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父よ!女になった?  作者: 風華岳岱 & 清風揽月
第一章 お父さん!謎の女性になれ!
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第4話 お父さん!拳を振り上げ!

「まさか…」


首を振り、最悪の想像を否定する。玉華が去ってから、つい最悪の方向に考えてしまう。反抗的な面はあるが、美玲は決して度を越した行動はしない。


リビングの飾り棚に置かれた玉華の遺影が、全てを静かに見守っている。誠一郎は近づき、額縁の埃を優しく拭う。写真の中の妻は穏やかな笑みを浮かべている。家族最後の旅行で撮ったものだ。あの頃の美玲は母の腕に甘えていた。今のように「ギャル」の世界に閉じこもることもなかった。


時計を見る。18:45。授業は終わっているはずだ。友達とショッピングをすることは多いが、少なくともメッセージは送ってくるはずなのに…もしかして…


「電池が切れたのか…」


その考えに少し安心する。最近よくあることだ。ファッション動画やインフルエンサーの配信を見すぎて、いつも電池を使い切ってしまう。


家の中を行ったり来たりしながら、様々な可能性を考える。かつての大らかな感情とは違い、今は不安が募る。結局、行動を起こすべきだと決意する。


「お金とメモは見たはずだが…」


エレベーターに向かいながら、上階から車の鍵を操作する。階下に着くなり車に乗り込み、娘を迎えに行った思い出の商店街へと向かう。


新東京第三区東華プラザ商店街


灯りが灯り始める頃、誠一郎は雑踏をかき分けて歩く。この通りは美玲のお気に入りの場所だ。ショーウィンドウのネオンが疲れた顔に映り、色とりどりの光を反射させる。


「すみません」


美玲がよく行く洋服店に入る。「この子を見かけませんでしたか?」携帯を取り出し、美玲の写真を見せる。


「あ、美玲ちゃんですね!午後に来ましたよ、お友達と一緒でした」店員は確かな口調で答える。


「何時頃でしょうか?私は父親なのですが、夜になっても帰ってこなくて…」


「放課後すぐ、4時過ぎくらいですかね?」店員は思い出しながら言う。「新作を試着しましたが、買わずに次回にすると言ってました」*


礼を言って店を出る。4時、その時は人員削減の会議中だった。会議が早く終われば…首を振り、無意味な考えを振り払う。


角を曲がったところのタピオカ店。美玲がTwitterで味の感想を投稿していたのを覚えている。


「お客様、ご注文は?」


誠一郎は挨拶もそこそこに、携帯を取り出して美玲の写真を見せる。


「私は父親です。帰ってこないので探しに…」


「ああ、来ましたよ」店員は笑顔で答える。「いつもの、パール増量で甘さ多めです」


「一人でしたか?」


「いいえ、女の子たちと一緒で、コミケの話をしていたみたいです」*


誠一郎は考え込む。コミケ?いつからそんなことに興味を?突然気づく。娘への理解が、まだ中学生の頃で止まっているようだ。


タピオカ店を出ると、タバコの匂いが漂ってくる。若者が壁に寄りかかって煙草を吸っている。火の光が夕暮れの中で明滅する。誠一郎は眉をひそめる。厳格な家庭で育った彼は、タバコの匂いが苦手だった。


避けようとした瞬間、左手の指輪が微かな温もりを放つ。ここ数日指輪に敏感になっていなければ、気づかなかったかもしれない程度の反応だ。


「これは…」


さりげなくスーツの袖を整えながら、指輪の変化を観察する。タバコの火が明るくなる度に、指輪が微かに反応する。昨夜の火事現場での出来事を思い出させた。


若者が灰を払うと、火の粉が散る。指輪の温度が波打つように変化し、何かに呼応しているかのようだ。誠一郎の鼓動が早まる。指輪の力は火と関係があるのだろうか。


玉華が生前研究していた古書のことを思い出す。陰陽五行、金木水火土…道教の概念で火は何を表すのか?玉華は確かに語っていたが、当時は妻の趣味程度にしか考えていなかった。


「すみません、通していただけますか」食事カートを押す店員の声に、思考が中断される。


我に返ると、かなりの時間その場に立ち尽くしていたことに気づく。若者は既に去り、くすぶる吸い殻だけが残されている。時計を見る。19:30。美玲を探さなければ。だが、この発見は指輪の謎を解く鍵になるかもしれない。


夜の帳が下りたアニメプラザ商店街に、街灯が次々と灯る。神宮寺神代は神社の夕刻の祈祷を終えたところだった。腰まで伸びる青い髪が、夕暮れの中で微かに輝いている。巫女服から着替え、カバンを背負って帰路につこうとした時、商店街の角で見慣れた姿を見つける。


