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婚約破棄されることは知っていましたので、証拠を全部揃えておきました! ?〜前世でやりこんだ乙女ゲームの結末を知る転生令嬢は、元婚約者も聖女も逃がしませんわ!〜

作者: しろ
掲載日:2026/08/27

「エヴァンジェリン・ハートウェル! 貴様との婚約は、本日をもって破棄する!」


 婚約者だった第一王子レオポルド殿下がそう宣言した瞬間、わたくしの中で前世の記憶が弾けるように蘇った。


(――ああ、やっぱりここは『白百合の誓い』の世界でしたのね)


 前世、わたくしはこの乙女ゲームを隅々までやり込んだヘビープレイヤーだった。そして、この断罪劇の裏に潜む真犯人が誰かも、既に知っている。


「証拠ならここにある! 平民出の令嬢コーラリーへの暴行.......複数の証言が揃っているぞ!」


 得意げに掲げられた証言書を一瞥して、わたくしは静かに微笑んだ。


「あら殿下、随分と急いていらっしゃいますことね。まずは、その証言を集めた経緯からお伺いしてもよろしいかしら?」


「し、証言を集めた経緯とは......どういう意味だ......!?」


「ふふふ、殿下はそんなこともご存知ありませんの? 証言というものは、時に金銭や脅しで簡単に捏造できるものですのよ」


「な、何を根拠に、そのような……!」


「根拠は、これから存分にお見せいたしますわ。少々、お時間をいただけまして?」


 余裕綽々のわたくしの態度に、会場は困惑の色を強めていった。断罪される予定の令嬢がこれほど落ち着き払っているとは、誰も予想していなかったのだろう。


 わたくしはそう告げたのち、手にしていた書類の束を静かにまとめ、持ち上げた。


「まずは、殿下がわたくしを断罪する根拠としてお示しになった、その証言についてですわね」


「お、お前は一体.....な、何をするつもりだ……?」

「決まっておりますでしょう? その証言が、いかに信用ならないものなのかを証明するのですわ」


 そう言って、わたくしはゆっくりとコーラリー嬢へ視線を向ける。


 先ほどまで涙を浮かべ、いかにも傷ついた令嬢を演じていた彼女は、わたくしと目が合った瞬間、ほんの僅かに肩を震わせた。


 ――その反応だけで十分だった。


 けれど、ここで感情に任せて追及するつもりはない。

 必要なのは、誰が見ても覆しようのない証拠を、一つずつ積み重ねること。

 

 わたくしは書類の一枚目を取り出し、会場全体に見えるよう掲げた。


「――と申しますのも、コーラリー様。あなたが証言を金銭で買収なさっていた記録、既に手元に揃っておりますの」


 わたくしが淡々と告げると、震えながら涙を流していたコーラリー嬢の顔から、一瞬にして表情が抜け落ちた。


「な……なぜ、それを……!?」


 前世の記憶を持つ身としては、造作もないことである。ゲームのシナリオでは、この場面で「実は真犯人はヒロインだった」という衝撃の真実が明かされる。わたくしはただ、その筋書き通りの証拠を、先回りして集めておいただけのことだ。


「殿下、こちらをご覧くださいませ。コーラリー様が、複数の令嬢たちに金を渡し、わたくしを陥れる証言をさせていた記録ですわ。しかも――」


 わたくしは書類の束を、さらに一枚めくった。


「それだけではございませんの。コーラリー様、あなた、教会の孤児院の運営資金にも手を出していらっしゃいましたわね。横領した金額ーーー」


「っ.....!? そ、それだけは....! やめーー」


「ーー実に金貨三百枚」


「な……なぜ、そこまで……!?」


「あら、驚くようなことでしょうか? ご自分でなさったことですのに」


 コーラリー嬢は完全に言葉を失い、その場に崩れ落ちた。


「し、しかし証拠だけでは、そこまで断定できないのでは……」


 なおも食い下がろうとする周囲の貴族に、わたくしは静かに追加の書類を差し出した。


「ふふふ、まだ疑わしいと仰るなら、こちらの帳簿の写しもご覧に入れますわ。買収の日付、金額、受け取った令嬢たちの署名......全て一致しておりますのよ」


 完璧に揃えられた証拠の数々に、会場は完全に沈黙した。


 ---


「そ、それでも、コーラリーは私を愛してくれた……! お前とは違うんだ.....!」


 往生際悪く食い下がるレオポルド殿下に、わたくしは冷ややかな視線を向けた。


「あら殿下、まだお気づきになりませんの? 彼女の『愛』とやらは、殿下を利用して玉座に近づくための、計算尽くの演技でしたのよ」


「なっ……!?」


「その表情.....実に滑稽ですわね。証拠は他にもございますわ。コーラリー様が友人に宛てた手紙、そこには『王子を骨抜きにして、あの生意気な婚約者を蹴落とす』と、はっきり記されておりますの」


