第3話:女子が繰り出す小手調べ
引っ越してきて3日目、荷物の整理もだいぶ落ち着いた。宿題もない春休みは暇な訳なんだけど・・・、
「んん~~っ、いい天気ですね~~っ!」
「お出かけ日和だぁ」
美沙兎と舞梅ちゃんと3人で、街に出掛けている。記念すべき初お出掛けだ。
「本当はデートの方が良かったんですけど、どっちが先かで揉めるのは目に見えてましたからね。それに、デートだと舞梅ちゃんが尾行しかねませんし」
「右に同じ~~」
「というワケで3人でお出掛けすることにしました!」
とのことだ。
「筒火ちゃんには案の定断られちゃったよぉ~」
「いえ、あれはああ見えて、後でちゃっかり健也クンをデートに誘う気ですね」
そうは思えないけどな。
「でも筒火ちゃんは学校が一緒なんだし、私たちにはこれぐらいのハンデが欲しいよねぇ~」
「むしろ筒火ちゃんの方に“学校が一緒”ってハンデがあるんですよ。それを活かさないとは、まだまだ甘ちゃんですよね」
この2人にはきっと、知り合った男子とは仲良くしなければならないという鉄の掟でも叩き込まれてるんだろう。
「それで、ドコに行きますか?」
「行きたいトコをみんなで“せーの”で言おう~。健也くんもだよぉ? せーのっ」
え、俺も?
「映画館!」
「ショッピング!」
「おしゃれなカフェ!」
俺が映画で、美沙兎がショッピングで、舞梅ちゃんがカフェだ。突然だった割にはまともなこと言えたんじゃないかと思ってたら、2人が細い目を向けてきた。
「健也クン、映画館って本気ですか?」
「それはナイと思うな~~」
「えぇっ!?」
なんで!? いいだろ映画館! ここまで言われるほどなの!?
「私たちはまだ知り合ったばかりです」
「映画なんて黙ったまま何時間も過ごすもので、あたしはどうやって健也くんと仲良くなればいいのぉ?」
「う・・・」
一理ある・・・いや、なんか流されそうになってない? 映画見てる間は黙ったままでも、感想言い合うとかあるじゃん?
「とゆーわけでショッピングに決定です」
「ちょっとぉ~、おしゃれなカフェはぁ?」
「いいですか舞梅ちゃん。いま私たちが確認しなければならないのは、健也クンがどれほど女の子に興味があるかです。まずは小手調べに、下着屋さんに連れて行くのがいいでしょう」
「おい!!」
ふざけんな! それ小手調べじゃなくて10手目ぐらいに出すやつだろ!
「おぉっ? 美沙兎ちゃん頭いい~~。さんせ~~~」
「舞梅ちゃん!?」
なに賛成してんの!? いや舞梅ちゃんの性格なら乗っかるか・・・。でも大人なら止めてくれよ、男子を下着屋に連れてくなんてオコサマのやることだって。
「2対1で決定です! 民主主義に感謝!」
こんなふざけた民主主義があるか・・・あるのか・・・。
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で、マジで来た。視界に入るたびに思う、異様な空間だ。
たまにエスカレーターの真ん前に下着屋があることもあって、そんな場所に置く気が知れないと思ってるけど、この店は普通にエスカレーターから離れてる。今日はそのせいで俺はガッツリ下着屋の目の前に来るハメになったけど・・・。
「いやぁ目移りしちゃいますねぇ健也クン?」
こっちに振るな。
「あぁっ、健也くん目のやり場に困ってるぅ~。男の子だねぇ~」
「もういいだろここまでで」
俺の反応見て満足だろ? これ以上いじめないでくれ。
「何を言ってるんですか。まだ中に入ってないじゃないですか」
「マジでやめてくれ!」
「大丈夫ですよ健也クン、これでも私には良心があります。あれを見てください!」
ビシッ、と美沙兎が指差した先には、1枚のポスターがあった。
