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事件簿2.トランクス切断事件

 

 ユウロピーは今日も探偵グッズを広げていた。彼女の机の上は、ルーペや虫眼鏡、メモ帳、ペンでいっぱい。ひとつひとつを手に取って丁寧に状態を確認しながら並べていく姿は、まるで本当の探偵が出動準備をしているように見える。


「うん、やっぱりこのルーペは最高だよね!何度見ても飽きない!」


 ユウロピーはご機嫌で、愛用の虫眼鏡をくるくる回してみせた。


 そんな様子を、タバコを咥えながらおじさんがじっと見ている。彼の視線には少しばかりの呆れが混じっていた。



「なぁ、片付けろよ。どうせまた散らかすんだろ」と、少し面倒くさそうに言った。



「えぇ~、まだこれからもっと並べるんだもん!おじさん、せっかちだなぁ~。」



 ユウロピーは笑いながら返事をしたが、当然のようにおじさんの忠告は聞き流していた。探偵グッズを広げて整理する時間が、彼女にとって何より楽しい瞬間だからだ。



 おじさんは帽子を被り直し、そろそろ出かける準備をしていた。ユウロピーが夢中になっている間に、さっさと事務所を出て行くつもりだ。



「まぁ、好きにやってな」

 おじさんはそう呟き、足早に外へ出て行った。



「あ~、もう少し見て行ってもよかったのに…」


 ユウロピーは少し寂しげに肩をすくめたが、すぐに気を取り直してまたグッズの整理を続けた。


 ルーペや虫眼鏡を持ち上げて光にかざしたり、何度も確認して満足げな表情を浮かべている。



「そうだ、次はベアチャンのチェックしなくちゃね!」


 ユウロピーはカバンの奥から小さなぬいぐるみのクマ、探偵ベアチャンを取り出した。彼女の一番の相棒であり、探偵としての「仲間」だ。ベアチャンも小さな探偵帽をかぶり、チェック柄の衣装をまとっている。



「ベアチャン、今日も絶好調だね!私たちでどんな事件でも解決できちゃうよ!」



 ユウロピーはベアチャンを持ち上げて、しばらく嬉しそうに眺めていた。



 探偵グッズを一通りチェックし終えたユウロピーは、ふと気になってベアチャンの衣装をじっくりと見つめた。

 いつもと同じチェック柄の服装をしているはずなのに、何か違和感があった。



「ん?…あれ、ベアチャンの服…これ、破けてる?」



 ユウロピーは眉をひそめ、さらにじっくりとベアチャンを観察した。どうやら、探偵コートの脇のあたりが少し裂けている。まるで、誰かに引っ張られたかのように生地がほつれていた。



「えー!?いつの間にこんなことに…!?」



 ユウロピーはショックを受けた。

 ベアチャンをそっと撫でながら、その裂け目を何とか修復できないかと考え込んだ。探偵として、相棒がこんな状態では恥ずかしい。早くどうにかしなければならない。


「これは…大事件だよ!おじさんに言ったら、きっと笑われちゃうけど…でも、ベアチャンをこのままにはしておけない!」



 ユウロピーはデスク周りをぐるりと見渡して解決策を模索した。しかし、手元には修繕に使えそうな材料が全く見当たらない。どうしたものかと困惑しながら机の引き出しを一つ一つ確認すると、ふと視界に何かが飛び込んできた。


「ん?あれ、これ…チェック柄の布?こんなとこにあったっけ?」


 ユウロピーは引き出しの端から覗いている布切れに目を留めた。

 それはどこかで見たことがあるような柄だったが、すぐにピンとこなかった。しかし、ベアチャンの破れた衣装と柄がよく似ていることに気づき、少しだけ閃いたような表情を浮かべた。


「これを使えば、ベアチャンの服を直せるかも…!」


 そう考えたユウロピーは、すぐにデスクの引き出しから布切れを取り出し、手元のハサミを握った。



 ユウロピーはハサミを手に取り、デスクの上に広げたチェック柄の布をじっくりと見つめた。ベアチャンの衣装と布を比べると、サイズ感が少し違うが、それでも何とかなるだろうという考えに至った。


