第10話 翔太と
彩は、目覚まし時計の音に無理やり起こされながらもボタンを止めて、また眠りについた。わずか10分後にまた容赦なく一段と大きく鳴り響く。
『リリリリーン』
「ううーん」大きく伸びをして、観念したようにベットから起き上がった。
そして、いつものように朝食の準備を始める。
パンとコーヒーと卵が基本メニューだ。
日によって、果物や野菜をプラスしたりする。
今日はこんがり焼いたパンにバターを乗せて、それと熱いコーヒーとゆで卵をプラスした。
ボッーとした頭で支度をはじめても、作り終わる頃には頭が冴えてくる。
冷めないうちにそれらをプレートにのせて、テーブルに運ぶ。
スマホを確認すると、翔太から何件もの着信履歴とメールが来ていた。
熱いコーヒーを飲みながら見ると
『嘘つき、昨日電話終わったら掛けるって約束したのに!』
そしてこんがりとしたパンをかじりながら次を読む。
『前にも、約束破られたっけ』
口の中に残っているパンをながすように、またコーヒーを飲む。
『信じられない』だの、朝から頭が痛くなる内容だ。
今度は、ゆで卵に塩を振って一口かじる。
『昨日は、本当にごめんなさい。もう、眠くて眠くて。今日、休みだからよかったら会わない?』謝罪を込めて、考え考え文字を選びメールを発信する。
「許すよ。会う」すぐに電話が、かかってきた。
(やけに、は、早いわね)
「掃除や洗濯を一気にすませたいから、お昼からでもよけれは」
「うん、いいよ。約束は絶対守って」
「わかったわよ悪かったわ。でも、昨日は疲れちゃってて不可抗力よ。そういう時は勘弁してよ。断りのメールだって送ったんだから。それに、そっちが勝手に待っていると言ったんだから」あっ、いけない。また言い過ぎた。
「でも、彩さんだってわかったって返事しただろう。それに、俺は『そっち』という名前じゃない。‥‥昨日の長電話も彼氏からで、そのまま寄りを戻すとかそういう内容か⁈とか思ったらあまり眠れなかったし」
「‥‥ごめん。心配かけて。でも、電話相手は武人じゃないわ。とにかく今から、家事の山をあらかた片付けてからメール送るわ」なんだか、面倒くさいなあと思ってしまう。武人とは、こういうことは一切なかったのに。
『家庭環境が複雑で。自分は自分も含めて一生誰も愛せないと、口癖のように言っていた‥』奥さんが言っていた言葉を思い出す。
だからなのか、翔太のような子供っぽさというか感情をあまり表に出さなかった。私も先輩という意識がいつもあったから、こんな些細なことで言い争うこともなかったのに‥。
(俺は『そっち』で、彼は『武人』かよ。ちぇ、面白くない。それでも、会わないかと言ってくれたのは嬉しい‥でも、彼と寄りを戻したのかっていうことには、はっきり否定しなかったのが気になる)
「メールくるのを、待ってるから」それだけ言うと翔太は電話を切った。