表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/38

事件簿6.害虫捕獲大作戦

 

 朝日が眩しく輝く中、ユウロピーは元気よく玄関から飛び出してきた。彼女の手には、大きな虫網と鮮やかな青い虫かごがしっかりと握られ、頭には麦わら帽子がちょこんと乗っている。目はキラキラと輝き、胸を躍らせていた。



「よーし!今日もいっぱい捕まえますよ、おじさん!」と、意気揚々と声をあげるユウロピー。



 一方で、後ろからゆっくりと歩いてくるおじさんは、寝不足そうな目をこすりながら渋い顔をしている。おじさんはいつものゆったりとした服装に帽子を深くかぶり、手にはタバコを持っているが、彼の心中はユウロピーとは対照的だ。


「虫取りか…探偵がこんなことをする羽目になるとはな…」

 おじさんは溜め息をつきながら、ぼやき始める。



「おじさん!探偵には観察力が大事って言ってたでしょ?虫取りだって、その目を鍛えるのにぴったりです!」


 ユウロピーは笑顔で、おじさんに言い返す。



「いや、探偵にとって必要なのは推理力だ…虫取りなんぞ、関係ないさ…」


 おじさんはやや不機嫌そうに返すが、内心ではユウロピーには言えない真の目的があった。果樹園の害虫駆除の依頼で、これがうまくいけば報酬が入る。おじさんにとってはそれが目当てだった。



 二人は果樹園に到着する。果樹園の持ち主が待っており、彼は困った顔で迎えた。



「いやぁ、最近どうも虫が大量に出るようになってね…果物に被害が出ているんだ」



 おじさんはちらりとユウロピーを見る。


「分かった。任せておけ。虫取り名人がここにいるからな」


 皮肉を込めてそう言うと、ユウロピーは「もちろんです!」と胸を張った。



 おじさんとユウロピーは、いよいよ虫取り開始。果樹園の中を歩きながら、おじさんはタバコをふかしつつ、

「探偵というのは、こういう観察眼を常に鍛えておくことが大事なんだ…」などと、適当な講釈を始める。


 ユウロピーは笑顔でそれを聞き流しながら、すでに次の虫を探すために虫網を振り回していた。



 果樹園の持ち主から渡された一枚のパンフレットを手に、ユウロピーは興奮した様子でおじさんの横に立っていた。


 虫網を片手に、彼女はまるでお宝を発見したかのように、そのパンフレットに夢中になる。


「わぁ、おじさん!見て見て!この『オオアゴカミカミムシ』って虫、木に穴を開けるんだって!」と、ユウロピーは楽しそうにパンフレットを読み上げ始める。彼女の指はパンフレットに描かれた巨大な虫のイラストを指し示していた。



 おじさんは肩越しにそのパンフレットをちらりと見たものの、あまり興味を示さず、煙草をくわえたまま気怠げに呟いた。


「ふむ…そんなに大きな虫がいるもんかね。どうせまた大げさに書いてあるだけだろう」


「えー、そんなことないですよ!ほら、次は『ハラグーロアゲハ』。幼虫が葉っぱを全部食べちゃうんだって。アゲハっていうくらいだから、成虫はきっと綺麗な蝶々になるのかなぁ」


「うーん、まあ、蝶々は好きだが…それは葉を全部食べられた果樹園主には迷惑な話だろうな」

 おじさんは皮肉混じりに返した。



 ユウロピーはそんなおじさんの言葉を聞き流しつつ、さらに次の虫を読み上げる。


「『タベブンブン』!これ、カナブンみたいに葉っぱを食べちゃう虫だって。ブンブン飛び回るのかな?…あ、次は『アワアワムシ』!樹液を吸って、泡を作るんだって!」


 おじさんは溜息をつきながら、やや疲れた顔で「ふーん、泡か…面倒な虫だな」と言いながらも、ユウロピーの楽しそうな様子には微笑ましいものを感じていた。


「そして最後は…『ヤバヤババッタ』!ヤバそうな名前ですね、おじさん!」ユウロピーは笑いながら最後の虫を読み上げる。


「…まったく、どんな名前だよ」

 おじさんは眉をひそめつつも、少しだけ口元に笑みがこぼす。


 パンフレットを読み終えたユウロピーは虫かごを手に、おじさんの方を見上げて意気揚々と宣言した。


「さて、行きましょう!これだけ虫がいれば、大漁ですよ、おじさん!」


 おじさんは腰に手を当てながら、軽くストレッチをして体をほぐそうとする。

「はしゃぎすぎると、体を痛めるんだぞ。こっちはもう若くないんだからな」


「大丈夫ですって!おじさんならまだまだいけます!」

 ユウロピーは明るく答え、おじさんを引っ張るようにして果樹園の奥へと進み始めた。



 二人はパンフレットの情報を元に、ターゲットの害虫を見つけるために果樹園を探し回るが、見つかる虫たちはいずれも小さく、パンフレットに描かれたものほどの巨大な虫は現れない。おじさんは疲れた顔で煙草に火をつけようとするが、ユウロピーに即座に止められてしまう。


