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3 決意

 今日も規則どおり、午後になれば私たちは教室で勉強をさせられた。

世界がもうすぐ終わるというのに、ただいつも通りの退屈な一日を送るなんて馬鹿馬鹿しい。

そんなことを考えていたから、授業の内容などまるで頭に入らなかった。

隣に座ったサリーが私を呼ぶのにも気づかなかった。


「聞いておるのか、ミシェル!」


「えっ?」



上の空だった私はまたマウリィツオ神父に叱られてしまった。

サリーが「何度も呼んだのに。」と小さく囁いて頬を膨らませた。


「ミシェル、私は今何の話をしていた。」


マウリィツオ神父の厳しい声に私は「うう」とか「ええ」とか曖昧な返事しかできない。

見かねたサリーがこっそり本のページを指差してくれたので、そこを読み上げる。


「星詠みは、古来から行われてきた神聖な儀式です。

天の星々の位置、動きから神のお言葉を詠みとることで未来を予知します。

星詠みは誰にでもできるものではなく、神に仕えるものの中でも位の高いもののみにその力が授けられるのです。」


「宜しい。」


マウリィツオ神父はふんと鼻を鳴らした。


「その通り、星詠みによる予言とは位の高い、つまり尊敬すべき聖職者によりもたらされる、神からのお告げなのだ。

無論、今国中で読まれているノストラダムスの予言の書も星詠みに基づいておる。

あの書の表紙には印が押してあっただろう。

あれは高位の聖職者にのみ所持が許される紋章指輪で押されたものだ。

あの書を書いた人物が相応の身分のものであると証明している。

だから間違いなどないのだ。」


そこまで言ったところでマウリィツオ神父は「最も、予言を疑う愚か者もいたようだがな。」と私を睨んだ。


だけど私はふと思ってしまった。

長く続く大雨や大地の崩れは、人為的に起こせるものではない。

でも、娼館での火事は。

雷によって起こる山火事と違って、連続して起こる火事は他の場所へ広がることなく娼館だけが燃えている。

自然災害としては不自然ではないか。

狙った場所へ放火をするのは人間にできることだ。

誰かが放火している。

犯人がいるんだ。

なら、もしその犯人を捕まえることができたら。

予言と違うことを起こせば。


「世界が滅ぶのをとめられる…?」


それならもう、やることは一つだ。

私は放火犯を捕まえる。


勉強の時間がが終わるとすぐ、私はサリーに話しかけた。


「サリー、私具合が悪くて宿舎で休むから。

みんなにそう伝えて!」


「ミシェル?」


サリーが呼ぶのにも答えずに、私は駆け出し、教会を抜け出した。




 どこか薄汚れた繁華街は、タバコと酒の匂いを孕んだ退廃的な空気で満たされていた。

厳格な教会とはまるで別世界だ。

昼下がりの繁華街の路地は歩く人が少なく、それでいて危険な夜の香りが潜んでいて子どもの私にはなんだか恐ろしかった。

少しだけここへきたことを後悔した。


「でも、犯人を捕まえるんだ。」


そう呟いて自分を励ました。

地図を頼りに、なれない複雑な複雑な路地を歩いて数十分、ようやく目的地を示す派手な看板が見えてきた。


「ここが最初に火事が起きた店ね。」


派手な色の看板は、黒く焼けこげたせいでより一層毒々しい。

すでに消化活動は終わっているが、あたりには焦げ臭い匂いが強く残っている。

数十人の兵隊や消防隊が後処理と火元の調査をしていた。

私はあることに気づいて、かがんで足元を見た。

路地の土を濡らす、濁った半透明のしみ。

つんと鼻につく油の匂い。


「やっぱり、これは放火なんだ。」


「君、勝手に近づいちゃだめだよ。」


現場へ近づく私に気づいた兵隊が声を上げた。

慌てて逃げようとして転びそうになった私の手を、誰かが強く掴んだ。



「こんなところで何してるんだ、ミシェル。」


「ノア?」


私を助けたのは、懐かしい黒い巻き毛の少年だった。





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