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父よ!女になった?  作者: 風華岳岱 & 清風揽月
第一章 お父さん!謎の女性になれ!
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第5話 お父さん!再び女性に?

不良たちは呆然と、突然現れた美女を見つめる。凶暴な眼差しは露骨な欲望へと変わる。


「おっ、もう一人上玉が来たぜ!」リーダーが舌なめずりをする。「今夜は当たりだな」


誠一郎(女性態)は乱れた髪を軽く整え、目に冷たい光を宿す。「その子から離れなさい」身元を悟られないよう、意図的に距離を置いた口調で言う。


「お前に関係あるのかよ?」不良たちは顔を見合わせ、下品な笑いを上げる。


神宮寺は物陰から、空気中に渦巻く陰陽の力を感じ取る。誠一郎(女性態)の一つ一つの動きが、古武術のような、優雅な舞踏のような独特のリズムを持っていることに気付く。


「ねぇ、お姉さん」ナイフを持った不良が近づく。「俺たちと楽しもうぜ?」


誠一郎(女性態)が微笑む。その動きは緩やかに見えて、稲妻のように速い。細い手首をひねり、不良の手首を掴む。合わない革靴で地面を軽く蹴り、体を回転させると、肩まで伸びた黒髪が美しい弧を描く。


「ぐあっ!」不良が悲鳴を上げ、ナイフが宙を舞って飛ぶ。手首に鋼鉄に打たれたような激痛が走る。


残りの二人も襲いかかってくる。誠一郎(女性態)は腕を交差させ、格闘の構えで美玲を後ろに庇う。その動きはバレリーナのように優美で、同時に致命的な正確さを持っている。右手を軽く上げて直突きを受け流し、左手で相手の肩の急所を突く。


「これは…太極拳の発力技?」神宮寺は目を見開く。神社の古書でこの東洋武術について読んだことがあったが、目の前の誠一郎(女性態)はそれを更に美しく昇華させている。更に不思議なのは、なぜ藤原美玲の父親がこのような東洋美人に変身するのか。


誠一郎(女性態)は体を僅かに反らし、横薙ぎを避ける。スーツの下の豊かな体つきが動きに合わせて垣間見えるが、少しも軽薄さを感じさせず、むしろ成熟した女性特有の魅力を漂わせている。突然、意図的によろめいて緩んだ革靴を脱ぎ、暗器のように正確に不良の顎を打つ。


「バキッ!」革靴が急所を直撃し、リーダー格の不良が倒れ込む。


残りの二人もすぐに制圧される。誠一郎(女性態)は太陽穴への数回の打撃で気絶させるが、内心では力加減を調整し、命を奪わない程度に抑えていることを理解している。一つ一つの動きが振付けられた舞踏のようでありながら、雷のような威力を秘めている。戦いを終えても髪は乱れず、スーツは体にフィットしたままで整然としている。


美玲は目の前の女性を呆然と見つめ、言葉を失う。突然の救出に戸惑い、相手が片方の革靴しか履いていないことにも気付かない。その後ろ姿、その雰囲気、その優雅さが、どこか懐かしく感じられる。


誠一郎(女性態)は多くを語らず、優しい声で言う。「早く帰りなさい。もう遅い時間です」声を低めに抑え、正体を悟られないよう気を付ける。


神宮寺はこの一部始終を見つめ、数多くの疑問が湧き上がる。強大な陰陽の力を感じ取ったことは確かで、あの指輪が普通の装飾品でないことは明らかだ。更に気になるのは、なぜ美玲の父親が女性に変身するのか、そしてなぜこのタイミングで現れたのか。


月明かりが路地を照らす中、美玲は目の前の謎めいた女性を見つめている。その優雅な後ろ姿、懐かしい髪の揺れ、話す時の優しい口調は、亡き母を思い起こさせる。特にその瞳は、優しさの中に芯の強さを宿し、人の心を見通すかのようだ。