「藤原…美玲?」


美玲は一人で歩道を行く。普段は派手な金褐色の長い髪が乱れ、特徴的なピンクの毛先まで輝きを失っている。時折携帯を見ては落胆した様子で下ろす——明らかにバッテリーが切れている。


神宮寺は美玲の足取りの疲れに気づく。この時間、既に帰宅しているはずでは?生徒会長として、この有名な問題児「ギャルプリンセス」のことは誰よりも把握している。


「チッ、もう…」美玲はコンビニの前で空っぽの財布を見ながら独り言を呟く。「グッズ買いすぎなきゃよかった…」


神宮寺は眉をひそめる。直感が何か普通ではないことを告げている。この感覚は見慣れたものだ——不吉な出来事が近づく時、彼女の中を流れる巫女の血が警告を発する。


その時、派手な髪色の若者三人がコンビニから出てくる。美玲を見つけると、たちまち危険な眼差しに変わる。一人が舌なめずりをしながら、仲間と小声で話し始める。


「こんな時に…」神宮寺は胸の御守りに触れる。伊邪那美神社に代々伝わる神器で、邪気を感知する。今、その御守りが微かに熱を帯びている。


美玲は危険に気づいていない様子。ポケットの小銭を数えながら、水を買うか迷っている。表情を見る限り、交通費すら足りていないようだ。


神宮寺は静かに後をつける。近すぎず遠すぎない距離を保ちながら。美玲の父親が誠一郎だと知っている。学校でよく話題に上がる優秀な保護者だ。だが最近、占いを始めると、学校のことに触れた途端、この父娘に何か異変が起こることを示唆されるのだ。


「まずい…」美玲は空を見上げ、足を速める。普段なら父の車で10分の道のりだが、徒歩では30分近くかかることを忘れていた。さらに悪いことに、人気の少ない街区を通らなければならない。


三人の若者も追従する。意図的に距離を保っている。神宮寺には彼らの放つ悪意が感じ取れる——その気配は、普通のストリートギャングよりもずっと危険なものだった。


「伊邪那美様…」神宮寺は心の中で神名を唱える。現代社会では神々への信仰は薄れているが、最後の巫女として、彼女はこの習慣を守り続けている。特に今夜は、いつにも増して強い予感がする。


