婚約破棄されることは知っていましたので、証拠を全部揃えておきました! ?〜前世でやりこんだ乙女ゲームの結末を知る転生令嬢は、元婚約者も聖女も逃がしませんわ!〜
「エヴァンジェリン・ハートウェル! 貴様との婚約は、本日をもって破棄する!」
婚約者だった第一王子レオポルド殿下がそう宣言した瞬間、わたくしの中で前世の記憶が弾けるように蘇った。
(――ああ、やっぱりここは『白百合の誓い』の世界でしたのね)
前世、わたくしはこの乙女ゲームを隅々までやり込んだヘビープレイヤーだった。そして、この断罪劇の裏に潜む真犯人が誰かも、既に知っている。
「証拠ならここにある! 平民出の令嬢コーラリーへの暴行.......複数の証言が揃っているぞ!」
得意げに掲げられた証言書を一瞥して、わたくしは静かに微笑んだ。
「あら殿下、随分と急いていらっしゃいますことね。まずは、その証言を集めた経緯からお伺いしてもよろしいかしら?」
「し、証言を集めた経緯とは......どういう意味だ......!?」
「ふふふ、殿下はそんなこともご存知ありませんの? 証言というものは、時に金銭や脅しで簡単に捏造できるものですのよ」
「な、何を根拠に、そのような……!」
「根拠は、これから存分にお見せいたしますわ。少々、お時間をいただけまして?」
余裕綽々のわたくしの態度に、会場は困惑の色を強めていった。断罪される予定の令嬢がこれほど落ち着き払っているとは、誰も予想していなかったのだろう。
わたくしはそう告げたのち、手にしていた書類の束を静かにまとめ、持ち上げた。
「まずは、殿下がわたくしを断罪する根拠としてお示しになった、その証言についてですわね」
「お、お前は一体.....な、何をするつもりだ……?」
「決まっておりますでしょう? その証言が、いかに信用ならないものなのかを証明するのですわ」
そう言って、わたくしはゆっくりとコーラリー嬢へ視線を向ける。
先ほどまで涙を浮かべ、いかにも傷ついた令嬢を演じていた彼女は、わたくしと目が合った瞬間、ほんの僅かに肩を震わせた。
――その反応だけで十分だった。
けれど、ここで感情に任せて追及するつもりはない。
必要なのは、誰が見ても覆しようのない証拠を、一つずつ積み重ねること。
わたくしは書類の一枚目を取り出し、会場全体に見えるよう掲げた。
「――と申しますのも、コーラリー様。あなたが証言を金銭で買収なさっていた記録、既に手元に揃っておりますの」
わたくしが淡々と告げると、震えながら涙を流していたコーラリー嬢の顔から、一瞬にして表情が抜け落ちた。
「な……なぜ、それを……!?」
前世の記憶を持つ身としては、造作もないことである。ゲームのシナリオでは、この場面で「実は真犯人はヒロインだった」という衝撃の真実が明かされる。わたくしはただ、その筋書き通りの証拠を、先回りして集めておいただけのことだ。
「殿下、こちらをご覧くださいませ。コーラリー様が、複数の令嬢たちに金を渡し、わたくしを陥れる証言をさせていた記録ですわ。しかも――」
わたくしは書類の束を、さらに一枚めくった。
「それだけではございませんの。コーラリー様、あなた、教会の孤児院の運営資金にも手を出していらっしゃいましたわね。横領した金額ーーー」
「っ.....!? そ、それだけは....! やめーー」
「ーー実に金貨三百枚」
「な……なぜ、そこまで……!?」
「あら、驚くようなことでしょうか? ご自分でなさったことですのに」
コーラリー嬢は完全に言葉を失い、その場に崩れ落ちた。
「し、しかし証拠だけでは、そこまで断定できないのでは……」
なおも食い下がろうとする周囲の貴族に、わたくしは静かに追加の書類を差し出した。
「ふふふ、まだ疑わしいと仰るなら、こちらの帳簿の写しもご覧に入れますわ。買収の日付、金額、受け取った令嬢たちの署名......全て一致しておりますのよ」
完璧に揃えられた証拠の数々に、会場は完全に沈黙した。
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「そ、それでも、コーラリーは私を愛してくれた……! お前とは違うんだ.....!」
往生際悪く食い下がるレオポルド殿下に、わたくしは冷ややかな視線を向けた。
