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元悪役令嬢と魔法使いの娘に生まれたのに魔法使いの素養が唯一無しだったので可哀想にされる末っ子〜母親はやればできる子なので許してあげてと周りに言っているけど諸悪の根源はあなたですよ〜

作者: リーシャ

カリカリとペンの滑る音が部屋にこだまする。


何をしているのかと言えば一心不乱に文章を認めているのだ。


認めているのは己の空想を具現化させた文字。


即ち原稿といったもの。


それをとにかく進めたくて進めたくて、とっても必死に頭の中の物語を書く。


それをやっていると気が紛れる。


自分にはそれしか出来ない。


手が止まる頃にはノイラは落ち着いていた。


思考が変になっていく前に止めておこう。


また、育てられたままの考えに染まっていく前に。


ノイラの家は民間人というか、一般の家庭に位置する筈だ。


言い方を変えると平民とか、普通とか。


それで良い筈なのだが、周りは絶対にそう思ってくれない家。


事の起こりは凡そ20年前。


とある王子が婚約者に婚約破棄をしたことが始まり。


よくある話ではないのに自分にとっては二番煎じで美味しく頂いていたような内容。


その本番は遠い昔に過ぎている。


メインは私の世代なので。


婚約破棄をされた令嬢はなにを思ったか、当時の幼馴染の男と恋に堕ちて結ばれた。


結ばれた相手は魔法使いとして優秀で、国に声を届けられる程の事をやった者。


私の父親ね。


そして、母親と結ばれた彼は隣国に場を移して定住。


そこで子供を産む。


めでたしめでたしの後の話になる。


その子供の末っ子はノイラということが今現在、なによりも重要なのだ。


ストレスによる頭痛に頭を振るとペンから声が聞こえた。


「休め。書きすぎだ」


「まだもう少し書きたいから待ってガルフ」


ガルフに話しかけた後、またペンをゆっくり動かして構想を文にしていく。


こういうふうになにかに集中してないと、家の中ではまともに過ごせやしない。


ノイラは末っ子で、魔法の素養などなかった。


その時、親の反応はいたって冷淡であったと宣言する。


人に蔑まれて追い落とされたくせに、その痛みを娘に渡すとは。


呆れに呆れたものだ。


ノイラには魔法使いの父と高位の魔法を使える極めてレアな使い手の母がいる。


そんな二人から生まれた娘となると、周りが期待するのは流れ的に自然。


親も勿論、期待している。


それなのに、期待はずれだったから、こうやって放置されていた。


それに、末の子であるこちらに周りがなにかいうとすかさず心にも思っていない「やればできる子なので許してあげて」とまるで子供を庇う演技を白々しく目の前で披露する。


やってられるか、となるだろう。


おかしいな、王子に役立たずと思わせておきながら、その実はめた母親ならばその気持ちは分かろうものなのに。


(聖女気取りの年増が、ちょっと成功したからと調子に乗って)


