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第65話 学校で怪談(四)

 天道村の梅雨の終わりと夏休みの始まりは大体同じ時期だ。

 7月下旬に夏休みに入り、塾もないので大抵の子供はのびのび遊んで過ごし、8月のお盆を迎える。


 お盆の最終日に盆踊りと夏祭りがあり、天道村に帰ってきたご先祖様たちは、(にぎ)やかな祭に見送られて、あの世もしくは常世(とこよ)と呼ばれる世界へ旅立ってゆくのだという。


 祭は24時まで続くので、中学生以上になれば帰りが遅くなるのには特に理由が要らない胆試し日和(びより)だ。


「相変わらず、鍵をしめないんだね……」


 稔流もこの村の習慣はもうわかっているが、それでも何となく目が遠くなる。

 校門自体は一応閉じられてはいるものの、両側に引っ張れば簡単に開くのは皆知っているので、いっそ24時間365日開けっぱなしにしておけばいいのにと思う。


「つか、そもそも要らねえよな、このジャバラみたいな奴。じいちゃんに言えば中学のもまとめて撤去(てっきょ)してくれっかな」

「大彦君。無駄に権力を発動しないで頂戴(ちょうだい)。撤去も廃棄(はいき)も、費用は税金から出るのよ」


 文子が正しすぎて、バカ騒ぎをしに集まったのにシーンとなる中学生の群れ。


「さっさと旧校舎に行こーぜ。怪談の五十話って時間かかりそうじゃん。あたしは誰にも心配されねーけど、お前らはそうじゃないだろ」


 ナイスフォロー姫華。

 後半は、聞く方が悲しくなる感じだったが、とにかく旧校舎に移動。


 昼間でも何となく不気味な木造旧校舎は、夜の闇よりも黒々として見えて一層不気味だ。


「アレ?鍵付いてんじゃん」

「そう言えば、重要文化財に指定されたんじゃなかった?」

「ダイヤル式南京錠か。まあ、南京錠なら大抵これで開く」


 実は文子と付き合っている、普段は真面目タイプの鳥海秀樹が真面目に言って、持ち物のリュックの中から何かを取り出した。……ハンマー。


ガンガンガン!!がちゃん。


「開いた」

「壊してんじゃん!!」

「窓ガラス壊して回るよりよくないか?」

「どうしてハンマー持ってるの?常日頃から持ち歩いてるの?」

「仕方が無いわ……窓ガラスじゃ浴衣の女の子は入れないもの。忍び込む時に見えちゃうわ」

「お前ら、盗んだバイクで走んのは十五歳からだぞ」

「あれって、格好よく自動二輪かと思ってたけど、原付なんだよな。1年待って16歳で免許取ればよくね?筆記試験だけで、あんま金かかんねーし」

「免許取っても盗むのはやめようよ……」

「俺の兄ちゃん、他人の原付に無免で乗って田んぼ突っ込んだ時、中三で十五歳だったわ……若気の至りなんだよ」

「山に3年修行してスキンヘッドで帰還しただろ。カッコいーじゃん」


 わいわい騒ぎながら侵入したので、この時点では誰も怖がっていなかった。そして、簡単には逃げられないように二階まで上がって、階段から一番遠い教室に入って人数分の椅子を丸く並べた。……11個。


「ふむ。椅子の数で驚かせてやろうと思ったのだが、案外気付かれないものだな」


 実は、さくら曰く「デヱトというものをしてみたい」と言うので、百物語っぽいイベントより前から稔流はさくらと一緒に屋台を回っていたのだった。


(話が終わってみたら、さすがにみんな気付くし驚くんじゃない?)

と、稔流は心の声で言った。


 実はひとり多くいた、だけどそれが誰だったのかわからない……という座敷童の得意技は、結構怖いんじゃないだろうか?

 そして、椅子で囲まれた円の内側に、大彦が五十本の蝋燭(ろうそく)に火を灯す。


「あー、忘れてた。チャッカマン1本って結構時間かかるんだよな。もうひとつ持って来りゃよかった」

「あたし手伝うわ」


 ヤンキー姫華がライターを取り出した。甚平姿でしゃがんで火を付けるのが、むやみに様になっている。

 終わると適当に座って百物語二分の一の開催(かいさい)だ。


「ルールは簡単な。前に紙に書いて回したけど、ひとりひとつの怪談が終わったら、ろうそくの火をひとつ消す。この()り返しで、ひとり五話×十人で五十話な。何か知らねーけど呪術的な儀式の簡易版な。四十九でやめるのが本物に近いんだけど、胆試し的には五十全部消すってことで」


「や、やめろって!四十九でいいじゃん!!」

 怖がり出した第1号は、宇賀田拓。


 文子が言った。

四十九(よんじゅうきゅう)……?いい数字ね。人が亡くなると四十九(しじゅうく)(にち)の法要をやるわね……どうしてなのかしら……」

「…………」


 固まった拓だけではなく、皆黙った。ニヤニヤ笑いを我慢しつつ。

 四十九日と結びつけた文子は『寺の比良』姓なので、誰かに尋ねなくても「どうしてなのか」とっくに知っているのだ。諸説ありだが、平井寺では『四十九日の間、死者の魂はこの世に留まる』ということになっている。


 つまり、『拓が来ると面白い』のはもう始まっている。


 そして、大彦なら乗るに決まっている。

「んじゃー、四十九(しじゅうく)プラス(いち)語り、俺から行くわ」

「その言い方ヤメロー!」

「俺んちの、多分一番古い蔵にあったんだけどさ」

 大彦は華麗にスルーして、スマホを取り出した。


「コレって、放っといた方がいいのか?何かしないとヤバいのか?多数決で決めるわ」


 その画像は、確かにヤバそうな雰囲気を(かも)していた。

多分白木(しらき)(づく)りの、小型仏壇(ぶつだん)のような何か、だった。


 「ような」と「何か」が付くのは、閉じられた扉には鍵はかかっていないようだが、明らかに経年劣化した神のお札が、扉を(ふさ)ぐように何枚もベタベタと()ってあったからだ。


 スマホが時計回りにメンバーの手に渡り、暗い教室の中の空気が一気に重くなった気がした。

 が、誰かが何かを言い出さないと、この怪談は終わらない。


「これ……。何かヤバいの入ってるのを、封印してる感じしねーか……?」

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