表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
62/102

第62話 学校で怪談(一)

 宇賀田稔流、数え十四(中学1年)の夏。


 授業中に、後ろの生徒からちょんちょんと背中をつつかれた。

 そして、折り畳まれた紙を、いかにもコソコソした|雰囲気で渡された。


 稔流が八つ折りのそれを静かに開いてみると、そこには『メンバー募集』と書いてあり、既に何人かの名前が書いてあった。

 何のメンバーかというと、


《懐かしの旧校舎で百物語っぽいことやろうぜ》


 日時:8月16日・19時~

 集合場所:天道神社の鳥居前

 持ち物:懐中電灯・持ってるやつはスマホ・その他各自

 定員:先着10名


 ~やり方~


 1 ひとりずつ怪談を語る

 2 語ったら1本ろうそくの火を消す

 3 2を五十回やる

 4 ちなみに百物語の場合は九十九本で終わらせる。百番目を語ってろうそくを消すと怪異(かいい)が現れるから

 5 これは簡易版だから、四十九本で終わらせないで五十本全部消して怪異が出るかどうかやってみる

 6 無事なら自分の家に生還(予定)



「今年もやるのか。大彦も()りないな」


 と、隣の席から声が聞こえてきた。

 ついさっきまで誰もいなかったはずの席で、いつの間にかさくらがいて頬杖(ほおづえ)を付いていた。


(懲りないって言うか……(むし)ろ好きなんじゃないかなあ、こういうの)


 と稔流は心の声で答えた。

 ポケットの中にはずっと、さくらの椿の花びらを巾着袋に入れて持ち歩いている。これを持っていると、稔流は心で伝えたいと思ったことを会話のように返すことが出来る。


 このイベントは昨年にもあった。小学校を卒業する前に、何か夏の思い出を作っておこうという事で、大彦と稔流を含む5人でやったのだ。


 確かに夜の旧校舎はそこに建っているだけで怪しい怖さを(かも)していたし、中に入るのも探検のようで、怖いのとワクワクするのと半々でいい思い出になったと思う。


 ――――大彦と稔流にとっては。


 というのは、前回は最後の一本を残して終わりにするつもりが、さくらがふざけて最後の蝋燭(ろうそく)を吹き消してしまったので、真っ暗な部屋に稔流とさくら以外の悲鳴が(ひび)き渡ることになったからだ。


 大彦はその怪奇現象(?)も含めて楽しそうだったが、結局それは大正時代に建てられた古い木造校舎なので、隙間(すきま)風でたまたま火が消えたのだろうということで落ち着いた。


 ……というか、そういう事にしておかないと怖すぎたので、うやむやになったのだ。


 因みに、その時のメンバーは天道小学校6年2組の男子児童5名で九十九話にするつもりだったのだが、5人で九十九話は多すぎた。

 10周待たずにネタが尽きて、後半はグダグダと雑談になってしまったので、今年は人数を倍にして、且つ話の数は半分に減らしたのだろう。


「稔流はどうするのだ?」

(参加で……。俺は定員オーバーでも巻き込まれるんだろうし)


 去年、神隠しの前例がある稔流は、帰りが遅いと心配されそうで乗り気ではなかったのだ。

 でも、いつの間にか《王の末裔》の親友ポジションになっていた《降臨する狐の子》は『鳥海さんちでお泊まり会』の名目で黒ベンツがお迎えに来てしまったので、今年も選択権は無いと思う。


 回ってきた紙には、大彦の他に中学になってクラスが離れてしまったふたりも含めて、昨年の四名の名前は先に書き込まれていた。


 1 鳥海大彦

 2 比良涼介

 3 波多々佐助(さすけ)

 4 鳥海秀樹(ひでき)


 今回はそのほかに


 5 比良文子(ふみこ)

 6 宇賀田姫華(ひめか)


 とふたりの女子が加わっている。


(意外だなあ。姫華さんはともかく、文子さんってこういうの鼻で笑いそうなタイプだと思うんだけど)


 稔流が『ともかく』と言った宇賀田姫華は、小学生の頃からヤンキーだった。稔流が引っ越してきた時には既に金髪で、


「お前、いい髪色してんな。カラコンいらねーとか超うらやましいわ」


 と、向こうから挨拶された。

 教師から注意されても、


「宇賀田がきつね色で何が悪いんだよ。地毛だっつーの地毛。大兄(おおえ)さんがいいって言ってるんだからいーんだよ。文句なら大兄さんに言えよ」


 と、宇賀田だから地毛(本家から遠いので自力で染めている)、そして通称大兄さん(鳥海さんの高貴な長男という意味)と呼ばれている大彦の父を味方に付け、教師を黙らせてきた強い女だ。


 大兄さんは、中学高校と若気の|至りでリーゼントでキメていたので、姫華の金髪にもOKサインを出すしかない。


「意外でもないよ。文子は姫華と仲がいいではないか」


 そう言えばそうだった、と稔流も思い出した。


 文子は長い髪をキッチリとお下げにして銀縁眼鏡という、とてもわかりやすい優等生なのだが、何故かヤンキー姫華と仲が良い。


「誘われたのは、姫華の方だろうよ。文子は秀樹の嫁だからな」

「え!?」


 稔流は、やっちゃった感に変な(あせ)を感じた。

 天道村の梅雨(つゆ)は、温暖化をものともせずに梅雨寒(つゆざむ)で、今日もそうなのに。


 だが、驚いてつい声を上げてしまったので、生徒と教師の全員の注目が稔流に集まっている。


「宇賀田稔流、どうかしたか?」


 (いら)ついた様子の数学教師が、チョークを手にしたままジロリと稔流を(にら)んでいる。

 大彦とは違う意味で、稔流は小学校から引き続き『特別な配慮(はいりょ)』が必要な生徒であるとされており、それを面白く思っていない教員もそれなりにいる。


 はあ、と稔流は小さく溜め息をついた。嘘は苦手だ。思い付かないので、本当の事を言った。


「神様の声を聞いていました」


 静まる教室。そして続く、ひそひそ、コソコソというさざ波のようなざわめきが、『毎回ながら』未だに慣れない。


「何だ、それは。神懸かりとやらか?」

 あからさまに馬鹿にした口調だが、馬鹿でいいからさっさと授業に戻ってほしい。が、


「ふふ、私の稔流に喧嘩(けんか)を売るとはいい度胸だ」

 さくらが笑った。――――否、笑っていない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