「ま、待ってください!」美玲は思わず誠一郎(女性態)の手を掴む。この甘えるような仕草に、自分でも驚く。何年もしていなかった行動だった。


誠一郎(女性態)の体が一瞬こわばる。娘の手の震えを感じ、その依存を求める気持ちに胸が痛む。しかし今の状況は危険で奇妙すぎる。正体を明かすことはできない。まして父親が女性に変身するという荒唐無稽な事実を娘に知られるわけにはいかない。


「何かご用でしょうか?」誠一郎(女性態)は意図的に距離を置いた口調で言うが、思わず声が柔らかくなる。


誠一郎(女性態)の心が締め付けられる。娘を抱きしめ、ずっとそばにいたことを伝えたい衝動に駆られる。しかし理性が、今はその時ではないと告げる。静かに振り向くと、月明かりに照らされた娘の目に涙が光っているのが見えた。


神宮寺は物陰で息を潜める。巫女として霊力に対する感覚が鋭敏な彼女は、誠一郎(女性態)から藤原誠一郎と全く同じ気配を感じ取る。ただし、より柔らかく、より優美に変化している。その変化の鍵となっているのが、あの指輪だ。


「あなたの髪…」美玲は思わず誠一郎(女性態)の髪に手を伸ばす。「お母さんにそっくり…」


誠一郎(女性態)は僅かに体を傾け、娘の手を避ける。触れ合えば、血のつながりによって全てが露見してしまうかもしれない。しかしその回避の動きが、美玲の涙を溢れさせる。


「ごめんなさい」誠一郎(女性態)は優しく言う。「私はあなたのお母様ではありませんが、その思いは分かります」父親の時には決して見せなかった、子供をあやすような口調だった。


神宮寺は誠一郎(女性態)の苦悩を察する。生徒会長として、以前の美玲との会話を思い出し、彼女の母親への思慕の深さを知っている。このまま続けば事態が更に複雑になると悟り、制服を整えて影から出る。


「美玲さん?」神宮寺は通りがかりを装う。「こんな遅くまで外にいるの?」


突然の声に美玲が振り向く。涙がまだ頬を伝っている。「か、会長?」


誠一郎(女性態)は神宮寺の出現に内心で感謝する。娘の学校の生徒のことはよく知らないが、自分の秘密が露見する可能性への不安よりも、今は身を引くチャンスを得たことの方が重要だった。


「もう遅いわ」神宮寺が近づき、優しく尋ねる。「何があったの?この方は?」


地面に転がる不良たちを見て、神宮寺は悟ったような表情を見せる。「ご救助ありがとうございます。お急ぎのようですし…美玲さんは私が送り届けます」


「でも…」美玲が何か言いかけた時、誠一郎(女性態)は既に夜の闇に消えていた。地面には合わない革靴が一つ残され、まるで現代版シンデレラのように月明かりに照らされている。


神宮寺は茫然自失の美玲を支える。少女の今の気持ちも、誠一郎(女性態)の苦衷も理解できる。実際には暗がりに隠れているだけだと感じ取れた。


「会長」美玲が突然言う。「あの人…本当にお母さんみたいだった」


「運命なのかもしれません。占いが告げていたんです」神宮寺は優しく言う。「今日、最も会いたい人に出会うと」この夜に起きた全てが、自分にとっても美玲にとっても、美しく神秘的な思い出になることを知っている。


帰り道、美玲は謎の女性のことを考え続けていた。あの懐かしさ、その優しさ、そして近くて遠い距離感。戸惑いと温かさが入り混じる中、角の影に隠れた誠一郎(女性態)が、複雑な思いを込めて娘の無事な帰宅を見守っているとは知らない。


神宮寺は美玲を自宅まで送り届け、別れを告げる。最後の巫女として、この世界には常識では説明できない事象が存在することを知っている。しかし今夜の出来事は、彼女の認識をも超えていた。あの指輪、その変化、そして藤原誠一郎の秘密が、彼女の思考を巡らせる。


