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事件簿8.お掃除事件

 

 外は晴天で少し風が強い午後。


 おじさんは窓際の椅子に座り、ゆったりとタバコをくゆらせていた。


 探偵事務所は決して広くはないが、何年も手を付けていない物が積み重なっており、部屋の隅から隅まで散らかっている。机の上には放置された書類や雑誌、ユウロピーの探偵グッズ、そして謎のガジェットまで、ごちゃごちゃに積まれていた。


 そんな中、ユウロピーは机の山に手を突っ込みなが

 ら思わず眉をひそめた。


「うーん、これじゃあ探偵事務所って感じしないですよ!むしろゴミ屋敷じゃないですか、おじさん!」


 彼女は振り返り、何かを思いついたように目を輝かせる。


「よし、大掃除します!部屋がスッキリしたらもっと探偵らしくなるはずです!」



 しかし、おじさんはその意気揚々とした提案に、気怠そうに眉を上げるだけ。彼は机に足を投げ出し、タバコの灰を灰皿に落としながら、ユウロピーを見上げた。


「掃除?お前がやるなら勝手にやってくれ。俺は別にこのままで不自由してないしな」


 そう言うと、再びタバコに火をつけ、まるでこの会話が終わったかのように話を切り上げようとする。



 しかし、ユウロピーは負けていなかった。

 彼女は机の上から積もった雑誌の山をひっつかむと、バン!と勢いよく投げ、床に散乱させる。


「おじさん!これじゃあ事件の書類も探せないでしょ!今日は大掃除作戦です!」


 彼女は手を腰に当て、得意気な表情を浮かべながら、すでに勝利を確信したかのように話す。


 おじさんは一瞬だけ目を閉じ、ため息をつく。



「分かった、分かったよ…。じゃあ、俺はソファーで寝ながら見てるから、勝手にやってくれ」



 そう言って、彼はようやく腰を上げ、ソファーに移動して横になった。足を組みながら、タバコを吹かしている。


「よーし!まずは片付ける場所を決めてっと…」


 ユウロピーは楽しそうに掃除道具を探し始めた。


 虫眼鏡や手帳、探偵帽、さらには部屋のあちこちに散らばる謎のガジェット類まで、全部を一気に片付けようと、彼女のやる気は最高潮だ。



 ユウロピーは勢いよく掃除を始めた。


 まずは床に散乱している雑誌や書類の山から手をつけることにした。

 彼女は机の上に積み重なった書類の束を両腕で抱え、ゴミ袋の前に立って決心したように袋を開く。


「これ、もういらないよね?おじさん!」


 ユウロピーは振り返って、ソファでタバコをふかしながら寝転がっているおじさんに声をかける。


「ん…?何だそれ?」


 おじさんはちらっと書類に目をやるが、すぐに興味を失って再び目を閉じる。

「適当に捨てとけよ。俺の案件じゃなきゃどうでもいい」



「適当に…ね。わかった!」

 ユウロピーはにっこりと笑い、そのままバサッと書類の山をゴミ袋に放り込む。



 次に目をつけたのは部屋の隅に置かれた古びた段ボール箱。ユウロピーはその箱を引っ張り出してみた。埃が舞い上がり、彼女はむせそうになりながらも箱の中を覗き込む。



「これは…一体何?」


 中には古い写真や手紙、何かのメモがぎっしり詰まっていた。


「おじさーん!この箱の中身は何?これも捨てちゃっていい?」

 ユウロピーが声を張り上げると、おじさんは少しだけ身を起こして箱を見つめる。


「ああ、それか。古い事件の記録だな…確か、数十年前のやつだ」


 彼は無関心そうに肩をすくめる。

「今じゃ役に立たねぇから捨てちまってもいいぞ」


 ユウロピーはためらいながらも箱を持ち上げようとするが、重すぎて持ち上がらない。仕方なくその場に座り込み、中の書類をひとつひとつ確認し始めた。


「うーん、さすがに数年前の事件って言っても、なんか勿体ない気がするなぁ…」


 ユウロピーはつぶやきながらも、古びた写真を手に取って見ていた。すると、突然部屋の電気が一瞬チカチカと点滅し始める。



「…え?何?停電?」

