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[2]放浪

 夜の街を一人で歩く。服も、靴も、その体すらもボロボロになりながら。おぼつかない足取りで歩き続ける彼は、周囲の人間からは浮浪者のようにでも見えるのだろう。ある者は同情、ある者は嘲笑、ある者は怪奇に出会ったような顔で遠巻きに彼を見ている。そんな中、三人の少年が彼に近付いてきた。三人はそれぞれがいかにも不良といった服装をしており、軽薄な笑みを浮かべていた。

「ねぇおっさん、クスリ買わない?」

 彼は答えない。彼は少年達の言葉を無視して前に進む。否、彼の耳には如何なる音も届いてはいなかった。少年達は彼の周りを取り囲むようにして彼の後を追っていく。

「い〜いのがあるんだよ、今なら安くしとくよ〜?」

 少年達は挑発するような口調で喋り続ける。どうやら彼を麻薬中毒者と勘違いして、ドラッグを売りつけようとしているらしい。だが、なんの反応も示さない彼に、三人は次第に苛立ちを感じだした。

「んだよ、もうなんかキメてんのかよぉ?」

「おい、何とか言えよおっさん」

 少年の一人が彼の肩を掴む。が、少年の手はバネ仕掛けのように彼の体から離れた。少年が叫び声をあげる。少年の掌は火傷の痕のように皮膚が爛れていた。残りの二人が、彼に殴りかかる。しかし、彼に手が届く一歩手前で何かに足をすくわれるように転倒した。なんとか両手を地面について顔面を殴打するのは免れた二人だったが、ちょうどその時、側にあったブロック塀が彼らに向かって崩れてきていた。背中にコンクリートブロックの受け、もはや悲鳴も出ない二人と、超常現象の目撃者となり呆然としているもう一人を尻目に、彼はひたすら歩き続ける。頼りは遥か遠くから感じる微かな気配。強靭な精神力でもって傷ついた体を引きずっていく。彼の腕の中には一冊の分厚い本が抱かれていた。ほとんどうめき声のように呟く。

「…渡さねば。なんとしても…守らなくては」

 自らの使命を果たすべく、彼は夜の街を一人で歩く。

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