2 的中
「どうしようミシェル。
もうすぐ世界は滅亡しちゃうんだって。」
サリーは怯えた顔を向ける。
予言の書を囲んで震えるこどもたちを、大聖堂の中央に飾られた天使が見下ろしていた。
3日後、世界が滅ぶ。
「うそだよ、そんなの。」
滅亡の予言を私は笑い飛ばす。
「ミシェルは嘘だと思うの。」
「だってこんなの、ばかばかしいじゃない。
あたりっこないよ。」
けれども私に賛成するものはいない。
子どもたちは「予言は本当だよ。」と反論する。
「この本はいま国中に配布されてるんだよ。」
「この本はノストラダムスっていう神父様がかいたんだよ。
神からのおつげだって書いてある。」
そこまで言われても、私は信じられなかった。
信じたくなかったから。
「きっとそのひとがまちがえたんだよ。
それより、はやく掃除しないと怒られちゃうよ。」
ちょうどその時、大聖堂の扉が開いて足跡が近づいてきた。
「お前たち、何をしている。」
入ってきたのは私たちの面倒をみている、この教会の神父、マウリィツオ神父だ。
途端にこどもたちは彼に駆け寄って尋ねる。
「マウリィツオ神父様。
予言の書は本当なのですか。」
「世界は滅亡するのですか。」
「でも、ミシェルは予言は当たらないだろうって。」
マウリィツオ神父は太い眉を釣り上げて、「愚か者!」と怒鳴った。
「ミシェル!
神から預かりし予言を疑うとはなにごとか。」
叱られたのは私だった。
「じゃあ、この予言はほんとうなんですか。」
「神に間違いなどない。」
「世界は終わっちゃうんだ!」
きゃあきゃあと怯えるこどもたちに、マウリィツオ神父は「恐れることはない。」と語りかける。
「審判の時が訪れるのだ。
悪人は裁かれ、神を信じて尽くした者は導きを受ける。
だからお前たちは悪さをせず、仕事に務めるのだ。」
そうして私たちはいつも通り掃除に戻った。
でも私は内心納得していなかった。
本当に世界は滅んだりするだろうか。
予言なんて、当たらないんじゃないか。
けれども、私の予想に反して予言は当たったのだ。
大聖堂の掃除が終わる頃、分厚い灰色の雲が空を覆おった。
朝の祈りが終わる頃には大雨になったのだ。
サリーは私にささやいた。
「ねえ、予言にあった"涙の雨"だよね。」
私はまた叱られたくはなかったから、小さな声で「ただの雨だよ。」と答えた。
けれども午後の勉強が終わっても、夜のお祈りの時間になっても、雨は激しさを増して降り続けていた。
結局、次の朝がきてもまだ雨は降り止まなかった。
その日の朝刊の一面を飾ったのは、大規模な土砂崩れの被害を知らせる記事だった。
こどもたちの輪の中心で記事を読み上げるサリーが青い顔をする。
「樹齢120年の紅葉の木が土砂崩れで倒されたって。」
「"百年生きた大木すら勝てぬ"ってことだよね…。」
予言の的中を知らせる不気味な出来事はまだ続いた。
朝のお説教の時間、いつになくたくさんの人々が教会を訪れていた。
「今日はお説教を聞きにきた人がずいぶん多いのね。」
「違うよミシェル。
あの人たちはお説教を聞きにきたんじゃなくて、避難してきたんだよ。」
「避難?」
「娼館で火事が起きたんだって。
それでたくさんの人たちが教会へ避難してきたんだ。」
避難する人々は時間が経つごとに増えていった。
火事が起きた娼館が一つではないからだ。
国中の娼館で次々と火事が起きたのだ。
「"悪魔に魅入られた罪人は、天使により地獄の業火へ連れ去られる。"
やっぱり予言は本当なんだよ。」
そう呟くサリーは震えていた。
嘘だよ、と笑い飛ばすことはもうできなかった。




