第2話:歓迎パーティー!
「それじゃあ、新しい仲間、カッコ男子がやって来たことを祝して~、かんぱ~~い!」
「「かんぱーい!」」
「かんぱぁ~~い!」
「かんぱい・・・」
「かんぱーい」
美沙兎の掛け声に、みんなで続いた。意外と元気よく言ったのが伯父ちゃんと伯母ちゃん。ちょっとゆるふわ感を出したの舞梅ちゃん、半分義務みたいに呟いたのが豊橋だ。で、1人足りない訳だが、
「全く。弦弾さんってばこんな時にまで仕事だなんて」
社会人たる弦弾さんは、美沙兎が呼びに行っても“15分後に行く”という返事で下りて来なかったらしい。
「社会人の“15分後”は最低でも30分後だよ~~」
サラリとこんなことを言う舞梅ちゃん。弦弾さんが宣言通りに下りて来なかったのは一度や二度じゃないんだろう。
「でも、“1週間で仕上げろ”、が2日後には“明日まで”、になることはよくあるって弦弾さん言ってましたよ」
指を立てながら説明口調でそう言ったのは美沙兎。
「社会人は大変だぁ~~」
「私たちはそうならないようにしましょうね、健也クン!」
「そ、そうだな・・・」
美沙兎は両脇を締めながらガッツポーズを見せた。仕草も表情も女子中学生らしさ満点なんだけど、今の話の流れでそれをされても困る。
と、ここで「ふぅ」息をつきながらツッコミを入れたのが豊橋。
「2人とも、弦弾さんを見て色々と学ぶのもいいけど、ほどほどにね」
「だって弦弾さんも、自分と同じ道は辿らないようにって言ってますよ?」
「そりゃ言うでしょうけど・・・」
右手で頭を抱える豊橋。本当に大変そうだなぁ。
「健也クンは、将来の夢とかあるんですか?」
「将来の夢かあ・・・」
いつかは考えなきゃいけないんだろうけど。
「まだわかんないな。日本に残ったのだって、転校したくなかったってだけだし」
アメリカに行ってみたい気もしたけど、英語とか無理だし、何年も住むことになるのはなあ。今からだと大学受験にもろかぶりしてしまう。
「ま、そんなもんですよね。でもテキトーに生きてたら社畜ですよ?」
「こら美沙兎。弦弾さんが適当に生きてたみたいな言い方はしないのっ」
豊橋は今度はビシッと注意した。
「そんなつもりじゃないですよお。テキトーにしてたら、社畜になっちゃう可能性が上がるって話です」
「だったら美沙兎が適当じゃない姿も見せて欲しいんだけど」
「むっ! 失礼ですねえ。私がテキトーだった時がありましたか?」
「いつも適当じゃないの!」
「「「「あっははははは!」」」」
2人のやりとりを見守っていた面々が、ここでドッと声を上げて笑った。
「ね? 健也くん。この2人、見てるだけで面白いでしょぉ~」
「あっはは・・・」
と苦笑いだけしたところで、返事をするよりも先に、
「ま・う・め・ちゃ・ん・も、」
豊橋が反応した。
「せっかく頭いいんだから、無駄にしないように将来のことちゃんと考えてよねっ」
「わかってるよぉ~~」
これもいつものことなのか、舞梅ちゃんはのほほんとしている。てか豊橋も“舞梅ちゃん”呼びなのか。根負けしたんだろうなあ・・・。
全く会話に入って来ない伯父ちゃんと伯母ちゃんはと言うと、終始ニコニコした様子で俺たちを眺めていた。賑やかでいいねえ、とか思ってそうな感じだ。
「美沙兎こそ将来の夢とかあるのか?」
人に聞いておいて、わからんって答えたら“そんなもんですよね”と返されたけど。
「もちろん、可愛いお嫁さんです!」
「はぁぁ~~??」
「ちょっと何ですかその顔は。私には無理って言うんですか?」
「そうは言わないけど」
むしろ美沙兎ならそんなに難しくないだろ。
「そこはドーンと、“もしもらい手がいなかったら俺がもらってやるよ”、ぐらい言ったらどうですか?」
「何でだよ」
そんなセリフ吐く奴いんのかよ。
「ちょっと竹下君、中学生に手を出す気?」
「出さねえよ! 美沙兎が勝手に言ってるだけだろ」
「あぁーっ! 健也クンさいてー! これが運命の出会いかも知れないんですよ!?」
「美沙兎もややこしくなるようなことを言うな」
「そうだよぉ。健也くんはあたしと毎日ゲームするんだからぁ」
舞梅ちゃんもやめてくれ。しかも、体をこっちに傾けて腕を掴んできてるし。
「こら、食事中にべたべたしないっ」
ほら豊橋に怒られた。
「じゃあご飯の後でべたべたしよ~~」
「食後もダメっ!」
「じゃあ食前? ご飯の前に“あたし”だ~~」
「ダメっっ!!」
「えぇぇ~~~~っ??」
ぷくぅっと、ほっぺを膨らませた舞梅ちゃん。
「そうですよぉ。女子大生はすぐボディタッチに走るんですからぁ。もっと乙女らしく、ステップというものを踏んだらどうですか?」
美沙兎がそれを言うのか?
