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[5]介抱

[5]介抱

 次に男が目覚めた時には、もうすっかり日が暮れてしまっていた。見知らぬ家のソファーに横たわっている。隣の椅子には昼に出会った少年が黙々と読書していた。はっきりしない頭で少年を眺めていると、少年は男が目覚めたことに気が付いたようだ。

「あぁ、気が付いたんですね」

 よかった、と笑いかけてくる。たしか名伏 蓮といったか。それともう一人、元気な娘がいた筈だ。

「あ! おじさん起きたの!?」

 蓮に呼ばれて返事をする声が聞こえる。上月 香奈、彼女はどうも霊であるようだった。徐々に思考がクリアになってきた。そうか、自分は彼らの前で倒れてしまって、そのまま家まで連れて来られたんだな。額に乗っているタオルはまだ冷たい。あの少年が傍で看病してくれていたのか。香奈が男の顔を覗き込む。

「おじさん、大丈夫? まだちょっと顔色が悪いよ?」

 男は苦笑した。これほど真剣に誰かを心配する目を見たのはずいぶんと久しぶりな気がする。

「私はもう大丈夫だ。迷惑をかけてすまなかった」

男は上体を起こそうとするが、蓮がそれを手で制した。失礼します、と男の額に手を当てる。

「無理しないでください、まだ少し熱があります。よかったら、今夜はウチに泊まって下さい」

「いや、しかしこれ以上、君達に迷惑をかけるわけには…」

 男は遠慮していたが、香奈が男の言葉を遮った。

「私達は全然平気だよ、どうせ蓮だけじゃこの家の半分も使ってないんだから。こういう時は、遠慮せずに甘えればいいの」

 男は少し困惑していたが、同時に心の中で穏やかな温もりが湧いているのを感じてもいた。十数年ぶりに触れる人間の思い遣りは、彼にとっては一種のカルチャーショックにも似たものだった。

「食欲はありますか? お粥くらいなら作れますけど」

 連の申し出に一瞬戸惑ったものの、男は快い笑みで返事を返した。

「ああ、それでは遠慮なく甘えさせてもらうよ」

 こうして、男は何かと世話を焼かれながら名伏家での一夜を過ごした。

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