表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
童女の嫁入り (2024/4/23〜同年6/11連載・完結)  作者: 真髪芹
第2章 ひとつ屋根の下の座敷童
20/102

第20話 無事カエル

 土間に続く玄関の引き戸は、やはり開けっぱなしだった。

 天道村の家の(ほとん)どは、夏は鍵をかけるどころか、戸や窓は開け放ったままなのが標準だ。


「……ひいおばあちゃん、いる?」

「ああ、稔流ちゃん。やっぱり帰って来たね」

「え? あ、ただいま……」


 稔流がさくらと一緒に墓地から出て行ってしまってから、多分2時間くらい経っていると思うのだが、稔流の神隠しを知っているにしては曾祖母はいつもと変わらない。


 稔流は曾祖母が怒った所を見たことがないのだけれども、ちょっとは心配されるだろうし、母なら心配極まって怒るだろうし、既に大人達が捜索活動をしていたらどうしようと思っていたのに。


「稔流ちゃん、そこ気を付けてね。踏んだら可哀想だから」

「うわっ!」


 稔流は、踏み出そうとした足を引っ込めた。大きなカエルが、土間の真ん中にどっしりと座っている。

 稔流の後ろから、さくらがひょこんと(のぞ)き込んだ。


「この家の辺りに()んでいるヒキガエルだよ。雨が降ってる訳でもないのに、昼間に出てくるのは珍しいな。お前、こんなところで何をしている?」


 都会っ子の稔流は、両生類も爬虫類も得意ではないが、さくらはカエルを撫でながら話しかけている。


「ああ、稔流。コイツには触るなよ。毒があるから危ないぞ」

「思い切り触ってない!?」

「座敷童には効かないよ。まあ、この手で稔流に触るとかぶれるかもしれないから洗ってくるか」

 タタタ、とさくらは走って行ってしまった。


「ひいおばあちゃん、この辺りに手を洗う場所ってあるの?」

「台所で洗って構わないよ」

「えぇと、そうじゃなくて、外にある?」

「井戸があるよ。でも深くて危ないからこっちにおいで」


 稔流は、さくらの行き先を知りたかったのだが、一応山道を歩いたり管狐をもにもに揉んだりしたので、おとなしく台所で手を洗うことにした。


「……ひいおばあちゃん」

「何だい?」

「騒ぎになってたら迷惑だったから、あんまり心配してなくてよかった」

「豊と真苗ちゃんは、稔流ちゃんを追いかけようとしていたよ。でも、あれがひょっこり墓石に乗っかってきたもんだから、追いかけなくても大丈夫だと言っておいたよ」


 あれ、とは。土間に戻ると、まだいた。


「……このカエル?」

「そうだよ。カエルは『無事帰る』っていう縁起の良いものだからね。法要の間もずっとお坊さんの(そば)にいたし、終わったら私に付いてきて、土間に居座ったものだから、稔流ちゃんが帰ってくるならこっちの家だと思っていたよ」

「…………」


 そんな縁起物で誰も捜さなかったのか……田舎ってどこでもこんな? 天道村が特殊? と思いながら、稔流はまだのっそりと土間にいるカエルを見遣(みや)った。


「そうか、お前お手柄(てがら)だったな。もう心配いらないから、お前もお帰り」

 井戸から戻って来たらしいさくらが話しかけると、ヒキガエルはさくらの言葉を理解したかのように、ぺたりぺたりと歩き出し、外に出て行った。


「さ……」

 むぐ、とさくらに口を(ふさ)がれた。


「私に話しかけると、ひい婆様に聞こえるぞ?」

 それまでずっと普通に会話していたから、忘れていた。ひとりで(しゃべ)り続ける変な奴に見えてしまう。


「ずっと手を繋いだまま話すのも不自由だな。……これでも持っていろ」

 さくらは、髪に飾っている椿の花から、花びら一枚をぷつんと抜いて稔流の手のひらに()せた。


「私が気に入らないものを押し付けるのは申し訳ないが、それも私の一部には違いない。(ふところ)に入れておけば、稔流の心の言葉が私に届くよ」

「…………」


 赤い花びらは確かに稔流の手の上にあるのに、稔流とさくらにしか見えないのだろう。

 そして、さくらは以前言っていた通り、本当に椿の花が嫌いなのだろう。無造作(むぞうさ)に引き抜いたから、綺麗な白い髪に残った花姿も(ゆが)んでしまっていて、悲しいと稔流は思った。


「どうかしたか?」

(この花びら、懐に入れるって言われても、俺は着物じゃないから入れる場所ってポケットしかないんだけど……)

「どこでもいいよ。ポケットとやらでも」

(しわくちゃになりそう)

「しわくちゃでも千切れても平気だ」

「…………」


 さくらの一部なら、稔流は大事に持っていたいのに。たとえ、さくらが嫌いなものであっても。


「稔流ちゃん」

 曾祖母が台所から戻ってきた。スイカを載せたお皿を持って。……何故かふたつ。


 畳のに上がると、今は掛け布団が無い掘り炬燵(ごたつ)の上にコトリと置いた。


「これでも食べていなさいな。稔流ちゃんが帰ってきたって、豊と真苗ちゃんに言ってくるから」

「……お父さんとお母さんが、こっちに来るの?」

「帰って来たって言うだけだよ。会いたなら呼んで来るよ」


「ううん」

 稔流は首を振った。


「会いたくない。何も、聞きたくない」


 申し訳なさそうにする両親の顔を、見たくなかった。稔流が耐えきれなくなって叫んで拒絶するまで、何も気付かなかった癖に、今更。

 でも、今まで黙っていたのは稔流自身だ。7歳の誕生日のお祝いに、作り笑いをしていたのは両親だけではない、稔流自身もだ。


 それでも、今の稔流には、両親が何を言っても取り(つくろ)う言い訳にしか聞こえないと思った。

 そして、大人の巧みな言い訳に、稔流はいとも簡単に傷付くことも、わかっていた。


 悔しいくらい、悲しいくらい、稔流は子供だった。

 だから、聞きたくない、何も――


「そうかい。稔流ちゃんはゆっくり休んでなさいな。スイカも冷たいうちにお食べ」

 曾祖母は全開の引き戸から出て行った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