<男子連れ込み大歓迎!!>
「は・・・!?」
「ふっふ~~ん。説明しましょう! まず、女子にとって男子と仲良くなる第1歩は下着屋さんに連れて来ることです」
まずそれが間違ってるという認識を持ってくれ。そんな俺の気なんて知る由もなく、美沙兎は続けた。
「しかし、普通に女子だけで買い物に来た人にとって男子の存在は気になります。そこで! 考えられたのが棲み分けです。男子抜きで下着を選びたい女子と、男子に選んで欲しい女子、それぞれ別のお店を用意すればいいと。
そして! 一般的な下着屋さんが前者であるという前提のもと、男子連れ込みOKを堂々と打ち出すお店が誕生したのです!」
「そんなバカな・・・」
と嘆きながら店員の方を見ると、すっごいニコニコしてた。やめろ、俺は見世物じゃない・・・。
「そんなこと言ってぇ、健也くんも嬉しんでしょぉ? 顔ちょっと赤いも~ん」
「しょうがないだろこんなトコに連れて来られたんだから」
「あーっ、頭を抱えるフリは禁止です! ちゃんと見て選んでくださいね!」
「なんで選びまでしなきゃいけないんだよ!」
「連れて来ておいて選んでもらわないなんてあるワケないじゃないですか」
美沙兎のこの、“何言ってるんですか”みたいな顔がムカつく・・・。
「健也くんの好みは何かなぁ~? 清楚系かな、セクシー系かな、それとも裸Yシャツかなぁ??」
「下着屋にYシャツはないだろ・・・」
「あるよ? ほら」
「は?」
舞梅ちゃんが指差した先にあったのは・・・
<裸Yシャツ専用シャツ! 輪郭でカレを誘惑しよう! 丈もギリギリのラインを攻めまくれ!>
間違ってるだろこの店・・・こんなの駅ビルに置いちゃいけないよ・・・。
「よりどりみどりですね健也クン!」
「マニアックなのは絶対に選ばないからな」
「なるほど、まずはオーソドックスにいくタイプですね健也クン」
分析もやめてくれ!
「はぁ・・・」
無難な選択肢でもノーダメージで済むことがないのか・・・せめて大ケガはしないようにしよう。
「まずは私からですよ! 舞梅ちゃんの後なんて残酷にもほどがありますからね!」
そりゃまあ、中学生と大学生だからなぁ。そもそもこの店に中学生が使うようなのがあるのか?
「私の体型でも着れそうなのはこっちです!」
美沙兎に手を引かれ、店の中へ。男子連れ込みOKとは言え、やっぱり視線は飛んで来る。てかなんで男の客が俺しかいないんだよ! 他の女性客も連れ込んでてくれよ!
「これなんてどうでしょう健也クン!」
美沙兎が手に取ったのは、サイズが小さいだけで普通に大人っぽいデザインだった。色は黄色が強めのオレンジ。中学生でもこういうの着るんだな・・・。中学だと大抵はスカートの中は短パンだから分からなかった。
「“どう”って言われてもな・・・」
下着の上下セットを、服の上から自分の体に当てて俺の反応を待つ美沙兎。ぶっちゃけイメージしづらいんだけど。
「もしかして、試着しないと分かりにくいですか? 健也クンえっちですねぇ」
「ちげぇよ!」
いや、イメージしにくいのは確かなんだけど、試着まではしなくていい!
「どのみちある程度絞ったら試着しますけどね」
「すんのかよ!」
「当然じゃないですか選んでもらうんですから。あとで“想像と違う”なんて言われたくないですからね」
その“あとで”が絶対に来ないからいいだろ・・・。
「健也くん中学生に手を出しちゃダメだよぉ~? ここは安心安全・超合法な大学生にしよ~う」
「舞梅ちゃんも高校生に手を出したら犯罪ですからね!」
「いいも~~ん。まずはあたしが観賞用になるだけだから」
「むむ~~っ。ならば私も一方的に自撮り写真を送り付けます!」
「やめろ!」
人のスマホのデータを下着まみれにするつもりか!?