「こら、おじさん!禁煙デーじゃないけど、今日は虫取りに集中ですよ!」


「…はいはい」と、不満げに返しながらも、仕方なく煙草をしまう。



 ユウロピーとおじさんは果樹園の中を歩き回り、次々と虫を捕まえていった。ユウロピーは虫かごの中にどんどん害虫を放り込みながら、楽しげにおじさんを振り返った。


「おじさん、見て!もうこれだけ捕まえたよ!」


 ユウロピーは笑顔で虫かごを振り、そこにはすでに『ハラグーロアゲハ』の幼虫や『タベブンブン』など、捕まえた害虫がぎっしりと入っていた。



「ふむ…なかなかの腕前だな。だが、まだ本番はこれからだ」


 おじさんは虫網を構えながら、どこか競技的な雰囲気を出していた。


 二人は果樹園 のあちこちを駆け回りながら、さらに害虫を集め続けた。すると、ふと木陰に何か大きなものが動くのが見えた。



「おじさん、あれ見て!」


 ユウロピーが指差した先には、立派なカブトムシがいた。ただのカブトムシではなく、巨大なショベルのような角を持つ『ショベルカブトムシ』だ。



「おお、これは…なかなかかっこいいやつだな」


「害虫じゃないけど、これは捕まえたい!」


 ユウロピーは大興奮で、すぐに虫網を構えて捕まえにかかった。


「待て、ユウロピー。あまり無茶すると逃げられるぞ」

 おじさんが注意を促すが、ユウロピーはすでに夢中で虫網を振り回していた。



「よし、もう少し…もう少し…!」


 ユウロピーは慎重に網を近づけていく。しかし、その瞬間、ショベルカブトムシは羽音を立てて飛び立った。


「しまった!」

 ユウロピーは網を振るも間に合わず、カブトムシはあっという間に木の上へ逃げ去ってしまった。


「だから言っただろうが…」


 おじさんは苦笑しながら、ユウロピーの肩を軽く叩いた。

「ま、害虫じゃないんだから、無理に捕まえる必要もないさ」


「でも、かっこよかったのに…」

 ユウロピーは少し残念そうにしながらも、すぐに気を取り直して「じゃあ次、また頑張ります!」と元気に言い直した。


 その後も二人は害虫を捕まえ続け、いよいよ目玉の『オオアゴカミカミムシ』を発見する。

 ユウロピーとおじさんは二人で協力して捕まえようとするが、この虫は思った以上に強力で木の表面を這いながら大きな顎をカチカチと鳴らし、威嚇してきた。



「こいつは…思ったより手強いな」


「私が先に捕まえます!」


 ユウロピーは自信満々に飛びかかるが、オオアゴカミカミムシは素早く動いて、なかなか捕まえることができない。


「ちょっと待て、ユウロピー。ここは冷静に…」


 おじさんが声をかけるが、ユウロピーは夢中で追いかけている。


 結局、二人は苦戦しながらも何とかオオアゴカミカミムシを虫かごに収めることに成功。捕まえた瞬間、二人は同時に息をつき、互いに顔を見合わせて笑った。



「ふぅ、これでやっと一段落だな」


「勝負、どうだったかな?」

 ユウロピーは得意げに虫かごを見せつけた。

「私、たくさん捕まえましたよ!」



「ふむ…まあ、そうだな。今回はお前の勝ちだ」

 おじさんは少し悔しそうにしながらも、ユウロピーを認めた。


 二人はその後も少しだけ捕まえた害虫を眺めながら、成果を確認し合った。



 害虫を無事に捕まえ終わり、ユウロピーとおじさんは果樹園の持ち主に報告をしに戻った。

 持ち主は捕まえた虫かごを見て大喜びし、報酬を手渡した。


「本当に助かりましたよ!これで果樹園も安心です」


「まあ、探偵ってのはこういうもんだ」

 おじさんは少し偉そうに答えるが、内心では虫取りの仕事にそこまでの誇りを感じていなかった。



「おじさん、これで一件落着ですね!」



「そうだな。まあ、害虫駆除も探偵の仕事の一部ってことだな」

 おじさんは報酬をポケットにしまいながら、ユウロピーに軽く頭を撫でて微笑んだ。




「ところでさ、おじさん。結局、私が捕まえた虫の方が多かったですよね?」

 ユウロピーは得意げにおじさんに向かって言った。



「そうだったか?まあ、いいじゃないか。俺もそこそこ頑張ったぞ」


 二人は笑いながら果樹園を後にし、帰り道を歩いていた。

 道すがら、ユウロピーはパンフレットの害虫を指さしながら、どの虫が一番大変だったかを語り始めた。


「やっぱり、オオアゴカミカミムシが一番強敵だったよね。あの大きな顎、怖かったけど、楽しかった!」



「確かにあいつは厄介だったな。でも、お前がいなかったら捕まえられなかったかもしれん」


「おじさん、それ褒めてるんですか?」


 ユウロピーはニヤリとしながら、おじさんの顔を覗き込む。


「まあ、そういうことだ。よくやったな」

 おじさんは軽く笑って、歩き続けた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