日々にて
(なにか言い訳を探しているよね、そうして行動をしない君はとても哀れだ)
無音の部屋に突然エアコンの音が響く、湿気を纏う空気を一掃するために動き出したそれはしかし、私の内なる声を消し飛ばしてはくれない。
(なにせ……かかる。いたく競り合う……混戦が、ちょっと最高の……季節、抵抗)
意味のない言葉がまるでモヤのように飛び交う、それにかまっている暇はないというのに、しかしそれらから目を背けることはできないようで、よって混乱する。
(だってそれは回避するのにちょうどいいから、思考をジャミングすれば何もわからないでいられるもんねぇ)
そう意地悪く言う。
それが私の一部であるということをいい加減私は認めなくてはならない。
そろそろ動こうか?
そう考えても外は雨、近くにはコンビニ。
買う商品は高くて……それが自分の肯定感を下げるような気がして否定する。
(なにか変じゃない? 特に肯定感を下げるような気がして否定って、本末転倒だよ)
頭の中で文章をこねくりまわし、それを辞めることができない。
(別にいいじゃない、お金をかけて楽しい思いをすれば、2、3ヶ月遊んで暮らせるくらいの貯金は余裕にあるだろう?
まるで十字架を背負っているように君はお金を使わないね……)
そういう自分の声は、どこか悲しそうな音色をしていた。
(本当はしたいことがいくつもある癖に……。
バイクを買いたい、そうしてカラオケに行きたい、外へ散歩やドライブに行って思いっきり自由を噛み締めたい。
美味しいうどん・ラーメンが食べたい、猫を飼いたいetc.……)
「……ぜんぶ、お金が掛かるな」
そう、やっと声に出た。
お金に嫌悪感を抱いているとか、そういうわけではなく。
他人のためにはお金を抵抗なく使えるのに、自分のためになると途端に……足が竦んで立ち尽くすかのように慎重になる。
・・・・。
天気予報が降らないって言ったら、ちょっとコンビニに向かうか。
――――
「散歩に行ってきます」
そう管理人さんに向けて、……思ってもいない言葉が出た。
私はコンビニに行くのであって降水確率80%、この曇り空の中散歩をするつもりはサラサラなかったのだ。
しかし言葉にしてしまった以上、その任務を遂行しなくてはいけない気がしてくるから、言葉というものは怖い。
そう思いながら歩いて3分、かかるかかからないかのところにコンビニはある。
商品を見てどれも高い!!! ドラッグストアで買えばもっと節約できる……コレは否定的だろうか?
それとも単純に私という人間がコンビニエンスに適応できていないだけなのだろうか?
商品を物色しようにも店員のおばちゃん&おじさんの目がなんとなく痛々しいものを見るようなそれに感じられて、被害妄想のまま店を出た。
――――
(……仕切り直し……)
なぜかそう考えていた。
この曇天の中……任務のように感じられた散歩を遂行したその後、コンビニに寄れば……商品を買うよくわからん勇気が出るかもしれない…。
しかしいざ散歩に出て田舎道を分け入ろうとしていると、田舎特有?の家建築ラッシュに、勝手知ったらない新しい我が街も侵されているようだ。
大工さんが湿っぽい空気の中黙々作業していたり、どこの会社か判別付かない配達員の方が新築の家に商品を運んでいたりと……昼下がりの住宅街はなにやら忙しそうでちっとも独りになれない。
わたしは独りになって、ただ外の空気を全身で貪るように自由を味わいたかった、まぁくもりだけど。
その願いは新幹線の高架下に歩みを進めることで、達成できることになる。
高架線の足元とやらは入り組んでいる。所々入れなくなっていたり、あるいは農業排水のために道が分断されていたりしていた。
その道をぼんやりと歩いているさなか、ミミズがアスファルトの上でクネクネしているのを見つけた、大きい……。
明日は晴れだ。
きっと……きっとあしたにはこのミミズは干上がってしまうだろう。
そうしてなにか人に見られて、
(あぁ……なんかミミズ干されてるわ。なんで毎回死ぬんやろなミミズってこうやって……)
とか思われて、その数瞬後には忘れ去られているのだろう……。
それが今の私と重なった。なんとなく、重なったのだ。
私は持ってきていた傘を使って、くるくるとミミズを動かし、少なくとも死なないであろう、かつカラスなどの餌にもならないであろう水の流れの中に放り込んだ。
これがミミズを助けたことにはきっとならないだろう、しかし何故か私は誇らしくなって、
(コンビニへ向かおう)
そう思えたのだった。
いつの間にか心中にある否定の声は、消えていた。
――――
そうしてなんとか、フェアをしていたコンビニスイーツに目が留まり、買って帰路について……私はまた文字を打っている。
(25%増量らしい。それでこのお値段はお得だな……お得と感じられる商品しか自分は変えないんだな……)
そう自嘲気味に後ろの栄養線分表示を見ると……
「……623キロカロリー!!!??」
予想を超えた数字にびっくりしつつも、美味しくいただいだわけだが……。
散歩の意味とは如何に。
――――
(ここで終わりとしたい)