「心配しなくても、たまに下着姿でウロウロしてあげますよ」
「それもやめろ!!」
しかもなんて爽やかな顔でそんなことを言うんだ。知り合ってまだ3日だけど一番爽やかだったぞ今の美沙兎。
それからも、アレやコレやと美沙兎が手に取っては俺がコメントを出し、3つに絞られた。
「オレンジに、黄緑にラベンダーですか・・・どことなく、いかにしてこの場を乗り切るかという印象を受けますね」
「いかにしてこの場を乗り切るかしか考えてないからな」
「ダメだよぉ健也くぅん。ちゃんと選ばないとぉ~」
「無茶言わないで・・・」
どれが似合うかを真面目に考えて欲しいなら、普通の服屋に連れて来て欲しかった。
「ですが、くまさんパンツを却下したことだけは評価してあげましょう」
「そりゃあな」
そんなのを選んだ日には、最低でも1年はネタにされ続けるのが目に見えてる。
「では試着してきます! カーテンの向こうで脱いでる私を想像してドギマギしてくださいね!」
「するワケないだろ!」
「では下着姿を披露した時にドギマギしてもらいましょう」
「ぐ・・・」
絶対に目のやり場に困るぞ・・・とはいえ見ない訳にもいかない・・・誰だ! 俺をこんな窮地に立たせたのは! ・・・他でもない美沙兎だな。
美沙兎がカーテンの奥に入った。のはいいんだけど、まだ上着のボタンを外してるだけのはずなのに、妙に音が聞こえてくる。
「あぁっ、健也くんえっちなこと考えてるぅ~。隣にあたしがいるのにぃ~。そんな人にはこうだ!」
がしっ。
「うわっ、舞梅ちゃん!?」
「ちょっと舞梅ちゃん! 私のお着換えから気を逸らすために抱きついたりするのはナシですからね!」
「あたしから健也くんの気を逸らさせたければカーテンを開けるしかないんじゃなぁい?」
「ぐぐぐ・・・! それはまださすがに早すぎます!」
後になってもやらなくていいからな?
「というか舞梅ちゃんも離れて!」
「えぇ~~っ? でもぉ、そう言うってことはぁ、あたしを女の子として意識してたんだぁ~」
「う・・・」
「あ、否定しないんだ。やったぁ♪ じゃあそれに免じて許してあげちゃう」
ここでようやく舞梅ちゃんが離れてくれた。
「むむぅ~~っ。人の着替え中に仕掛けるなんて、さすがは私の最初にして永遠のライバルです!」
「へっへ~ん。負っけないからねぇ~~っ」
何の勝負をしてるんだこの2人は・・・。
そして、カーテンの奥から聞こえる音に困りながら隣でニマニマしてる舞梅ちゃんの視線を受けていると、やがて美沙兎がバッとカーテンを開いた。
「じゃじゃーん! お着換え完了です! これで健也クンもイチコロです!」
「うお・・・」
「おぉーーーっ」
まず披露されたのは、オレンジだ。
「どうです。中学生もナメたもんじゃないでしょう!」
「あ、まあ、な・・・」
確かに中学生もナメたもんじゃなかった。女子の下着姿ってマジで目のやり場に困るんだな・・・。
「あれぇ? もう目を逸らすんですかぁ? 健也クンえっちですねぇ~」
「も、もういいだろ! それは見たから次に着替えてくれよ!」
「つまり、早く黄緑やラベンダーが見たいと」
「そうじゃねえ!!」
強いて言うならさっさと全部見て終わりにしたいけど!
