8 ノストラダムス
「ノストラダムスは僕だ。」
ノアはニタリと笑って言った。
「予言の書を書いて国中にばら撒いたのはあなたなの?」
「そうだよ。」と余裕そうに答えるノアに私はつかみかかる。
「あなたが百年前の予言を改変したのは、聖職者たちに連続放火事件を起こさせるためなの?」
私の問いかけを彼は肯定する。
「神から授かった予言がはずれるなんて、教団にとってはあってはならないことだ。
彼らは必死になって予言を実現させる。
計画した通りに進んだよ。」
「ならどうしてマウリィツオ神父を兵士に捕まえさせたの。」
「もう十分に働いてもらったから。
この段階で放火犯を捕まえることも計画のうちだ。
君が犯人を見つけることもね。」
思えば最初からおかしかった。
王族から与えられた任務の内容を口外したことも、私を協力させたことも。
私はノアの手のひらの上で転がされていたんだ。
ここまでずっとノアの思い描いた未来の通りなんだ。
放火事件の真相を明らかにすれば、予言を変えられる、世界滅亡を止められると根拠もなく思い込んでた。
だけどそれは間違ってた。
メスィドール15日に世界が滅亡することは百年前から予言されていた。
私はただ利用されていただけだった。
私はノストラダムスの予言を変えることはできなかったんだ。
明日世界は終わっちゃうんだ。
「あなたのやったことは死に値する罪よ。」
「へぇ、面白いことをいうね。」
涙声で訴える私にノアは挑発的に笑いかける。
「そんなにいうなら、僕を撃ってみる?」
ノアは拳銃を私の手に握られせた。
ぶるぶると震えながら、私はその銃を構える。
銃口の先にいるノアがこちらを誘惑する。
「死をもって罪を贖ったのは神の子だよ。
どうして同じことが人間に、それも罪人にできるのさ。
死は何人にも平等に訪れる終焉だ。
だから死は罰にはなり得ないのさ。
それでも古くから罪人が殺されてきたのは、罪人の存在が他の者にとって不都合だったからだ。
秩序を守るため、犠牲者をこれ以上増やさないため、いろんな理由があるだろうけど、結論は同じ。
人々が罪人の死を望んだんだ。
君が僕に銃を向けているのも、同じことだ。」
ノアは銃を持つ私の手にその手を重ね、自分の胸へと銃を押し当てた。
「君は僕を憎んだんだ、ミシェル。
殺したいほどにね。」
逃げようとする私の手をノアは押さえつける。
「さぁ引き金を引けよ。
ほらはやく。」
怒りが私を支配した。
怒りは、私の理性を焼き、手を操った。
かわいた音が響く。
「ミシェル。」
ノアが私を睨んだ。
私の手は彼の頬を叩いていた。
「ノア…!」
なにか言ってやりたいのに、言葉にならなくて涙が溢れた。
ボロボロと涙をこぼす私を置いてノアは去っていった。