 わたくしが手紙を掲げると、会場中がどよめいた。レオポルド殿下は、信じられないという顔でコーラリー嬢を見つめている。


「信じていた婦人令嬢にすら裏切られて、今どのような心境なのでしょうね? 殿下......ぜひお聞かせ願います」


「っ......そ、それは……その、殿下への愛が本物だからこそ、ライバルを排除しようと……!」


 苦し紛れの言い訳に、わたくしは思わず失笑した。


「あら、随分と都合の良い解釈ですこと。ですが、横領と証言買収は、愛という単なるニセモノでは正当化されませんわよ」


 ---


「――というわけで、これより、正式な断罪を執り行わせていただきますわ」


 わたくしは静かに、しかし有無を言わさぬ声音で告げた。


「コーラリー・ベルモント。教会資金の横領、複数名への贈賄、貴族への虚偽告発.......これらの罪により、爵位はもとより男爵家からの追放、全財産の没収、そして北部鉱山にて終身の労役を科しますわ」


「そ、そんな……!? 死ねと仰るのと同じではありませんか!」


「あら、死刑ではございませんもの。生きて罪を償っていただくだけですわ。むしろ、慈悲深いと思っていただきたいくらいですけれどね?」


 にっこりと微笑むわたくしに、コーラリー嬢は絶望の表情で崩れ落ちた。


「そして殿下。証拠もなく婚約者を断罪しようとした軽率さ、加えて国庫に関わる横領事件を見抜けなかった不明.......この責任は、王太子の座からの解任という形で、償っていただくことになりますわね」


「な……私が、王太子の座を……!?」


「ふふふ、当然の帰結ですわ。むしろ、これまで築いてきた信頼を、たった一晩の茶番で全て失ったことを、深く反省なさるべきかと」


 会場中の貴族たちが、一斉にレオポルド殿下から視線を逸らした。手のひらを返すのは、いつだって早いものである。


 ---


「――さて、これにて一件落着ですわね」


 沙汰が下された後、わたくしは静かに息をついた。前世の知識をもってすれば、この程度の陰謀を暴くことは造作もない。だが、今回ばかりは、生半可な決着で済ませるつもりはなかった。


「エヴァンジェリン嬢.......随分と容赦のない裁定でしたね」


 声をかけてきたのは、証拠集めに協力してくれた宰相補佐のヴィンセント様だった。


「あら、容赦する理由がございませんもの。証拠もなく人を陥れようとした罪、生半可な罰では釣り合いませんわ」


「それにしても、鉱山送りとは........随分と徹底しておられる」


「随分とおかしいことを言うのね? 死刑にしないだけ、相当に情け深いと思っておりますのよ」


 にっこりと微笑むわたくしに、ヴィンセント様は苦笑しながらも深く頷いた。


「エヴァンジェリン嬢の敵に回ることだけは、絶対に避けねばなりませんね」


「ふふふ、敵にさえならなければ、大層優しい人間のつもりですわよ」


 冗談めかして返すと、ヴィンセント様はとうとう声を立てて笑った。冤罪から始まった断罪劇は、こうして、これ以上ないほど徹底した“断罪”という形で幕を閉じたのである。


「――さて、次に誰かがわたくしを陥れようとした時は、今回以上に容赦しないと決めておりますの」


 不敵な笑みを浮かべるわたくしを、夕暮れの光が静かに照らしていた。

 最後まで読んでいただき、ありがとうございます!


 もし少しでもスカッとしたり、ニヤッとしたりしていただけましたら、評価ポイントとブックマークをいただけると、次の話を書く一番の励みになります!


「徹底した断罪最高!」「ヴィンセント様との関係は!?」など、感想コメントもお待ちしております!


 レオポリド殿下とコーラリー嬢の今後やヴィンセント様との関係など、まだまだ書きたいことがございます。よろしければ作者フォローもしていただけると幸いです!


 それでは、また次のお話でお会いしましょう!

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