美容室
二人はその後オブジェの前から、久しぶりに髪を切ろうかと意気投合して近くの美容室にやってきた。
「いらっしゃいませ。今日はどうされますか?」30代位の今流行りの髪型をした男性美容師が営業スマイルで聞く。
「今風にして。髭も剃ってほしいんだけど」と翔太。
「私は、超ベリーショートにしてほしいの」と彩。
「彩さん、ダメだよ。そんなに切っちゃあ」
「えっ⁈ なんでよ」
「俺は、長い方が好きだな」
「私の髪の毛なんだから、私の好きにしたいわ」もう、一々うるさいんだから。
「では、そちらでもう一度よく彼氏さんと相談して決めたら教えてくださいね。それから、シャンプー台に移ってもらいますから」と手慣れた美容師はヘア雑誌を数冊取り、待合のイスに二人を案内する。
「じゃあ、さあ。こうしない?俺が彩さんの髪型を決めて、彩さんが俺の髪型を決めようか?」
「言ったわね。坊主よ、坊主」
お互いに、ヘア雑誌をめくりながら探す。
近くにいたお洒落な娘が苦笑いをしている。
「よし、これにする」
「変なのにしないでよ」
「僕は、坊主なんでしょ⁈」
「でも一緒に歩くのに恥ずかしいから、やっぱり坊主は勘弁してあげるわよ」
そして互いに隠して美容師だけに決めた髪型を見せて、二人はシャンプー台に移った。
「うん、わかりました」彩さんの髪型は、最初に出迎えてくれた男の美容師さんが担当していた。
(本当は、俺意外の男に近寄ってほしくないんだけどな。仲良さそうにお喋りしているのも気になる。くそぉ)
「よろしくお願いします」ツーショットに分けた少し短めな若い女性美容師が俺の背中越しから話しかける。終始寡黙で、黙々と髪をいじっている。
(接客は、不慣れなのか?何回か話しかけるが、簡単な返事だけで後が続かない。ちゃんと髪は、切ってくれるんだよな?)と不安な様子が伝わったのか、彩さんについていたスタッフが喋り掛けてきた。
「木田さんは接客は苦手なんですが、派遣では1,2を争う腕を持っているんですよ。安心して、お任せくださいね」
「ああ、そうなんですね」幾分、安心しながら鏡越しに俺の髪を切っている彼女の様子を見ていた。その手先は確かに素人目から見ても、素早くて慣れた手つきだった。
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「ありがとうございました」の声に、二人は切りたての髪をお互いに見ながら満足して美容室を後にした。
「肩から、5㎝ぐらいは切ったかしら。前の方が少し斜めに長くなるボブよね。一度こういう髪型にしてみたかったから満足よ」彩さんは、ニコニコと顔満面に笑いながら言う。
「あまり切ってほしくなくて、でも変化はほしいかなと思ってその髪型を選んだんだ。とてもよく似合う。俺の方も坊主じゃないと言われても、角刈りとかの恐怖感があったからな。美容師さんは黙々と切っていたし‥」
「流石に、美容院で角切りはないでしょう。そうね。彼女、若そうなのに私の担当のスタッフと対照的なタイプだったわよね。私の担当は、正直うるさいくらいだったけど腕はいいみたいだし。でも、そっちの髪型もすごくいいわよ。あっ、選んだのは私だったわね」と満足そうに、改めて俺の髪型をしげしげと見ていた。
「そう?思い切り、今風だったから良かったよ。ツーブロックで、下の方は刈り上げていてすっきりしたよ」なかなか、名前を呼んでくれないなあと思いつつ、二人で美容院デートも悪くないなあと内心喜んでいた。