「じゃあ美沙兎ちゃんはどういうステップがいいの~?」
舞梅ちゃんが聞いた。美沙兎は首をかしげて考える。
「そうですねえ・・・せっかくの運命の出会いですからね。まずは、朝寝坊して食パン咥えながら走って曲がり角でゴッツンコするぐらいのロマンスが欲しいですよね」
どうやれば同じ家に住んでる相手と食パン咥えながら曲がり角でぶつかれるんだよ。
「というワケで健也クン、春休み明け初日は外でスタンバッててくださいね。私が食パン咥えて走る方をやりますから」
自作自演かよ! ロマンスはどこ行ったんだよ。
「芸がないなぁ美沙兎ちゃんは」
いや今のをマジでやったら芸の領域だよ。
「うふふ、やっぱり男の子がいると盛り上がるわねえ」
伯母ちゃんは相変わらずだ。ブレーキ役になってくれる気はしないな・・・そこへ豊橋が細い目を向ける。
「みどりさんはもっと管理物件内の風紀に気を配って欲しいんですが」
「まぁまぁ、みんな若いんだから、これくらいは、ね?」
“ね?”じゃない気もするんだけど。
「はぁ・・・」
諦めたか、豊橋。1人でブレーキ役、頑張ってくれ。
ギロリ。
「え」
睨まれた。
「節度は保つこと、いいわね」
ってまさか俺も? そりゃそうなんだろうけど・・・でも2人だって俺をからかってるだけだから大丈夫だろ。
「はっははは」
伯父ちゃんが笑った。
「私は若い頃もそういうことは無かったから、羨ましいよ。みんな、健也君と仲良くしてやってね」
「はーーい!」
「はぁ~~い」
「・・・まあ」
何でだろう、前途多難な予感がしてしまう返事だ・・・。
そうこうしているうちに、階段を下りる足音が聞こえてきた。
「あ、弦弾さんだ!」
予想通り、すぐに弦弾さんが姿を現した。
「遅くなっちゃったね」
「ホントですよ! 何やってたんですか!」
「仕事ってさっき言わなかったっけ・・・というか私は仕事以外しないよ、はは・・・」
「も~~~~っ、こんな時にまで仕事しちゃダメです! せめてパーティーが終わってから徹夜でやってください!」
「君も鬼だね・・・」
どこまで自覚してるのか知らないけどたまにとんでもないこと言い出すよな美沙兎って。
「弦弾ちゃん、本当に無理はだめよ? 仕事なんて、多少できなくっても怒られるだけなんだから」
伯母ちゃんが優しく言った。
「あっはは・・・その“怒られる”が中々キツいもんなんでついやっちゃうんですよね・・・」
遠い目で苦笑いを見せる弦弾さん。この人はこの人で苦労してるみたいだ・・・。
「ほらほら、今は仕事から離れてるんですから元気にいきましょうよ。そんな辛気臭い顔するのは仕事の時だけにしてください」
「上司以上の鬼だよこの子・・・」
弦弾さん・・・豊橋とは別の意味で大変そうだな。でも笑みがこぼれてる辺り、このやり取りを楽しんでる部分もあるのかも知れない。
「目の下にクマなんか作ってくるからですよぉ。男の子が来たんですから、もっと自分の魅力をアピールしなきゃダメですよ? 大人の女性として私たちのライバルとして君臨するぐらいに!」
「あんたねぇ・・・トシ10は離れてんのよ」
「そんなものは健也クンが高校卒業すれば微々たるものです! 私なんて中学生の身で戦わなきゃいけないんですよ!?」
「その点、一番有利なはずの筒火ちゃんがやる気なさそうで拍子抜けだよねぇ~」
「私には何で争うことが前提になってるのかが分からないんだけど」
「その方が面白いからです!」
「その方が面白いからだよぉ~」
「はぁ・・・理解できないわ・・・」