通りは賑やかな商店街から次第に離れていく。通行人は疎らになり、店の明かりも少なくなっていく。美玲も何かを察したのか、時折後ろを振り返りながら、足早に進む。


神宮寺はカバンの紐を握りしめる。もし何かが起きた時、生徒会長としてどこまで介入すべきか迷う。しかし巫女として、迫り来る危険を見過ごすことはできない。


夜が深まり、街灯が湿った地面に斑模様の影を落とす。美玲は再び空しく携帯の電源を入れようとするが、暗い画面に映るのは不安げな表情だけだ。


「くそっ…」小声で呟きながら、後ろを盗み見る。三人の不良はまだ後をつけている。近すぎず遠すぎない距離を保ちながら、執拗に追跡を続けている。


美玲は足を速める。ヒールの音が地面に鋭く響く。グッズショップで小遣いを使い果たし、電車賃すら残っていないことを後悔している。


後ろから下品な口笛と、意図的に抑えた笑い声が聞こえてくる。美玲の心拍が早まる。神宮寺会長の忠告を聞き入れず、放課後すぐに帰宅しなかったことを悔やむ。


「待って…」突然何かを思い出したように、「あっちに近道があったはず」


角を曲がると、細い路地が現れる。普段なら絶対に選ばない道だが、今は追跡を振り切るチャンスかもしれない。


電柱の陰に立つ神宮寺は、美玲が路地に入るのを見て、静かに首を振る。生徒会長として、学校周辺の地形を熟知している彼女には、それが行き止まりだと分かっていた。


「もう待てない…」御守りに手を触れ、その温もりを感じる。三人から放たれる邪気は増す一方で、明らかに普通のストリートギャングとは違う。


路地の中で、美玲の足音が突然止まる。前方は高い壁、両側は閉ざされた鉄の扉。街灯の光は高層ビルに遮られ、わずかな月明かりだけが地面を照らしている。


「お姉ちゃん、どこ行くの?」後ろから軽薄な声が響く。


振り向くと、三人の不良が路地の入り口を塞いでいた。薄暗がりの中で彼らの表情は一層険しく、一人がライターを取り出し、カチカチと音を立てている。


「ど、どいて!」美玲は強がろうとするが、震える声に恐怖が滲む。


「そう急がないでよ」リーダー格の男が一歩前に出る。「ちょっと一杯飲もうよ」


神宮寺は御守りを握りしめる。三人の邪気は頂点に達している。この気配は神社の古書でしか読んだことがない——誰かが彼らに呪いをかけているのだ。


「最後の警告よ」美玲の声が震える。「どいて!」


不良たちが不快な笑い声を上げる。ライターの炎が明滅し、歪んだ表情を照らし出す。


神宮寺は合気道の構えを取り、戦闘態勢に入る。幼い頃から神子として育ってきたが、武術の鍛錬も怠らなかった。この世の中、自身を守る術を持っていなければならない。


「おい、お嬢ちゃん、そんなに怖がらなくても」リーダー格が黄ばんだ歯を見せて笑う。「カラオケに誘っているだけだよ」


美玲は相手を睨みつける。手は震えているが、目には怒りの炎が宿っている。母の死後、二度と誰にも虐められないと誓ったのだ。


「どけ!」鋭い声を上げる。


「おっと、こいつ結構辛いな」もう一人がライターを取り出し、パチパチと点火を繰り返す。暗闇で火が明滅する。「いいね」


三人がゆっくりと近づき、美玲を壁際に追い詰める。リーダー格が手を伸ばし、彼女の顔に触れようとする。「おいで、兄さんたちと遊ぼうよ…」


「消えろ!」


美玲が突然爆発する。脚を上げ、鋭い膝蹴りをリーダーの急所に叩き込む。ギャルらしい格好をしているが、体育の成績は常に優秀だった。


「ぐあっ!」男が悲鳴を上げ、股間を押さえて屈み込む。


「このビッチ!」残りの二人が激怒する。一人がスプリング・ナイフを取り出し、月明かりに刃が冷たく光る。


神宮寺は物陰で息を潜める。御守りの温度が更に上昇するのを感じる。彼らの邪気は完全に制御不能になっていた。


「良い子にしないと痛い目見るぞ!」ナイフを持つ男が刃を振り回し、美玲を後退させる。もう一人はライターを点滅させ続け、歪んだ笑みを浮かべている。


美玲は冷たい壁に背中が触れ、強がりながらも声が震え始める。「来、来ないで!」


「今更怖くなったか?」リーダーが地面から這い上がり、険しい顔つきで言う。「さっきの一発、倍にして返してやる!」


ライターの炎が突然異常な明るさを放ち、路地全体を照らし出す。神宮寺が駆け出そうとした時、その不自然な炎が何かに呼応しているのに気付く。そして路地の入り口の影に、学校公開日で見かけた美玲の父親の姿を認める。


「藤原さん?」神宮寺は目を見開く。誠一郎の左手の指輪が微かな光を放ち、その光がライターの炎と共鳴しているように見える。


誠一郎は店員の指し示した方向を辿りながら、不思議な声に導かれるように路地へと向かっていた。


路地の前で影に身を潜め、娘が三人の不良に囲まれている場面を目撃する。拳を握りしめ、父親としての本能が即座に飛び出したいと訴える。しかし理性は、状況が不明な今、軽率な行動は事態を悪化させると警告する。


「この淫乱女が!」リーダーが拳を振り上げ、美玲に向かって突進する。


誠一郎は三人が救いようのない不良だと確信し、もはや抑えが効かなくなる。影から飛び出した瞬間、ライターを弄んでいた男が仲間にぶつかられ、ライターが手から滑り落ちる。


「気をつけて!」神宮寺が思わず叫ぶ。


火の光が空中で弧を描く。誠一郎が飛んでくるライターを払おうとして、火に触れてしまう。その瞬間、左手の陰陽魚の指輪が眩い光を放つ。


「これは…」神宮寺は目を見開く。強大な陰陽の力が渦巻くのを感じ、御守りが手のひらを焼くほどの熱さを帯びる。


誠一郎は指輪から全身に暖かい流れが広がるのを感じる。この変化を止めようとしたが、既に遅い。月明かりの下、彼の姿が歪み始める。


「なんだこれ?」不良たちは突然の光に後ずさりする。


神宮寺は息を呑む。誠一郎の体が徐々に細くなり、髪が伸び、顔立ちが柔らかくなっていくのがはっきりと見える。学校公開日で見た威厳ある父親が、優雅な女性へと変わっていく。


「ばかな…」神宮寺は呟く。巫女として数々の不思議な出来事を目にしてきたが、この光景には衝撃を受ける。更に驚くべきことに、変身後の誠子の姿が、神社の古書で見た東洋の女性にそっくりだった。


月明かりの下、指輪は誠一郎の制御で回転を止め、白い霧と光が消えていく。肩まで伸びた黒髪が夜風に揺れ、元はだぶだぶだったスーツは霧によって体型に合わせて変形し、曲線美のある身体にぴったりと馴染んでいる。誠子は眉を寄せる。スーツは体に合ったものの、Fカップの豊かな胸がシャツのボタンを危うくし、足元の革靴は合わないサイズで緩んでいる。


「こんな時に…」溜息をつく声は、優しく響く女性の声に変わっていた。この状況でさえ、まるで高級サロンにいるかのような優雅な立ち振る舞いを保っている。

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