誠一郎(女性態)は路地に戻り、合わない革靴を拾い上げ、気絶した不良たちを壁際に寄せる。月明かりの下、「藤原誠一郎」の靴を見つめ、苦笑する。変身後の体には不釣り合いな重さだが、今は我慢して履くしかない。


「早く戻らないと…」小声で呟き、指輪を見つめる。変身の時間は不確定で、途中で元の姿に戻ったら厄介だ。駐車場の車のことも気にならない。三倍の料金を払うことになっても構わない。この体の優れた機能に気付き、今は早く家に戻ることだけを考えている。


しかし角を曲がった先で、見慣れた姿が街灯の下で待っていた。神宮寺神代が腕を組み、青い長髪を夜風になびかせている。誠一郎(女性態)に向けられた視線には、何かを悟ったような微笑みが浮かんでいる。


誠一郎(女性態)は反射的に立ち去ろうとするが、既に遅い。神宮寺に呼び止められる。この生徒会長が普通の女子高生でないことは、先ほどの様子からも明らかだった。


「ご救助ありがとうございました」神宮寺が静かに言う。


誠一郎(女性態)は躊躇いながら、諦めたように微笑む。「いいえ…人助けは…好きですから」


「日本を感動させる善人ですね。ところで、お名前は…」


「誠…」本能的に答えかけ、すぐに気付く。「誠…誠子です」


「私は神宮寺神代と申します。誠子さん?男性的な当て字の付け方ですね」


誠子の体が強張る。こんなに早く正体を見破られるとは思わなかった。


「どうして…分かったんですか?」


「伊邪那美神社の巫女は、陰陽の力に特に敏感なんです」神宮寺が微笑む。「それに、あなたの気配は学校で会う藤原さんと全く同じ。ただ…より柔らかいですけど」


誠子は溜息をつく。目の前の若い巫女を見つめ、どう対応すべきか考える。しかし神宮寺の次の言葉に、緊張が少し解ける。


「ご安心ください。秘密は守ります」神宮寺の声は小さいが、確かだった。「この指輪とあなたの変化は、林玉華さんに関係があるはずです」


亡き妻の名前に、誠子の目が一瞬痛みを宿す。若い巫女がここまで知っているとは。


「玉華を…知っているの?」


「神社の古書で、彼女の記録を見ました」神宮寺が言う。「道法に精通した東洋の女性で、最後に神社に符咒を残した訪問者です」


夜風が吹き、誠子は寒さを感じる。神宮寺を見つめ、秘密を共有できる相手を見つけたかもしれないと思う。同時に、この若い巫女が自分の知らない真実を知っているかもしれないと気付く。神宮寺が近づいてくると、緊張が走る。


