ったのさ」

 蓮は男を睨みつける。珍しく不機嫌な彼を、香奈は意外そうに見つめていた。

「ある物とはなんですか?」

「なんなのかは分かっていない。ただ、それは世界を滅ぼしかねない力を秘めている。組織では、そういった強い力を持っている物を回収し、封印しているんだ。それらが悪用されたりすることのないようにね。因みに、さっき説明した霊の管理というのも嘘ではないよ。」

 男の笑顔は崩れてはいない。しかし、男の二人に対する視線は確実に鋭さを増していた。

「と言ったところで、蓮くんは信じてなどいないのだろうね」

 男はわざとらしく溜息を吐き、両手をあげて降伏のポーズをとってみせた。その仕草はまるで道化のようである。

「蓮くん、僕の言葉はどの位嘘なのだと思う?」

「わかりません。あなたの言葉はどれも胡散臭すぎる」

「ま、君にとってはそうだろうね。でもね蓮くん、実は僕は殆ど嘘は言ってないのだよ。すこーしだけ言ってない事があるだけさ」

 男の軽口にも、蓮は反応を示さない。男は少しつまらなそうな、残念そうな表情を見せた。

「まいったね、これさえも信じてもらえないのか。もう何を言っても無駄かな?」

「名前」

 短く、呟くように答える。

「あなたの名前くらいは信じてあげますよ」

 男の表情が一瞬固まって、再び愉快そうに笑い出す。

「そうか、そういえばまだ名乗っていなかったね。改めて自己紹介しよう、僕はノーブル。一応組織ではナンバー3の位置にいるんだ」

 道化は、深くお辞儀すると窓を開けて名伏家の広い庭に出た。後ろを向いたまま、蓮達に語りかける。

「一つ忠告しておこう、今すぐ家中の窓と扉を閉めて鍵をかけたほうがいい。そして暫くは外へ出てこないように。でないと」

 ―――死んじゃうよ

 その言葉と同時に、男がいた場所に大きなクレーターができた。轟音が響き渡る。床が揺れる。蓮はたまらず尻餅をついた。痛みに顔を歪めながら香奈に向かって叫ぶ。

「香奈! 窓を閉めるんだ!」

 香奈はすぐに窓を閉め、鍵をかけた。それから二人は男に言われたとおりに窓と扉に鍵をかける。再びリビングに戻って、窓から少し離れた所から庭の様子を窺う。この数分間で、先程と同じ轟音が何度か聞こえてきた。それと同じ数だけ庭にはクレーターが増えている。加えて、芝生や壁が所々黒く焦げていた。二人は唖然として庭で起きている事を眺める。二人の男が庭を縦横無尽に駆け巡り、何の前触れも無く壁や地面が抉られたり焼け焦げたりする。しばらくして、フリーズしていた頭がようやく働き始めた。これが彼の言っていた『任務』なのだ。碧眼の男―――ノーブルと争っているのは、もう春だというのに薄汚れたコートを着込んでいる髭面の男。二人の動きはあまりにも速く目で追うのがやっとだったが、よく見ればクレーターと焼け焦げはそれぞれノーブルと髭面の男を狙って現れているようだ。ノーブルが叫ぶ。

「今度こそ渡してもらうよ!」

 今までよりも広範囲に焼け焦げが広がる。同時に火花のようなものが辺りに散った。どうやら焼け焦げの正体は電撃だったらしい。地面を這う電撃を髭面の男は横方向に跳躍して避ける。

「お前達のようなペテン師集団に渡すわけにはいかん!」

 ノーブルの周りに小さなクレーターが無数に出現し、彼の動きを一瞬だけ止める。その一瞬の間に、髭面の男は長大な剣を振り下ろした。ノーブルは後方に跳び退るが、一瞬間に合わず左足に傷を負ってしまった。

「踏み込みが浅かったか」

 髭面の男がノーブルを見据えて剣を構え直す。ノーブルは顔を歪めて忌々しげに舌打ちした。

「…此処では分が悪い、退かせてもらうよ」

 そう言い残すと、ノーブルは壁を飛び越えて名伏家から去っていった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