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高校2年、冬


 あれは確か、去年の夏だった気がする。やけに外が五月蠅くて少々苛立ちを覚えながら足を運んだ進路指導室。俺がノックをすると、少しだけ扉が開き「すまん、少し外で待っていてくれ」と進路指導の川上がひょっこりと顔を覗かせた。そのときだ。俺は初めて、その瞬間に遠藤千沙を目にした。


 目にした、と言っても後ろ姿のみで、艶やかな黒髪がまっすぐに腰のあたりまで伸びている、清楚な印象であることくらいしかそのときにはわからなかった。それでも何だか彼女のことが気になって、俺は良く彼女の顔が見れるようにと、わざわざ廊下を挟んで進路指導室の向かいの壁に凭れ掛かって待つことにした。


 数分後、扉にはめ込まれた細長い擦りガラスに黒い人影が映ったかと思うと、川上がガチャリと扉を開け彼女が出てきた。最近では30℃近くなることが多く、今日だって最高気温は29℃だと朝のニュースでみたくらいであったが、彼女は淡いブルーの薄手のカーディガンを着ていた。色のせいか彼女のせいか、その姿は長袖にも関わらず全く暑さを感じさせない、むしろどこか爽やかな雰囲気さえ纏っていた。


「山本、待たせたな」


 ドアノブに手を掛けたまま川上が言う。彼の肌は俺の肌と同じく黒くこんがりと焼けていた。



 そして今、あの時の彼女が、目の前に座った。あれきり学校で見かけたことはなく、俺自身今日の今日まで忘れていたようなものであったというのに、いざ彼女を再び目にするとそれが間違いなくあの時の女子生徒だということがはっきりとわかった。


 途端に彼女に対するあの時の興味が再燃する。俺は机に広げた勉強道具を整理するふりをして、彼女を盗み見た。学校の自習室に配置されている机は大体仕切りがある個人用の席だが、部屋の奥にひとつ大きめな、例えば中学の時に技術室や美術室にあったような木製のテーブルがある。椅子も4つ備え付けられていて、仕切りは無い。大抵そこは友人同士で勉強をしに来た生徒が利用しているのだが、今日に限っては個人用の席が満席だったため、俺は仕方がなくひとりでそのテーブルの一角を使っていた。彼女は、俺の斜め向かいに座ったのである。


 「あ、」


 教科書やワークブックを静かに広げる彼女の手元を見て、俺は名前を知った。遠藤千沙。控えめだが形の整ったその字はしっかりと記名欄に収まっており、本人の性格を表しているように思えた。だが、問題は名前ではなかった。


【3年2組 遠藤千沙】


 彼女が——遠藤千沙が表紙をめくると、俺にはそこにプリントされている文字が良く見えた。数学Ⅲ。それは明らかに高校3年生が学習する内容であった。手書きの記名を見た時にはまだ、姉の御下がりかもしれないし、学年を間違えてかいたかもしれないと、しょうもない一抹の期待を抱いていたがやはりそんなことはなく、はっきりとしてしまった。遠藤千沙は3学年だった。


 俺は途端に、自分が2時間ほど向き合っていた英語表現Ⅱのワークブックが恨めしく感じた。彼女は、遠藤千沙はこんなもの1年前にとっくに修了している。俺は、俺がどれだけ彼女から遅れた存在であったのかを思い知らされた。


「あの…何か」


「え、っあ、いえ。すみません」


 驚きとショックとで、見つめすぎたか。遠藤千沙が小声で囁くように聞いた。まさか声を掛けられると思っていなかった俺は明らかに動揺しながらも、声を潜めて返事をした。彼女の声を初めて聴いたが、やはり頭の中で想像していたものと同じであった。凛とした美しさの中に儚さが香る、いかにも彼女らしい声だった。




はじめまして、有明あめりです!!

処女作になりますが、何卒よろしくお願いいたします!

いいねやコメントなどもお待ちしておりますので、よろしくお願いします :)

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