「あんまりせっかちだと、せっかく付き合えた女の子にも嫌われちゃいますよ?」
「余計なお世話だ!」
「あたしはせっかちでも大丈夫だよぉ~? 男の子はそれくらいえっちでなくっちゃぁ~」
「舞梅ちゃんも余計なこと言わなくていいから!」
「ぐぬぬっ! また舞梅ちゃんに一本取られてしまいました!」
何の一本だよ! はぁ、何なの。下着屋まで来て何の会話をしてるの俺たちは。もう、店員も他の客も笑いを堪える素振りすらないぞ・・・。
それから、残り2つの黄緑とラベンダーの試着も終えて、ようやく美沙兎が普通の服装に戻った。
「もしかして、また下着が見れるんじゃないかと期待しました?」
「してねーよっ」
「ちなみに今日着てきたのは・・・恥ずかしいので秘密ですっ♪」
「何を今更」
「あーっ、失礼ですねえ。ちゃんと恥ずかしかったんですからね?」
美沙兎が頬を膨らませながら上目遣いをしてきた。顔もちゃんとほんのり赤い。
「だったら見せなきゃ良かっただろ・・・」
反応に困る・・・いっそのこと堂々としててくれよ。
「にしし~。これでおあいこですね! 私ばっかり恥ずかしい思いはしません!」
くそ・・・中学生相手にしてやられた気分だ。そもそも中学生の下着姿で目のやり場に困った俺の負けか・・・。
「うぅ~っ。若さゆえの恥じらいを利用するとは、やるなぁ美沙兎ちゃん。だったらあたしは大人の余裕で勝負だぁ」
頼むから勝負なんてしないで・・・。そんな願いが通じるはずもなく、俺は舞梅ちゃんに手を引かれるのだった。
「やっぱり最初はこの2択だよねぇ~。赤とピンク! 健也くんはどっちが好き?」
「ぐ・・・」
初手でそれか・・・大人っぽいので来るとは思ってたけど・・・右手に赤、左手にピンク。舞梅ちゃんがそれぞれの下着セットを掲げて俺に見せつけてくる。
「ぐぬぬ~っ。私にもビビッドカラーの下着を着こなせるボディがあれば・・・!」
正直、美沙兎が悔しがるのも無理はないと思った。反則だよ舞梅ちゃん・・・。
「えっと、じゃあ、ピ…」
「見てて楽しい赤かなぁ? 脱がせたくなっちゃうピンクかなぁ??」
ピンクって言いにくくなったじゃねーか!! どうしたものかと思ってたら、美沙兎が横槍を入れてきた。
「健也クンのえっち」
「まだ何も言ってねーだろ!」
「“ピ”って聞こえましたよ?」
聞こえてたのかよ!! もうどうしようもねぇじゃん・・・。
「えっと、ピンクで・・・」
「わぁ♪ 健也くんえっちだぁ」
もうやめて・・・。
「なるほど、健也クンはビビッドよりもパステル派ですね。これなら私にもチャンスはありそうです」
「健也くんダメだよぉもっとオトナな趣味じゃないとぉ」
オコサマなんでまだ早いッス・・・マジで許して・・・なんて願ったところで許されるはずがなかった。
「はぁ~い、じゃあ今度はこれ~」
次は、白と黒。
「来ましたよ、健也クン。文字通り、健也クンの運命が白黒ハッキリ決まる時が!」
俺ここで選択間違えたら殺されるの? どうすんだよこれ・・・。
「もぉ~っ。健也くんがえっちなのはもう分かったんだからぁ、無難な選択とかじゃなくて、あたしにどっちが似合いそうかで決めて欲しいなぁ~っ」
「同感です。そのために来てもらったんですから」
「えぇ~~っ・・・」
とは言っても、もう今更か。あまりにも醜態を晒し過ぎた。男なんてこんなもんだと初めから2人も分かってただろうし、もう開き直ろう。
白と黒。舞梅ちゃんに、似合う方。舞梅ちゃんに、似合う方。舞梅ちゃんに、似合う方・・・もし、舞梅ちゃんが着るなら・・・。
「黒で」
「え?」
「え」
「え?」
舞梅ちゃん、美沙兎、俺の順で“え”って言うことになった。俺の“え”は、2人が驚いたことに対してだ。
「け、健也くんのえっち・・・」
「なんで!!?」
いやもう否定しないけど! なんで改めてそんな反応されなきゃいけないんだ・・・!?
「私もビックリです。まさか健也クンにこんなアダルトな趣味があったなんて」
え、何? わざわざ白か黒かって聞いておきながら、白を選ぶもんだと思ってたの? それとも単に俺がオコサマだと思われたの?
「そっかぁ~。健也くんが黒が好きならしょうがないかぁ~~。きゃっ♡」
ええぇぇぇぇぇぇ・・・。
「罪なヒトですね健也クン。まさか、出会って3日で黒の下着を要求するなんて」
出会って3日で下着屋に連れて来た美沙兎に言われたくねーよ!!
