表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お見合い  作者: いづる
8/29

第8話 非通知電話

彩は家に帰ってから、お風呂に入っていた。


(今日は、仕事頑張ったな)次の瞬間に翔太を思い出していた。

(でもちょっとは、折れてくれてもよかったんじゃないかしら。折角の鍋が二人でいたのにしらけちゃったな。ハアー)今日の翔太の態度に少し腹がたっていた。


それでもちょっと熱めのお風呂につかりながら、よくよく考えてみたら‥‥。


(彼はちっとも悪くないよね。昨日私が泣き出したほどの話を、訊く覚悟で会ってくれたんだから。それにタバコだって、電子タバコに変えてたし‥)


そして初めて買ったシャンプーの香りに満足しながら、頭皮をゴシゴシと念入りにしごいていた。それから髪を包んでいる泡をいっきに洗い流す。


「電話しなきゃあ」焦る気持ちでパジャマを着て、髪を乾かした。


『リリンンリンリン』着信音に慌てて出ると、非通知電話だった。


(翔太?)思わず口に出しそうな言葉を止めたまま、無言で電話に出ると、


「もしもし、森下さんですか」聞き覚えのない女の人からだった。


「は い。どちら様ですか」


「私は西野 武人の妻、香菜です。あの、切らないで。今日はただ私の話を訊いてほしいと思って。武人に頼まれた訳ではないの」


(武人の妻‥話を訊いて欲しい⁈。なんだか面倒だなあ。ふっきろうとしているのに‥彼のこと武人って呼ぶんだ)


「だったら手短にお願いします。もう、彼のことは過去のこととして考えていますから」


「私のことが原因だったら、ちゃんと説明しなくちゃと思って」


そう言い始めると香菜は淡々と話し始めた。亮とは高校生の頃からの同級生で、その頃 香菜は1つ上の先輩とつきあっていた。

その彼は有名な老舗ホテルを数十個も経営する跡取り息子で、ホテルが存続するために政略結婚が準備されていた。

つまり先輩の彼は大学を卒業すると、親のレールに乗っかり結婚をした。香菜とその先輩は、愛がある関係を貫きとおすかのように、その頃からずっと不倫を続けていた。


「武人は、私が彼との関係で疲れてネグレクトをしたり、落ち込んでいたりする時ずっと傍にいてくれてたの。でも、そこに愛があったわけじゃない。武人は家庭環境が複雑で。自分は自分も含めて一生誰も愛せないと、口癖のように言っていた‥」


「‥‥」そんなこと初めて聞いたわよ。


「でもある日、今日から女の先輩に仕事を教えてもらうことになったって、複雑な顔で言っていた。その日からは、ほとんど寡黙な亮が『机の上を片付けろと言われて細かい女なんだよ』と愚痴を言ったり『食べる間も惜しんで、パソコンの打ち込みやっているんだぜ』とか帰ってくるとあなたのことばっかりで」


「仕事のイロハを叩き込んだだけよ」


「疲れて帰ってくると、お風呂も入らないで朝シャワーで飛んでいったわ。ある時から、愚痴は一切言わなくなっていた。その代わりに、表情がやわらかくなっていったのがわかったし笑顔も今までの愛想笑いと違って、気持ちが入るようになった。それは、あなたと付き合いだしてからね」


「‥‥だから、何⁈」そんなこと、今さら言われたって‥‥


「私はね、いつも傍にいてくれた武人に幸せになってほしいのよ」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