4 再会
「こんな場所で会うなんて思わなかったよ、ミシェル。」
転んだ私を助け起こしたノアは呆れたように言った。
ノアはそういうけれども、焼けこげた繁華街で、真っ白い聖服を着たあどけなさの残る瞳の彼は私と同じぐらい浮いていた。
ノアは三年前まで私と同じ教会で暮らしていた、私より少し年上の小柄な少年だ。
私たち教団に育てられた子どもたちは、その歌声に浄化の力があると信じられている。
だから戦いの場へ連れて行かれることも多い。
ノアも三年前、ある王族の遠征へ参加することになり教会をでていったのだ。
まさか再会が火事現場になるとは、お互い思いもしなかっただろう。
「君たち、勝手に近づいちゃいけないよ。」
先ほどの兵士が私たちを再び注意した。
ノアは堂々とした態度で、「僕はこの場所を癒すために祈ることを命じられてきたんだ。」と答えた。
ノアは兵士に、王族に仕える者に所持が許された紋章入りのハンカチを見せた。
「皇太子様の使いか。
これは失礼。」
兵士が許可すると、「ミシェル、いこう。」と私を連れてノアは現場に入った。
「ノアはいま、皇太子のもとで働いてるの。」
私が聞くと彼は「僕の主人はその兄のルーカスだよ。」と答えた。
我が国で実権を握っているのは皇太子リオンだ。
その兄ルーカスは、母親が王妃ではないために王位継承権がなく、今は辺境の領地を任されていると聞く。
三年前に敵地への遠征を行ったのもルーカスだった。
ノアは今も変わらずルーカスに仕えてるということなのだろう。
「じゃあさっきのはうそ?」
「半分は嘘になるかな。
僕に与えられたのは、ルーカスが皇太子から任された仕事だ。
でも、命じられた仕事は祈ることじゃない。
放火の犯人を捕まえることだよ。」
「ノアもこの火事は予言の書にあった天使の裁きじゃなくて放火だと思うの。」
ノアは「当然だよ。」と言い切る。
「これは人間がやったことだ。
きっと犯人は街に潜んでいる悪人をこの短期間で探すよりも、娼館を狙うほうが早いと考えたんだ。
売春も神の教えでは罪にあたるからね。」
「犯人はノストラダムスの書に沿って犯行を行って、
世界滅亡の予言を現実のものにしようとしてる?」
頷いたノアは「ほら、これが証拠だよ。」と燃えた瓦礫の先を指差す。
そこに捨てられていたのは油の缶だった。
「油を持って現場付近を歩く犯人を見ている人がいるかもしれない。
周囲の人たちは教会に避難してるんでしょ。
僕はその人たちに話を聞きにいく。
ミシェルもおいで。」
「手伝わせてくれるの?」
私が頼むよりも先に提案したノアは、「だってミシェルも放火犯を調べにここへ来たんでしょ。」と笑う。
「僕は猫の手も借りたいくらいなのさ。
世界滅亡の日まであと2日しかないんだから。」
ノアと共に教会へ戻った私は、それぞれの火事の現場付近から避難してきた人々に不審な人物を見ていないか聞いた。
一軒目の火事現場の隣で酒場を営む女主人は、「そういや見ない顔のやつが歩いてたね。」と語る。
「嫌に真面目そうな奴で、浮いてたからよく覚えてるよ。
三十路過ぎの骨と皮しかないみたいな男だったよ。」
ところが、二軒目の火事が起こった娼館で用心棒をしていたという男はそんな人物は見ていないという。
「俺がみたのは女だったよ。
べつに不審ってほどでもねぇけどよ、夜の仕事をしてるように見えなかったんだよ。
そいつは化粧も香水もしてなかったんだ。」
そして3軒目の火事が起きた店から逃げてきた女が見たのは、小太りの男だったという。
「あたしもあの場所で働いて長いからねぇ。
ああいう店にはまる奴かどうかは見ればわかるさ。
あいつはそういうのじゃない。
ならこんなとこにくるなんておかしいだろう。
服で体型を誤魔化してはいなかったね。
女でもないって断言できるよ。
ああいう街には色んな趣味の奴らがいるんだ、見慣れてるからそういうのはみりゃわかるさ。」
「それぞれの現場で目撃された不審な人物の特徴がまるでちがうわ。
どの人が犯人なのかな。」
首を傾げる私に、ノアは「全員さ。」と答えた。
「これだけの短期間で何件も事件を起こしたんだ。
単独犯ではないさ。
犯人は複数人いるんだ。」




