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9 滅びの日

石造りの教会に鳴り響いた鐘の音で私は目を覚ます。


「ミシェル、おはよう。」


私の枕元に来たサリーがいつもの柔らかな笑顔を見せる。


「おはよう、サリー。」


「体調は平気?

昨日も一日中寝てたから心配してたんだよ。」


「うん、もう大丈夫。」


「じゃあはやく行こう。」


サリーと手を繋いで大聖堂へかけた。


一日の始まりは大聖堂の掃除だ。

子どもたちは冷たい井戸水にきゃあきゃあと声を上げながら雑巾を絞り、床を磨く。


登り始めた日の光がステンドグラスに差し込んだとき、6時の鐘がなる。

お祈りの時間だ。


大聖堂に白い聖服をきたマザーが入ってきた。

白髪まじりの髪をきっちりと束ねたマザーは、柔らかな声で「前任者に代わって、今日からわたくしが皆様のお世話をさせていただきます。どうぞよろしく。」と頭を下げた。


お祈りが終わると、マザーは私たちにお説教をしてくださった。


お説教のあとはやっと朝食。

今朝のメニューもパンと牛乳、それと少しの野菜。 


皿洗いと洗濯をしたら、お勉強と歌の練習。

次に食堂と宿舎の掃除。

夜のお祈りをして、1日が終わる。 


何事もない、いつも通りの退屈なほど穏やかな一日。

メスィドール15日はこうして過ぎていった。





世界滅亡が予言された日から一週間が立ったある日、教会の大聖堂は少しざわついていた。

中心に子どもたちが集まって楽しげな声をあげている。


「ねぇ、どうしたの?」


私が聞くと輪の中にいたサリーが明るい声で答える。


「ノアが帰ってきたんだよ!」


身体がこわばった。

久しぶりに兄弟に会えたことを喜ぶ子どもたちの輪の中心に、あの小柄な巻き毛の少年がいた。


「やぁ、ミシェル。

久しぶりだね。」


ノアは飄々と笑って手を振って見せた。


「何か言いたいことがあるみたいだね。

場所を変えようか。」



ガーゴイルが並ぶバルコニーからは王都全体が見渡せる。

その見晴らしのいい場所で私はノアと対峙していた。


「予言がはずれてがっかりした?」


ノアはあの余裕そうな態度で「ほっとしたよ。」と返す。


「僕は失敗しないわけじゃないんだ。

でも、ルーカスが僕を信じてるから必ず目的を達成しなきゃ。」


まるで目的は達成できたかのような口振りに驚愕する。


「ノアの目的は世界滅亡じゃないの。」


「まさか。

僕にそんなことはできないよ。

それに連続放火事件が起こったくらいじゃ世界は滅んだりしないでしょ。

僕の目的は予言をはずすことだ。」


「予言をはずすこと?

なんのために?」


「いまにわかる。」


眉を寄せる私にノアは肩をすくめてみせて、「この一週間はどうだった?」と問いかける。


「最悪だったわ。」


「へぇ、どうして?」



「地位のある聖職者たちが連続放火事件を起こしたことと予言がはずしたことで教団は完全に信頼を失ったわ。

怒った人々が教会に嫌がらせに来ることもあったの。

私たちは怯えながら過ごしてたんだよ。

これもあなたの計画のうちなの?」


ノアは冷めた声で「そうだよ。」と頷く。


「心配しなくとも、嫌がらせはもうすぐ終わるよ。」


口を開こうとした私を遮って、「ほら、もうはじまる。」と城の方を指差した。

ちょうどそのとき、街頭に設置された拡声器から皇太子の演説が流れ出した。


『3年前、私は敵国より神の地を奪還することに成功した。

その神の地に私は新たに教会を建てた。

今日よりその教会を開き、この国の信仰の中心とする。

新たな教会の最高責任者は私自身が勤める。

我が国における教会の人事および財産の管理は私が責任を持つ。

これより我が国は教団からの分離独立を宣言する。』


皇太子の言葉に拍手喝采する人々を見下ろして、ノアは満足げに口角を吊り上げる。


「みてよ、ミシェル。

今日が教団の命日だ。」


そして彼は皮肉を込めて祈りの言葉を口にした。







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