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7 犯人

娼館の前に立ったマウリィツオ神父は、手にした油の缶をあけ、中身を周囲に撒きはじめた。


「マウリィツオ神父様が放火犯だったの?」


いや違う。


火事の現場周辺で目撃された不審な人物の特徴は一致しなかった。

短時間に広範囲で犯行が起こっていることから、おそらく犯人は複数犯。 


油を保管していた倉庫の鍵は、ノアが簡単に手にすることができた。


倉庫で鉢合わせたときも、マウリィツオ神父はノアの鍵を戻しておくという言葉に不信感を持たなかった。

倉庫に入る人物は、紋章指輪を持つ人間のみ。

だからマウリィツオ神父はノアを共犯者だと思って疑わなかった。


「放火をしたのは、聖職者たちなんだ。」


私はがたりと物音を立ててしまった。

その音でマウリィツオ神父はこちらに気づいた。


「なんだ、ミシェルか。

お前も手伝いなさい。」


振り返ると一緒にいたはずのノアはいなくなっていた。

マウリィツオ神父は当然私が協力するものだと思っているようで、「お前は裏に油を撒いてこい。」と命じる。


「なぜですか。

なぜ、火事を起こしたのですか。」


「無論、予言を実現させるために決まっておる。」


「世界を滅亡させるためというのですか。

そんなことになれば、皆が命を落とすというのに?」


「神がそう決めたのだ。

我々は神のご意志に従うまで。」


「でも、娼館に火をつけろなどという命令を神は与えなかったのではありませんか。

百年前の予言には、火事のことなんか一言も載っていなかった。」


その言葉を口にした時、マウリィツオ神父は目を見開き身体をこわばらせた。


「お前はなぜそれを知っている。」


がしりと肩を掴まれ、マウリィツオ神父は私を激しく揺さぶる。


「答えろミシェル!」


「おやめなさい、神父様。

その子が怯えている。」


青年の声がした。

その背の高い青年は、私からマウリィツオ神父を引き離し彼を捉えた。


「放火事件を起こしたのはあなた方聖職者たちですね。

言い逃れはできませんよ。」


大勢の王国軍兵士たちが周りを囲んでいた。

青年の側に拳銃を手にしたノアが立っていた。

ノアが彼らを呼んできたんだ。

銃口を向けるノアにマウリィツオ神父は「お前も聖職者だろう。裏切るつもりか。」と叫ぶ。


「教団は三年前僕を売った。

そのときから僕が従うのは神じゃなくてこのルーカスなんだよ。」


呼ばれた青年はきまりわるそうに頭をかいた。

彼が皇太子の兄、ルーカスなんだ。


ルーカスは捉えたマウリィツオ神父を兵士へ引き渡し手錠をかけさせると、「その子を送っていけ。」とノアに命じた。




教会への道を歩きながらノアは私に「ありがとう、ミシェル。」と微笑む。


「君の協力のおかげで放火犯を捕まえることができた。」


「まって。

まだわかってないことがあるの。」


半歩先を歩くノアの背中に私は必死にうったえる。


「ノストラダムスの予言の原本は百年前に書かれたものだったの。

だけど今の予言の書は火事を暗示させるような文に書き換えられていた。

改変した予言の書を国中にばら撒いて、放火事件を起こさせた黒幕がいるの。」


ノアは「あぁなんだ、そんなことか。」となんでもないように振り向く。


「それは僕だ。」


「どういうこと?」


少年はニタリと笑う。


「ノストラダムスは僕だ。」






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