ノイラは相棒の子にもう少し進めてから休むといい含めておく。


イライラして、仕方ない。


思春期特有の新陳代謝の乱れだ。


母親が出来損ないの娘を放置して、なにかにつけて言われると、すぐに魔法の素養がないけど愛されている子を愛する母親に変身するのが、とても嫌だ。


父親はどちらかといえば興味がなさそうだ。


愛した女の娘だから愛するべきだと思うだろうが、すでに四人も優秀な自分達の血筋をこれでもかと体現したような優秀な成績や頭の良さを世界に見せつける姉達がいる。


今更、己に割く時間など取る意味が見出せないのだ。


なんでもかんでも知っているのは、ノイラが魔法の素養がない代わりに転生者というものの記憶を持つ、存在だからだ。


こうやってイライラするのも、さっさと家を出て行きたいと願うから。


向っ腹が立つ。


魔導書を読み解くのは、ある程度の知識を有するため。


この家を出る時は除籍願いをするつもりなので、自分に娘や息子ができても関係ないと突っぱねることができるから、そのためだけ。


それに、自分に万が一なにか発現した時に、面の皮を厚くした家族のふりをする何か達にこれみよがしに家族ごっこをされたくない。


絶対に出てやるんだと意気込み、力を隠して二年後、無事に血縁も家も全て切り離してもらえた。


役立たずと空気で言っていたくせに、体裁が悪いからとなかなか認可しなかった。


相も変わらず性格の悪い一家だ。


魔導本の精霊であるガルフと共に世界を歩き回り、知識の中にあるアイテムをこちらの手の中に回収した。


どうやら悪役令嬢のポジションである母の中にはなぜかアイテムに関する、なんやかんやがなかったらしい。


「よかったな」


なんやかんやの中のものを順調に回収していく中、生まれた国で災害と疫病が流行った。


「うん!祝杯!」


ニコッと笑って、新聞に書いてある内容をぺらりとめくる。


そこには聖女ともてはやされる母と偉大なる魔法使いの父の写真がこれでもかと飾られている。


表紙なんて新聞社も暇なんだな。


「ふーん。ここに血の封鎖のアイテムがあるんだよね」


相棒に話しかける。


これは、敵の力を継続的に封印するタイプのアイテム。


父の魔力と母の聖魔法を弱くできるとなれば、にんまりとなる。


厄災も疫病も本来は国がやるべきことで少人数でするべきことじゃない。


聖魔法に頼り切ったら免疫ができないとノイラは知っている。


自身からすれば余計なことをしているのは両親なのだ。


「どう思う?」


「妥当だな」


魔導本の精霊なので博識な彼のこと、ノイラよりも早くこのことに気づいていた。


前回の疫病が流行ったときは母の聖魔法で収束させたと聞いたのだが、それではいつまでも弱いまま。


流行る度に魔法を使えば、その度に疫病にかかった人は死亡率が増える。


国が今てんやわんやなのは、前回のツケを払っているから。


(間違えているのはあなた達だった)


だれかが一本の柱になると、上に乗るもの達は弱る。


ノイラが魔法の素養を受け継がなかった原因は父のせいだ。


妊娠から出産まで、母の聖魔法の治癒を五回も繰り返せば遺伝子に何が起こるか。


魔法使いと聖女の力を持つものが結婚した今までの歴史はあったとして、治癒と強力な魔法をかけた夫婦はいただろうか?


やりすぎは毒である。


つまり、四番目はギリギリ回避できた異常が、五番目に反映されたとしたら?


そして、父と母はそもそも分家同士の血筋があり、血が濃い。


そういうことを考えた時、何が起こるか。


ノイラは母親が前世の知識を持ってようと持ってまいとどっちでもよかった。


今、血筋の力を封印するので余計なことを考えさえしなければ血は薄まると願いたい。


無駄に当たりを当て続けて、勘違いしたうちの一族の割を食わせられたノイラにしかできないことなのだから。


魔導本をぱたりと閉じて、精霊に願う。


「ガルフ、結婚してくれない?」


「……は!?」


「いいでしょ。私の血を残さないようにしないと」


「はぁ、お前はバカだな」


「え?」


ガルフはきょとんとするこちらをみて笑う。


「別に本を持つやつについていく必要なんてないんだぞ?」


「じゃあなんで?ついてきてくれたの?親友だからって理由だと思うからだけど」


不貞腐れた顔をするノイラにご自慢のしっぽを叩きつけて、精霊に許される人化をする男。


「ばーか、惚れてるからだよ」


「んっ!?」


食べ物を口に入れられたような顔をして少女は、目を丸くして相手が本気と知るまで何度も瞼をまばたきさせた。




母達は新聞で見たところ、ちゃんと力が封印されているらしく役立たず一家と手のひら返しにもほどがある国民の声が記載されていた。


こういうのを似たもの同士と言う。


国民も、母達も。


母達が妊娠できないようにと、手を打っておいたので待望の魔法素養ありの赤子は誕生しない。


産んでも素養を持つ可能性は自分を始まりにして下がっていくことはすでに把握している。


それに、力を封じずとも姉達も年齢や力と態度でどんどん使えなくなることも統計的に予測していた。


今のうちになくなっておく方が早く人生設計を練り直せるだろうから、末っ子からの最後のプレゼントである。

最後まで読んでくださりありがとうございました。

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