「よーし!ちょっと大きいけど、切っちゃえばぴったりになるはず!」



 彼女は慎重に布をベアチャンのサイズに合わせて切り始めた。生地をハサミで「ジョキジョキ」と切る音が部屋に響き渡る。少し手間はかかったが、切り終えると満足そうに頷いた。


「これで、ベアチャンは新しい探偵コートを着られるね!」


 ユウロピーは手元の糸と針を使って、布をベアチャンの体に合わせて縫い直していった。多少の不器用さが出て、ところどころ縫い目が歪んでいるが、彼女は気にせず進めていく。


 ベアチャンのサイズにぴったり合った頃には、もとの衣装とは少し違う、どこか寝間着っぽい雰囲気の新しい探偵コートが完成していた。



「ふふ、ちょっと変だけど…これはこれでかわいい!」



 出来上がったベアチャンを抱きしめながら、ユウロピーは満足そうな笑顔を浮かべた。


 新しいコートを着たベアチャンも何だか嬉しそうに見える。


「これで一件落着だね!ベアチャン、これからも一緒に事件を解決しようね!」



 ユウロピーはベアチャンを高く持ち上げ、得意げに微笑んだ。



 部屋はすっかり静かになり、事件は解決したかのように見えた。





 夕方、おじさんが探偵事務所に戻ってくると部屋の中はいつものように散らかっていた。テーブルの上には探偵グッズが無造作に並べられ、床には布の切れ端が落ちている。


 おじさんはタバコを咥えながら、疲れたように目をこすりつつ、部屋の状況に軽くため息をついた。


「おい、ユウロピー…片付けはちゃんとしろよって言っただろうが…」



 ユウロピーはベアチャンを抱えて満面の笑みでおじさんに駆け寄ってきた。

 探偵ベアチャンは新しいコートを着てどこか堂々とした雰囲気をしている。


「おじさん、見て見て!ベアチャンの新しい衣装、似合ってるでしょ?」



「おじさん、見て見て!ベアチャンの新しい衣装、似合ってるでしょ?」



 おじさんは半分眠そうな目でベアチャンに目をやり、服をじっくり観察した。見覚えのあるチェック柄が目に入ると、ふと違和感が脳裏をよぎる。





「…その布、どこかで見たような気がするな…」



 ユウロピーは誇らしげに頷きながら、チェック柄の布を指差した。



「うん!デスクにあったチェック柄の布を使ったの!ベアチャンにぴったりだったから、つい切っちゃった!」



 おじさんは少しだけ沈黙し、タバコをくわえたままその言葉を反芻した。そして、ハッと気づいて顔をしかめた。


「…おい、それって…俺のトランクスだろ!」


 ユウロピーは驚いたように目をぱちくりさせ、頭を掻きながら口を尖らせた。


「え、嘘!?そんなことないよ!あんなにピッタリの布がトランクスなわけないし…」



 おじさんは深いため息をつき、ソファにどっかりと腰を下ろした。


「トランクスはチェック柄だったんだよ。まさか探偵ベアチャンの衣装になるとはな…」



 ユウロピーは驚きと共に、後ずさりながらベアチャンの衣装をまじまじと見つめた。

 表情が急に曇り始める。


「…う、うわ、ちょっと待って。それ、おじさんが履くやつだよね? え、汚くない?」



 おじさんは肩をすくめながら、タバコを咥え直した。


「いやいや、心配するな。新品だ、まだ履いてないやつだからな。」



 ユウロピーはそれを聞いて、ほっと胸を撫で下ろした。

「あぁ、新品ならいいか…。でも最初に言ってよ、びっくりするじゃん…!」



「お前ももう少し、何を切るか考えてから行動しろよな。」



 ユウロピーは頬を膨らませながら、ベアチャンをぎゅっと抱きしめた。

「だって、あれ、すごく可愛かったんだもん! おじさんの服より似合ってるでしょ?」



 おじさんは小さくため息をつき、「ま、そりゃそうかもな」と返しながら、再びタバコに火をつけた。





 事件簿2.トランクス切断事件 完

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