「あと1個は何にしよっかぁ。もっとえっちなのがいい?」
「もういいから!」
ホントに、これ以上はやめてくれ・・・。
「ピンク、黒ってきたから後は青か緑系かなぁ」
「やはりマニアックなところを攻めるんですね健也クン」
いま青だの緑だの言ったの舞梅ちゃんだからな!? でも、青か緑系なら、落ち着いた感じのが着そうで助かる。赤ピンク白黒がハード過ぎた。
「じゃあ、これと、う~~んっと、これかなぁ? じゃ~~ん。人体の神秘がどこまでも広がる青とぉ、奥深くまで探求したくなっちゃう緑ぃ~」
相変わらず人を困らせる説明文をありがとう。けど、今回の2択については、パッと見で“こっちがいい”と思えるものがあった。
「青がいい」
「あらら? 即決だぁ」
「むむぅ。健也クン緑より青派でしたかぁ」
いや、緑は緑で可愛いんだけど、どっちを着て欲しいかって言われたら青の方だった。デザインが全く同じって訳じゃないから、その差か? 分からないけど、舞梅ちゃんが取った青代表と緑代表がこの2つだったんだから、それで決めていいよな。青だ。
「それじゃあ、初お披露目はこの青いのになりそうだねぇ~」
「ちょっと待ってください舞梅ちゃん。まさか試着しないつもりですか?」
「そうだよ? 3つとも買っちゃうしぃ」
「待ってください! そんなの反則です! 私は恥をしのんでお披露目したというのに!」
「美沙兎ちゃんが勝手にやったんだよぉ。ほんとに付き合っちゃうかも知れない人への下着の初お披露目を試着でやっちゃうなんてぇ」
「あ・・・」
固まる美沙兎。
「そ、んな・・・私はなんてことを・・・!」
「一度見せちゃったから、もしその時が来ても緊張感が半分以下だねぇ~」
「く・・・っ! 私としたことが、一生の不覚・・・!」
一生の不覚て・・・。
「背伸びなんてするからだよぉ~。これがオトナの余裕なのです♪」
「くぅ~~~~~っ、悔しい! 大きなビハインドを取ってしまいました!」
何のビハインドだよ、とかいうツッコミはもうしない方がいいのか?
「ぐぬぬぬぬ・・・あっ、そうだ! 下着なんて水着と大して変わらないですから、お披露目なんて言っても水着と似たようなものですよ!」
「となると美沙兎ちゃんはぁ、夏を待たずして水着の初お披露目もしちゃったことになるねぇ~」
「ああぁぁぁぁぁぁぁ・・・!!」
頭を抱える美沙兎。1人だけ忙しいな・・・。
「という訳で健也くぅん、この青の下着、楽しみにしててねぇ~~」
「え、あ、うん・・・」
「あ、健也くん今日見れなくて残念がってるぅ。初お披露目が楽しみだぁ~」
やめて。そんな日が来たらまともに舞梅ちゃんの方を見れないぞ。そんな日が来たら、の話だけど。
「というか2人とも、なんで人を彼氏候補みたいな扱いにしてるんだよ」
「“みたいな扱い”、じゃなくて実際に彼氏さん候補ですよ?」
「はぁぁ??」
これはあれか? また人の反応を見て楽しんでるのか?