 ユウロピーが驚いていると、どこからともなく「カチッ」という音が聞こえた。振り返ると、今度は壁に立てかけてあった巨大な虫網が突然倒れてきた。



「…え?何?停電?」


 ユウロピーが驚いていると、どこからともなく「カチッ」という音が聞こえた。振り返ると、今度は壁に立てかけてあった巨大な虫網が突然倒れてきた。


「わわっ!」

 とっさに避ける。


 虫網はガラガラと音を立てて倒れ、他の探偵グッズも次々と床に散乱していく。床にはルーペ、懐中電灯、望遠鏡まで飛び出し、すべてがめちゃくちゃに広がってしまった。


「ちょっとおじさん!これ、どうにかしてよ!」


 ユウロピーが文句を言うと、おじさんは目を閉じたまま薄笑いを浮かべて言った。


「だから、掃除なんてするからだ。ほら、片付けんのが大変だろ」



「うー、ムカつく…!」


 ユウロピーは両手を腰に当てて睨みつけるが、おじさんはそのままくつろいでいる。仕方なく彼女は散らばった探偵グッズを拾い集め、再び掃除に取り掛かる。


 彼女は何とか虫網や探偵グッズを拾い集め、一旦片付けようとするが、探偵グッズはあまりにも多すぎて、どこからどう整理すればよいのか悩み始める。


「うーん…こういう時こそ、整理整頓術が必要だよね!」


 ユウロピーは自分を鼓舞しながら、探偵道具を一つ一つ手に取り、机の上に並べ始めた。


「このルーペは使いやすいし、ここに置いて…それから、この懐中電灯は緊急時用だから、机の引き出しにしまって…」



 そんなふうに整理をし始めたユウロピーだが思った以上に道具が多いことに気づく。棚のスペースもあっという間にいっぱいになり、片付けるべき場所が足りなくなってしまう。


「ちょっとおじさん!この棚、もっと大きいのに変えてよ!道具が多すぎて入らないよ!」


 彼女が不満げに声を上げるが、相変わらずおじさんはソファに横たわったままタバコをふかしている。



「道具が多いのはお前が無駄に集めるからだろ。整理して捨てりゃいいじゃねえか」


 おじさんは薄目を開け、冷たく言い放つ。


「捨てるなんて無理だよ!全部大事な探偵グッズなんだから!」


 ユウロピーはぷりぷりと怒りながら、さらに散らかった道具を必死に片付け続ける。

 部屋はますます混乱し、どこを片付ければいいのかわからなくなってしまった。



 ユウロピーがなんとか探偵グッズの整理に苦労している中、ふと床に転がった箱が目に留まる。彼女がその箱を開けてみると、中には古びた手帳やメモ帳が詰め込まれていた。


「おじさん、これ何?」

 ユウロピーが興味津々に箱の中を覗き込む。


「そいつは、俺の昔の事件の記録だ。あまり手を出すなよ、見る価値なんてない」


 おじさんは軽くあしらいながらも、少しだけ目を開けてユウロピーの様子を伺っている。


「事件の記録…?じゃあ、探偵の仕事の大切な証拠ってこと?」


 ユウロピーはさらに興味をそそられ、手帳の中を覗き始める。すると、中には昔のおじさんが解決した様々な事件のメモや手書きのスケッチがびっしりと書き込まれていた。


「わぁ、すごい!おじさん、こんなにたくさんの事件を解決してたんだ…」


 ユウロピーは目を輝かせて、どんどん手帳のページをめくっていく。


「まぁな。だが、それは昔の話だ。今はもう引退みたいなもんだ」


 おじさんは気だるそうに言うが、どこか誇らしげな表情を浮かべる。


 そんなやり取りの中、ユウロピーはあるページに目が留まる。そのページには、大きな赤い印がつけられ、何やら解決しなかった事件の記録が書かれていた。


「これ、どうして赤い印がついてるの?」


 ユウロピーが不思議そうに尋ねると、おじさんは一瞬だけ口を噤む。


「それは…俺が唯一、解決できなかった事件だ」

 おじさんの言葉に、ユウロピーは驚く。


「解決できなかった事件?」

 彼女はさらにページをめくり、その未解決事件の詳細を読み始める。


 ユウロピーは、古い手帳に書かれたおじさんの未解決事件に完全に夢中になってしまった。赤い印がつけられたページには、何枚かの古びた写真や手書きのスケッチが挟まれており、さらに彼女の好奇心を掻き立てる。


