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第63話 学校で怪談(二)

「稔流。『どちらかにしておいた方がいい』とでも言ってやれ」

 

 稔流は何の事か分からなかったが、こういう場合でさくらが外したことは無い。


「先生。どちらかにしておいた方がいいですよ」

「……は?」


 教師が、単に不快であるような表情を作りつつも、動揺(どうよう)しているのがわかった。

 ……あ。この反応、鳥海さんの耳に入ったら免職案件だ。


 稔流は、スッと目を細めて微笑した。

「それ以上は《僕》は何も知りません。お(さわ)がせしてすみませんでした。授業を再開してください」


 実は、すみませんなんて欠片(かけら)も思っていない慇懃(いんぎん)無礼(ぶれい)だ。

 何故なら、教師がここで詰問(きつもん)叱責(しっせき)をやめて授業を続行すれば『宇賀田稔流の指示に従った』ことになる。


 そして、教師は授業を続けることを選んだ。

 終了のチャイムが鳴るまで、というより鳴っても一度も稔流の方を見なかった。後ろめたいことがあるらしい。


「ふふ、私は稔流の笑顔が好きだよ。威圧する為の笑顔もなかなか格好いい」

(ありがとう。俺は、どんな表情でも、さくらが好きだよ)

「…………」


 学び舎で殺し文句を言うな、学び舎で口説くなとは、もう言われなくなって久しい。

 当たり前の事だから、当たり前に言葉にする。当たり前の幸せを、ずっと幸せだと思っていられるように、何度でも伝えたい。


「むすび、稔流についていろ」


 さくらが(たもと)から竹筒を取り出すと、びよーん、と細長いふさふさが喜んで稔流の首に巻き付いてきた。と思った次の瞬間には、さくらは姿を消していた。


 きっと、頬が綺麗に染まっていたのだろうと、今度は誰にも気付かれないように、稔流は小さく笑った。


 案の(じょう)、休み時間になったら友達が集まってしまった。


「なー稔流。さっきのどっちかにしろ、っていうの何?」

「しろとは言ってないよ。した方がいい、って言っただけだよ」

「そうじゃなくて、どっちか、って何だよ」

「さあ……。先生にも言ったけど、俺はそれ以外は何も知らない」


 いや、本当に知らないから。あとでさくらに聞かないと、何も分かんないから。


「その、『さあ……』ってはぐらかす感じとか、(おだ)やか~に笑ってるけど笑ってない感じとか、稔流って地味に怖いんだよな」

「地味じゃないだろ。魔王じゃん」

 そこまで言わなくても。


「勇者の大彦が稔流の味方するもんな。無敵だろ」

 それはそう。


 稔流は話を逸らした。

「それより、回ってきたあれって何人集まったの?夏休みの五十物語」

「多分8人。さっき雄太が真二郎を引っ張り込みに行ったから。残りは男子と女子ひとりずつスカウトな。女子の方は姫華に任せた。男子の方は、稔流に任せるって雄太が言ってたけど?」

「え、何で俺?」


「神様だからよ」


 静かだか不思議に通る声の方を見ると、さくら情報によると鳥海秀樹と付き合っているらしい比良文子がいた。特に校則の(しば)りがなかった小学校の頃から、ロングヘアをきっちりとお下げにしている優等生女子。


「神様には逆らえないから、引き()り込むのは、稔流君が確実なの」

「えっと……何が?」


 引き摺り込むっていう不穏(ふおん)、一体何。


「大彦君が面白がってる以上、止められるのも稔流君しかいないと思うけど……」

 文子は、(おごそ)かに言った。


「たっくんは、イキる割に怖がりだから面白そう。……って、私も思うの。頼まれてくれる?稔流君」

「…………」


 頼まれてくれる?と言葉は下手(したて)に出ているのに、逆らえない気がするのはどうしてだろうか。真の魔王は文子なんじゃないのか。

 結局、稔流は(多分誰にも見えない)むすびを首に巻いたまま、隣のクラスまで宇賀田拓を訪ねて行った。


「たっくん。頼みがあるんだけど」

「え?な、何だよ」


 小学生の時にやりすぎたのか、まだ何もしていないのに稔流が蛇で拓がカエルの様相。

 稔流は、にっこりと笑って拓の机の上に『百物語っぽいことやろうぜ』の署名用紙を置いた。


「ここ、名前書いてくれるよね?」

「な、ななな何で、俺なんだよ」

「な、は1文字でいいよ?」

「……すみません」


 何かもう敬語。


「敬語じゃなくていいから、ここに名前書いて」

「なん……」

「理由が要るの?」

「…………」

「たっくんなら、俺の頼みは断らないと思うから。名前、書いてくれるよね?」

「…………」


 宇賀田拓から署名をゲットして廊下に出ると、金髪ヤンキー少女・宇賀田姫華がいた。


「ッス、魔王」

「違うから」

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