量子スリットの恋
登場人物:
萌絵:聡明で好奇心旺盛な大学院生。物理学を専攻している。
犀川:冷静で理知的な教授。物理学に対して深い洞察を持つ
大学の物理学研究室。窓の外には夕日が差し込み、研究室の雰囲気を温かく包み込んでいる。萌絵と犀川がヤングの二重スリット実験の準備をしている。
萌絵:「ねえ、犀川先生。ヤングの二重スリット実験って、本当に不思議よね。粒子が波のように振る舞うなんて、まるで魔法みたい。」
萌絵は実験装置を調整しながら、目を輝かせて話しかけた。
犀川:「確かに、量子力学の中でも特に興味深い現象だ。粒子が観測される前は複数の可能性を持つ状態にあるなんて、直感に反する話だね。」
犀川は冷静な表情で、萌絵の言葉に耳を傾ける。
萌絵:「実験を進める前に、ちょっとだけロマンチックな話をしてもいい?」
萌絵はふと立ち止まり、犀川を見つめた。
犀川:「ロマンチックな話?量子力学とはあまり結びつかないように思えるが、まあいいけど。」
犀川は少し眉を上げて微笑んだ。彼の態度はいつも通り冷静だ
萌絵:「もし、私たちの感情もこの二重スリットのように重ね合わせの状態になっているとしたらどう思う?」
萌絵は微笑みながら続けた。その言葉に犀川は軽く頷いた。
犀川:「つまり、我々の感情が観測される前には、複数の可能性を持っているということか。それは面白い仮説だね。」
萌絵:「例えば、私たちがそれぞれ別々の感情を持っていたとしても、お互いに対する気持ちが干渉し合って、一つの波として現れることがあるんじゃないかって思うの。まるでこのスリットを通る光のように。」
萌絵は上目使いで犀川方を見た
犀川:「感情の干渉か。確かに、量子力学の視点から見ると興味深いアナロジーだ。しかし、感情はもっと複雑で、必ずしも物理法則に従うわけではないな。」
犀川は微笑みながら答えた。
萌絵:「それでも、もし私たちが…私たちの感情を確かめるために、この実験を使ったらどうなるのかな?」
萌絵は少し恥ずかしそうに言ったが、その声には期待が込められていた。
犀川:「感情を確かめるために二重スリット実験を使うというのは、科学的には無意味かもしれないが、君の好奇心は評価するよ。」
犀川は苦笑しながらも、真面目に答えた
萌絵:「じゃあ、試してみましょうか。私たちの感情がどんな干渉パターンを作り出すのか。」
萌絵はいたずらっぽく笑いながら、実験装置のスイッチを入れた。二人の心が交わる瞬間を感じ取るように、装置は静かに作動し始めた。