彩さんの口から、やっと聞けたよ
せっかくだから、少しでも彩さんに寝ていてもらおうと先に食事の支度をすることにした。
えっと、しゃもじは‥お皿は、その度に水屋の取っ手を開けたり閉めたりしていたが、その音に起きる様子もなかった。たこ焼きも上手いこと焼けて、香ばしい臭いが立ち込める
「さあ、彩さんご飯の用意できたよ。起きてー」声を大きくして呼びかける。
「うーん、あっごめん。すっかり寝ちゃったね」何度目かに、俺の声はやっと届いたようだ。
「あっ、シチューもたこ焼きも支度してくれたのね。ありがとう」テーブルに視線を移して言う。
「いいってことよ」
「では、いただきまーす」熱々の湯気が出ているテーブルの前に二人は座る。
「いただきます」二人は、黙々と食べだした。
「うん、おいしい」とまずシチューを食べる。
「まあ、レトルトだからね。でも、具沢山でおいしいよ。野菜の冷凍ですぐ出来るんだね」と俺。
「そうよ便利でしょ。生の野菜を切って冷凍したり、バーゲン時に冷凍野菜を買ってきてストックしてるの。たこ焼きも焼け目がついておいしそー」たこ焼き器から、器へと移して削り節と青のりをかけてマヨネーズもつけて食べる。
「おいひー」口にたこ焼きを入れたまま声を出す。
「俺は、醤油にしようかな。和風にする」器にうつしたたこ焼きに削り節、青のりの次に醤油をまわしかけた。
お腹が空いていた二人は黙々と半分くらい食べていたが、彩さんはふいに明るく話しかける。
「そうそう、なかなか話そびれてごめんね。元彼のこと‥。まず何から話そうかしら」そういいながら、ウーロン茶を何口か飲んだ。
きっかけは職場で先輩と後輩として仕事を教えているうちに、付き合いだしたこと。2年が過ぎた頃、最近になって結婚していたことがわかったこと。
この間その彼が来て、二人とも愛のない結婚で指輪も作らなかったことを打ち明けられた。そして結婚をしてほしいと言われたことなどを、隠さずに話してくれた。
「!!それって、離婚した彼と寄りを戻せるってことじゃないの?」そんな僕の話には彩子さんは答えなかった。
「あなたがキャッチで掛けてくれた時、彼の奥さんから電話があったの」
「えっ、そうなの⁈」
「ずっと高校生の頃の先輩と不倫関係にあって、彼は傍にいてくれただけだから幸せになってほしいって。肉体関係もないんだって」
「ああ、そうなんだ。じゃあ寄りを戻そうってなるか?‥‥同棲だけでよくない?しかも、その生活はまだ続けているわけでしょ。寂しいから、二人でいたってのはわからんでもないけどね。よく二人の関係性がわからん」
「よかった。私だけかなって思ってた。こんなことにこだわること‥‥。」
「いやあ。俺が彩さんだったとしてもきっと同じことを考えたと思う」
「‥ありがとう」彩さんは、口に入れたたこ焼きを食べながら言う。
「それじゃあ。きっぱりと断ったってことだよね。そこんところ気になるから」
「そうよ。そうでなきゃ、あなたと会わないでしょ」
「そうか、そうだよね。ごめん、それとありがとう‥」