俺にも理解できない。
だけど、仲良くしてくれそうなところはひと安心だ。全員が豊橋や弦弾さんみたいな感じだったら、それはそれでゾッとする。
「今何か失礼なこと考えなかった?」
「考えてねーよ!」
こえぇー・・・。
「さて」
弦弾さんが席に着いた。
「健也君、改めてよろしくね。既に知っての通り仕事してばっかりだけど、たまにはどっか出掛けたりしましょ」
「あぁーっ! ちゃっかりデートに誘ってるーー!」
「大人だぁ・・・」
「2人もこれくらい誘うでしょ・・・」
「こう見えて私は作戦を練ってたんですっ」
「どんな作戦?」
「そりゃもちろん、記念すべき1回目を遊園地にすべきか、水族館にすべきか、はたまた・・・って感じですよ」
「それは作戦というより、“どこに行くか”でしかないでしょ」
うん。世の中、デートに誘うこと自体に作戦が必要なのを美沙兎は知らないんだろう。
「それはそれとして、この歳になってくると、遊び盛りの男には警戒されちゃうし、同年代には真剣に考えられちゃうしで、気兼ねなく出掛けられる相手がいないのよ」
あぁ・・・さっき10以上離れてるって言ってたな。俺がこの4月から高2ってのは弦弾さんも知ってるだろうし、27~30歳ぐらいか? 確かに、なかなか遊びでデートとかはできなさそうだ。
「そんな訳で健也君、よろしくね」
「はい、別にいいですけど」
すごい疲れてそうだし、大人の女の人と出掛けるってのも面白そうだからいっか。
「むむぅ~~っ。さすがは大人、侮れませんねえ」
「うんうん、これぐらいやってくれないと張り合いがないよぉ~」
2人には“張り合う”っていう前提を捨てて欲しいんだけど。
「ははは、でも良かったよ」
と伯父さん。
「さすがに私では歳を食い過ぎているからね。本当に弦弾ちゃんは心配だから、気分転換したい時は健也君を連れてって欲しいよ」
逆に俺は20代後半の人からすればガキなんじゃって気もするけど。
「それじゃあ遠慮なく。健也君は背も高いしそんな子供には見えないから助かります」
本人がこう言ってるならいっか。マジで目の下のクマを見てると心配になる・・・。
その後は他愛のない歓談が続いて、お菓子もほとんどなくなってきた辺りで片付けタイムに入った。
「よ~っし、健也クンに私の主婦力を見せつけてやんないと!」
「あたしだって負けないよ~~~」
2人は仲良く皿洗いをするみたいだ。弦弾さんはどうせ仕事が残ってるだろうからと満場一致で部屋に帰し、伯父さんと伯母さんにも休んでもらって、テーブル周りの片付けは俺と豊橋。流しの2人には聞こえないように、声を掛ける。
「豊橋・・・お前、大変だな」
「誰のせいだと思ってるのよ。竹下君が来る前も大変だったのに」
それは申し訳ない。
「でもしばらくすれば落ち着くだろ」
男子が来てテンション上がってるだけだろうし。
「どうかしら。“戦う”とか言ってたみたいだけど?」
「言ってるだけだって、あんなのは」
「どうだか。こうなった以上、ここの風紀は竹下君次第なんだから気を付けてよね」
「そりゃまあ、気を付けるけど」
ホント、2人とも距離感が俺の感覚とズレてるからな。
「2人で何コソコソ話してるのぉ~?」
「筒火ちゃん、興味ないフリしてまさかの抜け駆け!? 隅に置けませんねえ」
「「はぁ・・・」」
女の子ばかりで楽しそうなはずなのに、それ以上に不安が拭えないのはマジで何でなんだろう。いずれにせよここで生活するのは変わらないから、気をしっかり持とう。
次回:女子が繰り出す小手調べ