俺は彩さんが、好きだから待つ
「何回も言うけど、今日は本当にありがとう。あいつ、まだ手を振ってる。彩さんお腹すいただろう?何か食べていかないか?」
小さくなっていく明をバックミラー越しに見ながら、夕食に誘うがどうせ断られるだろうと思い軽く言う。
「明ちゃんて、ほんっとに憎めないわよねー。まあ、私としてもやれるだけやったと思うわ。後はあの修っていう男を、突き放して1人でどんだけ頑張れるかだわね」
「無理だろう。きっと、すぐ電話がくるぜ」
「うふふっ。まあ、でも頑張って職員さんや弁護士に問い詰められても、自分の生活を取り戻したいと言っていたじゃない」
「うーん、いいように解釈するなあ」あの小学生のような単語の羅列からそんな解釈ができるなんて、端折りすぎだろうと思う。
「とにかく、本人に任せるしかないわよ。それから、今日はあなたの部屋に行ってもいいかしら。近いんでしょ⁈」
「えっ、い いのか⁈」
「夕食を食べたらすぐ爆睡して、翌朝には帰るけど‥それでも良ければ‥」
「も、もちろん」
今日は彩さんが泊まることを意識して、綺麗にしてあるとは言えないが。
「何だか明さまさまだなあ。そのおかげで彩さんと、長くいれたんだし‥家にも寄ってくれるし‥」
「あっ、食べるもの、ドライブスルーで買っていかない?」
「あっ、そうだな。この辺だと、○○屋と○○○ラーメンがあるけど」
同じ部屋に彩さんがいてくれるだけでいいんだと自分に言い聞かせながら、少しずつでも進展していきたいよなあ。言葉にしない思いをまた抱いていた。
ドライブスルーで買い込んだ食料をもって、俺のマンションについた。そして、暗証番号を押すと入口の自動ドアが開く。そこからエレベーターに乗り15階を押す。
「最上階なのね」
「ああ、仕事がノリに乗っていた頃だったから、1フロア全部買い占めたんだ。施工する前に1世帯用に改造してもらったよ」
「まあ、お金持ちねえー。他の女が、うらやましがるわー。おほほほ」テンション上げ気味に、わざと笑う。
「まあ、広すぎて使う部屋が決まってくるけどな」15階にエレベーターは止まり開いた。壁は味気無さをなくすために落ち着いたモスグリーンに塗られていた。
玄関のカギをキーロックで差し込むと開いた。
「わあー広いし、綺麗な部屋」
(まあ、頑張ったからな掃除)
「さあ、とにかく胃袋になにか入れないと‥」
おれは巣籠ラーメン、彩さんは魚が入った持ち帰り弁当、まだ、あったかな湯気が香りを誘っている。
「あ、おいしい」
「この光景って、前にもあったわね」
「ああ、黙々と食べて寝るってパターンな」
「だから、デジャブな感じがしたのね」
それからは無言で食べる。お互いの食べ物の匂いが混ざっていた。
「はあー。食った食った」
「シャワー浴びたいけど、無理そう。悪いけど、先に寝かせて」
「あっ、俺も。一緒に寝るよ」
寝室部屋に案内されると、淡いピンクに統一された部屋内にセミダブルのベットが鎮座している。部屋自体の広さがあるので、ベットの大きさが余り目立たない。
二人は、ベットへと横になる。
「あやめかしい色のセーフゾーンね。悪いけど、もう寝るわ。おやすみ」
「おやすみ 俺も疲れたよ」
お互いにベットの左端と右端に背を向けて寝た。
◇◆□
「んっんんー」しばらくして、部屋の灯りに気が付くように目が覚めた。
(ここは翔太の部屋だったわね。今、何時かしら‥)携帯を探すため、上半身を起こす。
「うっううん、どうした?」
「あっごめん、起こしちゃった?目が覚めちゃって。今、何時かしら?」
「今、夜中の12時だよ。早く寝たからね」
「悪いけど、今からシャワー浴びてもいいかな。すぐ、眠れそうにないし‥」
「ああ、いいよ。なんなら一緒に入る?」
「えっ、あっあの今日は止めとくわ」
「うん、わかっている」
「なんだか、拍子抜けするぐらい押しがなくなったわね」
「俺さ、わかったことがあるんだ。俺のこと好きなんだけど、それ以上には気持ちがいかないんだろ?
俺が明に思っていたような感情。あの時は、明のことが好きで好きでたまらないと思っていたけど。結局の所一線が越えられなかったから‥」
「私もそうだって言いたいわけ?どれだけ私のことをわかっているって言いたいのよ?
言っておかなきゃあね私の気持ち‥あなたから3か月以内に結婚決めようって言われた時。正直まだ、早すぎるかもって思っていたわよ。でもそれは、仕事を再会したばかりだから‥仕事の面白さも大変さもよく知っているから」
「なら、いつならいいんだよ?俺たちが再開したのって、何のため?」
「違うの。ちゃんと最後まで聞いてほしいのよ。明ちゃんと会ってから、考えが変わったのよ。あのこは拙いけど、いつもあなたのことや周りの人のことを考えている。煙草を止めたのだって、私より先に気が付いたじゃない。明ちゃんの方が別れてから、何年も経っているのに‥なんだか恥ずかしかったわ。ぐっと近くにいる私が、気が付けなかった。私は、自分のことしかいつも見えていないみたい」
「それも、彩さんの良さなんだけどな。それに明は、女の人には懐かないんだよ。今日みたいに彩さんの傍から離れなかったり、ましてや明の方から連絡先を聞くなんてさ」
「まあ、会社で何年も居座ると、若手の人生相談されたりとか、新人類に振り回されたりとかさ。いろいろあったからね。うふふ」
「さっき、考えが変ったって言ったよね。どういうふうに?」
「自分のことばかり考えて、またこの機会を逃したら一生後悔するかもって!!」
「良かった!後で後でって結局は、また俺振られるのかって‥」
「んなわけないじゃん。お金持ちで、こんなマンションのワンフロアの持ち家で、有名なアーティストで‥」
「茶化すのはやめてくれよ。俺は俺なりに、もう無理やり振り向かせるんじゃなくて、今は傍にいられるだけでもいいのかなって」
「本音よ。孝子おばちゃんも優良物件っていってたじゃない。でも、今日の途中からあまりしつこく言わなくなったのは、そういうことを悟ったからなのね」
「ああ」
「ごめん‥」
二人とも話の途中から、ベットに座っていた。
「えっ」ふいに、彩さんが両腕をからめて抱きついてきた。
「あの‥」
「優良物件は、差し押さえておかないとね。明ちゃんに、焼きもちやいたわ。修ちゃんの話がでるまではね」
「ほ、本当か。焼きもち、俺のことで‥‥」嬉しすぎる言葉。自分の顔がほてってきていた。俺の腕も彩さんの腰にまわす。いや、まわそうとした時…
「じゃあ、シャワー借りるね。家に帰ってから、今後のこと前向きに考えるから」
「ああ、あっそう。わかった。シャワー室案内するよ」彩さんの腰にまわし損ねた腕をさっと引っ込めて、立ち上がった彩さんのあとに俺も立ち上がる。




