■ 第3話:閉ざされた内側
管理区域へ続く通路は、空気が違った。
人の気配がない。
音も、ほとんどしない。
「……ほんとに行くの?」
後ろから、カナの小さな声。
レイは止まらない。
「ここまで来たらな」
短く答える。
進むほどに、光は少しずつ暗くなる。
普段の生活区画とは、明らかに違う。
管理区域——
そこは、普通の住人が入る場所じゃない。
扉の前で、レイは立ち止まった。
ロックがかかっている。
「やっぱり……無理だよ」
カナが言う。
そのとき——
ピッ、と小さな音がした。
扉の表示が変わる。
解錠
「……え?」
カナが息をのむ。
レイも、言葉を失った。
「なんで……」
触れてもいない。
なのに、開いた。
ゆっくりと、扉が横にスライドする。
中は、静かだった。
機械の低い音だけが、かすかに響いている。
二人は顔を見合わせる。
戻ることもできた。
でも——
レイは、一歩踏み出した。
「レイ……」
カナも、ついてくる。
中は広かった。
見たことのない装置。
並ぶモニター。
流れるデータ。
そのひとつに、レイは目を止めた。
外部観測ログ。
画面に映っているのは——
あの“構造物”。
はっきりと記録されている。
しかも——
「……前から、ある?」
表示された日付は、かなり前だった。
昨日じゃない。
もっと前。
ずっと前から、そこにあった。
「そんな……」
カナの声が震える。
「じゃあなんで……誰も……」
レイは画面をスクロールする。
ログは、途中で途切れていた。
不自然に。
「消されてる……?」
その瞬間——
警告音が鳴った。
短く、鋭い音。
『未許可アクセスを検知』
空気が変わる。
「まずい……!」
カナがレイの腕をつかむ。
通路の奥で、何かが動く音。
足音。
人じゃない、規則的な動き。
「来る……!」
レイは画面を閉じる。
「戻るぞ!」
二人は走り出した。
さっき入ってきた扉へ。
だが——
閉じている
「うそだろ……」
ロックがかかっていた。
さっきとは逆に。
完全に閉ざされている。
足音が、近づく。
逃げ場はない。
レイは周囲を見回す。
そして、低く言った。
「隠れるぞ」
カナはうなずく。
二人は機械の影に身を潜めた。
音が近づく。
規則的な足音。
視界の端に、何かがよぎる。
それは——
見たことのない、監視機構だった。
人ではない“何か”が、
この場所を見張っている。
息を殺す。
動けない。
ただ、やり過ごすしかない。
未完成の世界の奥で——
触れてはいけないものに、近づいてしまった。