「変身を制御する方法が分かります」神宮寺の声が興奮を帯びる。「古書によると、陰陳の力には特定の媒介が必要なんです」


「媒介?」誠子が躊躇いがちに尋ねる。


「水です」神宮寺がカバンから小さなガラス瓶を取り出す。「神社の清水です。陰陽五行で、水は至柔で、転化の力を導くのに最適なんです」


左手を差し出すよう促される。街灯の下で、陰陽魚の指輪が微かな輝きを放つ。神宮寺が誠子の手を優しく握る。思わず手を引こうとするが、神宮寺の手には意外な強さがある。


「緊張しないで」神宮寺の声が異常に優しい。「指輪の霊力の流れを確認させてください」手首を撫でる指先に、誠子の頬が熱くなる。


神宮寺が清水を指輪に垂らすと、水滴が銀の輪に沿って流れる。水の跡を追う指が、誠子の指の関節に触れる。制服越しに少女の体温を感じ、何故か心拍が早まる。


「面白い…」神宮寺が考え込む。「指輪が水の流れに応えている」気付けば手は誠子の腕に移動している。「感じますか?経絡を巡る霊力を」


確かに暖かな流れを感じるが、誠子の気になるのは神宮寺の指先だ。若い巫女は「経絡チェック」に妙に熱心で、手は既に肩まで滑り上がっている。


「神宮寺さん…」制止しようとする言葉は、途中で遮られる。


「神代でいいです」神宮寺が更に近づき、吐息が誠子の耳朶を撫でる。「面白いことに気付きました」


誠子が反応する間もなく、神宮寺が突然左手を取り、驚きの視線の中で指輪をはめた薬指を口に含む。温かな感触に誠子の体が震える。


「んっ!」手を引こうとするが、既に遅い。不思議な暖かさが指先から全身に広がり、指輪が柔らかな光を放つ。


神宮寺がゆっくりと口を離し、得意げな微笑みを浮かべる。「やはり。生命の水が最高の媒介なんです。古書によると、陰陽の力には調和が必要で、唾液は人体で最も陰陽のバランスの取れた体液の一つなんです」


誠子の顔が真っ赤になる。濡れた指を見つめ、神宮寺の意味ありげな笑みを見て、言葉を失う。指輪の光は強まり、体内の力が安定していくのを感じる。


「これで」神宮寺が言う。「変身をより上手くコントロールできるはずです。水か…似たような媒介で指輪を活性化すれば」一瞬置いて付け加える。「もちろん、お手伝いが必要なら、いつでも」自分の唇を人差し指でなぞる。


誠子は謎めいた巫女を見つめ、感謝すべきか警戒すべきか迷う。しかし一つ確かなのは、神宮寺神代が表面的な優等生ではないということだ。


「あの…ありがとうございます、神宮寺さん」誠子は軽く頭を下げ、優雅さを保とうと努める。頬は未だに紅く、突然の親密な接触に心が落ち着かない。


神宮寺がウインクし、意地悪な笑みを浮かべる。「誠子さん、どういたしまして。巫女として、困っている方を助けるのは私の務めです」意図的に間を置き、付け加える。「特にあなたのような…魅力的な方には」


誠子は耳まで熱くなるのを感じる。咳払いをして、「もう遅いですから、神宮寺さんも帰られた方が。この時間、外は危険ですから」


「まあ」神宮寺が軽く笑う。「誠子さんは私を心配してくださるんですか?それとも…」一歩前に出る。「ご自分を抑えきれなくなるのが心配?」


「神宮寺さん!」誠子は慌てて一歩後退する。「そんな冗談を」


「はいはい」神宮寺が両手を上げて降参のポーズ。「もう困らせません。でも…」表情が真剣になる。「必要な時は、いつでも神社に来てください」


誠子は慌ただしく別れを告げ、家路を急ぐ。神宮寺の視線が角を曲がるまで追いかけてくるのを感じる。夜風が長い髪を揺らし、涼しさを運んでくるが、熱い頬を冷ますことはできない。


「あの子は…」誠子は考え込む。「どこまで知っているの?」指輪を見つめ、先ほどの胸が高鳴る瞬間を思い出す。中年男性として、こんな経験をするとは思ってもみなかった。


人目につかない駐車場の隅で、誠子は足を止める。この辺りは防犯カメラもなく、人通りも少ない。近所の人々がゴミの罰金を避けるために使う場所だ。深く息を吸い、精神を集中させ、体内の気が落ち着くのを感じる。


指輪を回すと、白い光が輝き、馴染みのある暖かさが全身を包む。誠子は自分の手を見つめる。細長い指が荒々しくなり、白い肌が元の小麦色に戻る。肩までの黒髪が短くなり、優雅な体つきが逞しい姿に戻っていく。


藤原誠一郎は回転する指輪を押さえ、乱れたスーツを整える。ポケットから携帯を取り出すが、娘からの着信はない。今夜の出来事は夢のようだが、指先に残る温もりが、全てが現実だったことを告げている。


「玉華…」亡き妻の名を呟く。「何を伝えたかったんだ?」月明かりに、指輪が微かに光を放ち、その問いかけに応えるかのようだ。


マンションに入る時、誠一郎の頭には今夜の出来事が次々と浮かぶ。娘の危機、変身しての救出、そして謎めいた巫女の出現。もう以前のような平穏な生活には戻れないことを悟る。

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