「おじさん、この事件、いったい何があったの?どうして解決できなかったの?」


 ユウロピーは手帳を持ち、おじさんの元へ急いで駆け寄る。おじさんは面倒くさそうに目を細めながらも、彼女の熱意に負けたように小さく息をつく。


「それは…あれだ。ずいぶん昔に巻き込まれた奇妙な事件だった。とある屋敷で起こった失踪事件で、証拠は山ほどあったが、肝心の犯人が()()()()()見つからなかった」


 おじさんは手帳に挟まれた写真を一枚取り上げ、懐かしそうに眺める。


「それで、結局どうなったの?」

 ユウロピーはさらに興味を示し、身を乗り出すようにして聞く。


「どうもならなかったよ。もうあれから何年も経った。未だに解決していない」

 おじさんは苦笑いを浮かべながら肩をすくめた。


「うーん、だからこそ気になる!この事件、私がもう一度調べてみるよ!」


 ユウロピーは意気込んで言い放つ。


「お前が調べたところで何も変わらんさ。だが、まぁ好きにしろ。掃除をちゃんと終わらせるならな」


 おじさんはタバコを一口吸いながら、軽く笑う。



 ユウロピーはその言葉を聞いているのかいないのか、すでにおじさんの手帳に夢中だ。

 未解決事件の証拠品が記されたメモや写真に目を通し、頭の中でいろいろな仮説を立て始める。


「もしかして、この手がかりを見逃したんじゃない?それとも、犯人は初めから屋敷にいなかったのかも!」


 彼女はあれこれ推測を立てながら、手帳を床に広げ、さらなる資料やメモを次々と引っ張り出していく。探偵グッズが散らばる床の上に、事件の書類や写真が追加され、部屋はますますカオスに。


「おい、掃除はどうしたんだ?」

 おじさんが眉をひそめて問うが、ユウロピーは聞こえていないかのように夢中でメモを読み進める。



「見て見て、おじさん!この証拠品、実は何か重要なヒントが隠されてたんじゃない?」


 ユウロピーは興奮気味におじさんに見せようとするが、おじさんは手を振り「勝手にしろ」と言わんばかりに再びソファに横たわる。


 部屋中が事件の書類と探偵道具で散らかっていく中、ユウロピーは完全に未解決事件の解明に夢中になり、大掃除はすっかり後回しになってしまった。



 ユウロピーはおじさんの古い手帳と散らばった証拠品に完全に夢中になっていた。

 彼女は手帳を大事そうに握りしめて次々と証拠品を手に取り、興奮しながらそれを整理しようとしている。しかし、部屋はすっかり混乱し、未解決事件の資料が床を埋め尽くしている。


「これは重要なヒントかもしれない!」


 ユウロピーは一枚の写真を手にし、何度も見返している。その姿を見ていたおじさんは、溜息をつく。



「おい、ユウロピー。お前、掃除が未解決だと探偵として名折れだぞ」


 おじさんは雑誌を手に取り、軽くユウロピーの頭をトンと叩く。


「え?でも、今はこの事件が…」


 ユウロピーは言いかけたが、おじさんの言葉に反論できず、しゅんとした。



「掃除しないなら、事件も解決できんぞ。さっさと片付けて、あとはまた後でやれ」


 おじさんは部屋の散らかり具合に呆れた表情を浮かべた。


「…でもすごく悔しくないですか?おじさんみたいな名探偵でも、解決できない事件があるなんて…!」


 ユウロピーはおじさんの手帳に夢中になりながら、何とかしてその未解決事件に関わろうとしていた。おじさんの過去の栄光と、今やくすんでしまった探偵としての姿に少しだけ不満げな様子を見せる。


 おじさんはふとタバコを消し、天井をぼんやりと見つめながらつぶやく。


「まぁ、未解決事件ってのは探偵にとっちゃ、どこか避けられない宿命みたいなもんさ。全てが解けるわけじゃない。だからこそ、次を探すんだろうがな…」


 彼の言葉には、微かに昔の名探偵としての鋭さが滲んでいた。

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