「あら殿下、まだお気づきになりませんの? 彼女の『愛』とやらは、殿下を利用して玉座に近づくための、計算尽くの演技でしたのよ」
「なっ……!?」
「その表情.....実に滑稽ですわね。証拠は他にもございますわ。コーラリー様が友人に宛てた手紙、そこには『王子を骨抜きにして、あの生意気な婚約者を蹴落とす』と、はっきり記されておりますの」
わたくしが手紙を掲げると、会場中がどよめいた。レオポルド殿下は、信じられないという顔でコーラリー嬢を見つめている。
「信じていた婦人令嬢にすら裏切られて、今どのような心境なのでしょうね? 殿下......ぜひお聞かせ願います」
「っ......そ、それは……その、殿下への愛が本物だからこそ、ライバルを排除しようと……!」
苦し紛れの言い訳に、わたくしは思わず失笑した。
「あら、随分と都合の良い解釈ですこと。ですが、横領と証言買収は、愛という単なるニセモノでは正当化されませんわよ」
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「――というわけで、これより、正式な断罪を執り行わせていただきますわ」
わたくしは静かに、しかし有無を言わさぬ声音で告げた。
「コーラリー・ベルモント。教会資金の横領、複数名への贈賄、貴族への虚偽告発.......これらの罪により、爵位はもとより男爵家からの追放、全財産の没収、そして北部鉱山にて終身の労役を科しますわ」
「そ、そんな……!? 死ねと仰るのと同じではありませんか!」
「あら、死刑ではございませんもの。生きて罪を償っていただくだけですわ。むしろ、慈悲深いと思っていただきたいくらいですけれどね?」
にっこりと微笑むわたくしに、コーラリー嬢は絶望の表情で崩れ落ちた。
「そして殿下。証拠もなく婚約者を断罪しようとした軽率さ、加えて国庫に関わる横領事件を見抜けなかった不明.......この責任は、王太子の座からの解任という形で、償っていただくことになりますわね」
「な……私が、王太子の座を……!?」
「ふふふ、当然の帰結ですわ。むしろ、これまで築いてきた信頼を、たった一晩の茶番で全て失ったことを、深く反省なさるべきかと」
会場中の貴族たちが、一斉にレオポルド殿下から視線を逸らした。手のひらを返すのは、いつだって早いものである。
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「――さて、これにて一件落着ですわね」
沙汰が下された後、わたくしは静かに息をついた。前世の知識をもってすれば、この程度の陰謀を暴くことは造作もない。だが、今回ばかりは、生半可な決着で済ませるつもりはなかった。
「エヴァンジェリン嬢.......随分と容赦のない裁定でしたね」
声をかけてきたのは、証拠集めに協力してくれた宰相補佐のヴィンセント様だった。
「あら、容赦する理由がございませんもの。証拠もなく人を陥れようとした罪、生半可な罰では釣り合いませんわ」
「それにしても、鉱山送りとは........随分と徹底しておられる」
「随分とおかしいことを言うのね? 死刑にしないだけ、相当に情け深いと思っておりますのよ」
にっこりと微笑むわたくしに、ヴィンセント様は苦笑しながらも深く頷いた。
「エヴァンジェリン嬢の敵に回ることだけは、絶対に避けねばなりませんね」
「ふふふ、敵にさえならなければ、大層優しい人間のつもりですわよ」
冗談めかして返すと、ヴィンセント様はとうとう声を立てて笑った。冤罪から始まった断罪劇は、こうして、これ以上ないほど徹底した“断罪”という形で幕を閉じたのである。
「――さて、次に誰かがわたくしを陥れようとした時は、今回以上に容赦しないと決めておりますの」
不敵な笑みを浮かべるわたくしを、夕暮れの光が静かに照らしていた。
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「徹底した断罪最高!」「ヴィンセント様との関係は!?」など、感想コメントもお待ちしております!
レオポリド殿下とコーラリー嬢の今後やヴィンセント様との関係など、まだまだ書きたいことがございます。よろしければ作者フォローもしていただけると幸いです!
それでは、また次のお話でお会いしましょう!




