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第71話 学校で怪談(十)

「それの、どの辺が呪いなんだよ?訳わかんねえよ」

「……わからなくたって、いいじゃないの」

 文子が、意味ありげに微笑した。


「私ね……実は、たっくんのこと、呪っているの……」

「え?何で……」

「呪いをかけているの……」

「だから、な」

「ずっと、呪っていたの…」

「なんで……」

「呪っているの……」

「な、なな何なんだよおおお!!」

「何って……呪っているだけよ?呪ってるの……私はたっくんを呪いたいの……今も呪ってるの…呪ってるの呪ってるの呪ってるの呪」


ギャアアアアーーーーーッ!!


「逃げんの無しな」

 大彦が、拓を素早くがしっと羽交い締めで確保。


「ほら……呪ってるって言われるだけで、とっても気味が悪いのよ。その後に、たまたま悪いことがあると、呪いの所為なんじゃないかって、チラッと思ってしまうの。小さな悪い事なんて、何もしなくても誰にでもあるのに、全部呪いなんだって、どんどん怖くなっていくの……。肩こりがしただけで、肩が重い、何かが取り()いてるんじゃないかって、(おびえ)えながら生きていくことになるのよ……」


 文子が、残り2本になったうちの1本の蝋燭を静かに吹き消した。


「おしまい……」

「ロウソク消す前に言えよ怖え!」


 という訳で、蝋燭は最後の1本となった。

 百物語なら九十九話で終わりにしないと何らかの怪異が現れる、という呪術が発動するらしいので、五十物語も四十九話で終わらせるのが安全だ。


 だが、今回の企画は『全部消す』だ。このくらいしないと胆試しにはならない。


「あ、俺か」

 将来は兄に続いて僧侶だが、実は都市伝説好きな真二郎が、人工地震と人工台風とどちらにしようか、と思った時だった。


「あれ……?」


 真二郎は、とても怖いことに気付いてしまった。

 どうして、自分が最後の一本になるのだろうか?


 最後は自分ではない、はずだ。自分で終わりになる訳が無いのだ。

 何故なら、


「俺って、九人目だよな……?」

「…………」

「五十話目って、稔流じゃね……?」

「……………………」


 稔流は、自分と大彦の間に座っているさくらをチラリと見た。

 五十話のはずが、さくらが入れ墨の怪談で介入したので、1本だけずれたのだ。


 稔流と目が合うと、さくらは「てへっ」という感じに笑った。可愛い。


「稔流!何とかしろよ!お前魔王だろ!!」

「魔王じゃないから」


 一本だけ残った蝋燭の火が、稔流の瞳に金色の炎を映し、まるで《《人間ではない何か》》のように見えた。


「これが、五十話目の、怪談なんじゃないかな……?」


 稔流が、最後の一本をフッと吹き消し、真っ暗になった。


「ぎゃーーー!!何で消すんだよ魔王!!」

「四十九プラス一物語のオチとしては、かなりいい感じじゃない?」

「その数え方ヤメローーー!!」

「落ち着けっての。みんな懐中電灯つけろ」


 大彦の指示通り一斉にスイッチを入れると、蝋燭に慣れた目には(まぶ)しいくらいだった。

 そして、その眩しさの中で、全員が見た。


 ――――稔流と大彦の間に、誰も座っていない、十一番目の椅子を。


 そこからは、悲鳴の合唱だった。

「うぎゃああああああ!!」

「キャアアアアアアア!!」


 かろうじて言語を発する者だけで対応。

「くそ!戸が開かねえ!」

「え、マジ?」

「うん、マジで開かねえわ。どうしよっか?」

「ハンマーいるか?」

「重要文化財をぶっ壊しちゃ駄目よ……」

「閉じ込められてんじゃん!!」

「般若心経唱えてみる?」

「うぎゃーーーーーーっ!!」



(……動くな)


 (ささや)くような声がした。皆、ぞわりとして(こお)り付くように動きを止めた。

 そして、澄んで綺麗な歌声が聞こえた。


(かーごめかごめ)

(かーごのなーかの とーりぃは……)


 澄んで綺麗なのが、一層鳥肌が立つ。


(いーつーいーつーでーやぁる……)

(よーあーけーのーばーんーに)


(つーるとかーめが すーべった)


(うしろのしょうめん……)


 クスクスクス、と笑い声がした。


「今、お前の後ろにいるよ」


……うぎゃああああああああああーーーーーー!!





「……ふ。ふふ、あはっ、ひゃっ、ひゃっ、ひゃっ……」


 さくらがしゃがみ込んで、肩を震わせながら笑っていた。

 妖怪の遊びは過激だが、河童や狐の子供達が稔流にやったことを考えると、去年も今年も手加減はしてくれたはず……というのは、稔流にしかわからない。


「さくら……」


 稔流は、床にゴロゴロと転がっている9人の友人を見渡して、溜め息をついた。


「気絶するほど驚かさなくても……」

「気絶ではないよ。眠らせただけだ」


 さくらは立ち上がった。

「おい狐。コイツらを全部、連れていけ」


 狐?と稔流が不思議に思っていると、何処に隠れていたのか、狐面の子供達がわらわらと出てきた。


「全員、ちゃんと自宅に帰してやれ。ひとりでも無事でなかったら……わかっているな?」

「わかったよ!わかってるよ!」

「だいじょうぶ、だいじょうぶだって《(ちか)う》よ!」

「じゃあ任せた」

さくらは、それだけ言うと背を向けた。


「ちょっ……さくら!」

 さくらは、さっきは開かなかったはずの引き戸をカラリと開けた。


「どうした?稔流」

 本当に大丈夫なんだろうか……と思いつつも、稔流はさくらを追いかけた。


「自宅に運ぶって、どういうこと?」

「ああ、朝になったら布団の上で目を覚ますよ。しばらくは、何が起こったかわかるまいな」


 それはそうだ。

 旧校舎にいたはずが、朝になったら自分の布団で寝ていて、その間の記憶が無いのだから。


「四十九足す一物語の終わり方としては、なかなかいいオチなのではないか?」

「完璧すぎて怖すぎるような……」


 校舎の外に出ると、いつの間にかさくらの手には秀樹が壊したはずの南京錠が握られていて、何事も無かったかのように閉じてしまった。


「完全犯罪だな」

「犯罪じゃないから……多分」


 見上げれば、満天の星空。

 稔流は、さくらに手を差し伸べた。

 

「デートの続きにしようか?」

「うん!」


 さくらが、嬉しそうに笑って、稔流も笑顔を返した。

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