「う~~~ん。これははっきり言っちゃった方が良さそうだねぇ」
「そのようですね。どうやら、からかってるだけだと思われてるみたいなので」
「実際そうじゃないのかよ・・・」
なんて言ってみる。自意識過剰な奴とか思われたくないし。
「健也クン」
「なんだ?」
美沙兎が、これまでとは打って変わって落ち着いた笑みを見せてきた。こんな顔できたんだな、美沙兎。
「確かに、私たちは知り合ってまだ3日です。外にお出掛けするのも初めて、お互いのことを何も知りません。それこそ、健也クンの下着の好みしか」
「それはもういいだろ・・・!」
「まぁまぁ、聞いてくださいよ」
そりゃ聞くけど・・・。
「これは知ってて欲しいのですが、全ての女の子にとって、出会う男の子はみんな彼氏さん候補です」
「それは美沙兎と舞梅ちゃんだけなんじゃ?」
「そんなことないよぉ」
「いや豊橋とか絶対違うだろ」
「今のところは、ですよ」
「はぁ??」
「人によりけりだからねぇ~」
人によりけりだからこそ、“全ての女の子にとって”、じゃないだろ。
「女の子は誰だって、運命の出会いを求めてます。念願叶って成就する人もいれば、せっかく出会えたのに失恋してしまう人、運命の人には巡り合えずそれまでの出会いの中から選ぶ人、諦めて独り身になってしまう人・・・色んな人がいますけど、みんな心の中には憧れを持っているんです」
「それでね、運命の出会いなんてそうそうないってことは健也くんも分かってると思うけどぉ、それは女の子も分かっててぇ、運命の出会いなんてそうそうないから、数打ちゃ当たる戦法なんだよぉ」
「筒火ちゃんは数打ってるように見えないかも知れませんが、初対面から恋愛対象として見るのを良しとしていないだけで、一緒に過ごしていく中で惹かれる可能性は大いにあります。本人も自覚してないですが、明確にフッたりしない限りは健也くんも学校の男子もみんな彼氏さん候補なんです」
「もちろんいきなり告白してもフられちゃうけどねぇ~」
「その場合、告白してきたこと自体を筒火ちゃんの本能が拒否しているんです。お勉強とか将来のことが第一で、恋愛は二の次か副産物で考えてるタイプですから、脈がないことを察せないような男子はお断りでしょうね」
「あたしたちはこうやって積極的にいってるけどぉ、それでも“この人は合わないな”って思ったら距離を置くようにしてるんだよぉ? ほとんど無意識に、その人への興味がなくなっちゃうんだよねぇ、本能が受け付けてくれないと」
「なので、3日目にして距離を置かれていない健也クンは、第1印象と第2印象ぐらいは突破してるんです。私たちだって、誰それ構わず連れ回したり、下着を選んでもらったりしてる訳じゃないですよ」
「健也くんがぁ、運命の人になるかも知れないから、色んなところに行って、色んなものを見て、聞いて、触って、遊んで、お互いのことを知っていきたいなって思うんだぁ」
「下着の好みなんて、うわべのものじゃないですか。嘘偽りなく、ただの小手調べですよ。これからどんどん、健也クンの内面に踏み込んでいきますし、私たちの内面にも踏み込んでもらいます」
「ちゃんと、女の子として見てくれなきゃヤだよ? それでぇ、いつの日かぁ、きっとぉ・・・」
「 私 のことメロメロにしてくださいね♪」
「あたしのことメロメロにしてくれるよね♪」
「うお・・・っ」
すっかり、聞き入ってしまった。知り合った男子と仲良くしなきゃいけないという鉄の掟は、本物みたいだ。正直甘く見てた。てかすっごいプレッシャーなんだけど、何て返せばいいんだ・・・?
「えっと、まあ、嫌われてないのは嬉しいし、頑張る、けど・・・」
すっげー曖昧な返事。しかも目を逸らした。こんな俺が、この2人の期待に応えられるのか? と思って2人の顔色を伺ったら、どっちも笑顔のままだった。
「良かったぁっ。今ので“なんでだよ!”とか言われてたら、そこで本能が拒否しちゃってたよぉ」
「同感です。やっぱり健也クン、私たちの“運命の出会い”の素質ありますよ?」
「ええぇぇぇっっ???」
わっかんねー・・・。何が良くて何がダメなのかサッパリだ。2人の本能が俺を拒否しない限りは続くんだろうけど、考えても分からないし、その場その場を楽しむしかないか。マジで、女子と遊びに行けてラッキーぐらいの感覚しかないんだけど・・・。
「それじゃあ、次はおしゃれなカフェに行こう~~」
「小手調べも終わって、本格的な交流ですね♪」
まさか今の話も“小手調べ”なんて言わないよな・・・もう気力をごっそり持って行かれたぞ。
先が思いやられる。そんなことを本能で感じ取りながら、俺は2人に連れられて移動するのだった。
無期限活動休止に伴い、次回は未定です




