1日目
度重なるパワハラで精神を病み、無職になった。
生活費が底をつき、家賃も滞納している
電気、ガス、水道は辛うじて死守していたが、いずれすべて止まるだろう。
ゴミだらけの部屋の中で、私は静かに絶望していた。
これからどうしたらいいのか。
何日か悩んでみたものの、良い案は思い付かなかった。
結局、私は自殺することにした。
未来に希望が持てず、そうするのが一番だと感じたのだ。
延長コードで輪を作り、その真下に椅子を置く。
これでようやく楽になれる。
少し晴れやかな気持ちで椅子の上に立ったその時、軽い地震が起きた。
数秒後、部屋の外から騒音が聞こえてくる。
悲鳴とか怒声とか何かを壊す音とか、とにかく驚くほどうるさい。
今の地震で火事でも起きたのか。
首吊りをやめて焼け死んでみようかな。
でも苦しそうだから変更することもないか。
そんなことを考えつつ、私は玄関から顔を出す。
数メートル先の吹き抜けを人が落ちていった。
すぐに地面と衝突した炸裂音が鳴り響く。
さらに人が一人、二人、三人……どんどん降ってくる。
凄まじい炸裂音の連鎖に私は呆気に取られる。
集団自殺か。
勝手に私の先を越すなんて。
なぜか無性にムカついたが、近くから聞こえた「助けて……」という声で我に返る。
廊下の先に這いつくばる人がいた。
スーツを着た若い女性だ。
その女性は下半身が無かった。
断面から溢れた内臓を引きずって這っている。
女性の後ろに変な生き物が佇んでいた。
身長は二メートルくらいだろうか。
枯れ木のような手足は妙に長く、黄色のレインコートを羽織っている。
フードから覗く頭部は、巨大な口が大半を占めていた。
眼球や鼻といった部位は口に押し退けられてほとんど見えない。
巨大な口はくちゃくちゃと何かを咀嚼している。
唇は血で汚れ、隙間から足らしきものがはみ出していた。
なるほど、女性の下半身を食べていたらしい。
私はそっと玄関の扉を閉めて施錠する。
チェーンもかけて、適当な荷物をバリケード代わりに積み上げた。
さっきの女性の断末魔を聞きながら、私はリビングで一息つく。
最初に感じたのは、恐怖ではなく安堵だった。
よかった。
私以外の人もどん底に落ちてくれた。
他人の幸せを見るのが苦しかった。
胸の内を蝕む劣等感から逃げたかった。
この状況なら、自分のことを好きになれるかもしれない。
そう考えると死ぬのが惜しくなってきた。
どこまで生きられるか分からないが、世界の末路を見届けようと思う。
その日は何もせず、外の騒音を聞きながら安眠した。