翔太との再会
彩は孝子おばさんに背中を押された形で、翔太との待ち合わせ場所に来ていた。
(銅像⁈)
もともと岩の塊のようなものだったものが魚のオブジェに代わっていた。大きさは前のものと同じくらいー大人の人が横になっているぐらいの大きさである。全体が透明な造りの魚は、手のひら大の鱗が何十枚も重なって出来ていた。その鱗の一枚一枚は色とりどりのステンドグラス風でとても洒落ていた。光の差し込み具合によって、微妙な色合いの変化を表している。
(わあ。いつ出来たのかしら?綺麗!!写メとっちゃお)
なんだかとてもテンションが上がり、全体的なものと顔だけと鱗の部分とに分けて何枚か撮っていた。
(さあてと)
周りには人がまばらにいて、その中には男の人が三、四人はいるが翔太はまだ来ていなさそうだ。携帯で時間を確認するが、まだ待ち合わせの時間まで10分ほどある。
(前のときは、私の方がギリギリだったからな。でも私の方から振っといて、会いにくるなんて虫が良すぎるかしら⁈)
それでも周りを見回して翔太が来ていないか確認をとりながら、合間に携帯でゲームをしたりして時間を潰す。
(もう、10分過ぎじゃない。私、もしかして日にち間違えた⁈ ううん。間違えていない。何度も確認したはずだし‥。送れるとかの、メールや着信も来ていないし‥えっ! あのひげ面男、さっきから距離間つめてない?)
ひげ面で、帽子を目深に被った男が見るたびに自分に近づいて来ているような気がしていた。
(私の気のせいかしら?いや、違う‥)
そして男は、すぐ隣に距離を詰めていた。
慌てて、彩は翔太に電話を掛けた。
(トウルルル)
「はい、もしもし」
「今、どこよ?」
「彩さんの隣」隣で、ひげ面の男が答えている
「えっ!!えー、もう何よ。私、不審者だと思って怖かったんだから」
彩さんは、背伸びして、目深に被った俺の帽子を取りながら話す。
「なんだよひどいなあ。なかなか気づかないから俺も焦ったよ。」
「それにしても、その長い髪と髭面は気づかないでしょ」
「似合う⁈」
「全然似合わない」首を思い切り振って答えている。
「振られた日から、切ってないんだ。もう、面倒になってさ。こうなったら、髭も髪も伸ばすだけ伸ばしてやろうと思ってね」
「私も別れてすぐに、超短く切ったの。それからやっと今肩まで伸びたわ」
「俺達って面白いな」
(翔太の笑い顔も髭があるとなんだか可愛くないなあ)
「ホントね。うふふ」
「それと、やっとあの服捨てたんだな」
「つい最近まで着てたんだけどね。仕事場の同僚が、あの歌詞の女は私じゃないかっていわれて」
「慌てて捨てたのか?」
「というか、服装とかに無頓着になっていたから。他の洋服も着なくちゃってね」
「じゃあ。俺のお陰だね」
「でも人のことを、ネタにしないでくれる⁈」
「ごめん。やっぱりこういうのは、嫌だよね」
「その時々だと思うけど。これからは私のことを書くときは、歌詞をチェックさせてもらうわよ」
「しょうがないなあ‥‥わかったよ。彩さんのジーパンにトレーナー姿、今日みたいなカジュアルな格好は初めて見るよ。でも、よく似合うね」翔太は、私の姿をあらためて見つめる。
「そう?」
少し照れたような彩さんの顔が可愛い。
思わず自然に抱きしめていた。
「あっ」急に抱きしめられて彩は戸惑う。でも、その胸の温かさに包まれながら、この人に会いたかったんだなとしみじみと思う。
「とっても、会いたかったんだ」
「わ、私も‥」3分いや、10分かもしれない。ただその時は、とても長く感じられていた。
それと髭が少し髪にあたっている感触がこそばゆかった。