4.ショータは女医の癒し
お姉さん目線です。
射沢春香の癒し
夜、連絡通りショータが病院に迎えに来た。
勤務時間はとっくに終わっているのでショータをダシに帰るつもりだ。
私の勤め先は義姉と同じ病院だが、あの人は今日も手術と術後の会議で
日付が変わるまで帰らないだろう。
あんな可愛い子供がいて信じられない。
信じられないと言えば兄も国境なき医師団とやらでどっかに行って帰って来ない。
二人とも使命感が強く人を救う事に異議を見出すらしいが、自分の息子をまず救えよ。
ショータは知らない人が多いせいか何時ものように少し顔が赤い。
髪は短くシャープに見せようとしているが、可愛いが勝ってしまっている。
身内びいきというなかれ。
ショータが小学生の頃なんて、ナース連中がベッタリ張り付いてきたもんだ。
大きくなったのでそこまでアブナイ奴はいないが、病院内老若男女、
目が覚めたようにこっちを見ている。
どうだ、羨ましいか? 見せびらかすのがここへ呼んだ理由の一つだ。
「お母さんは会議でもう少し帰れないと思うよ。あんたご飯は食べた?」と聞くと
ショータが少し寂しそうな顔をして食べてきたと答えた。
超絶可愛い~、ショータその顔反則だよ、時間外にきたオバさん連中の口が開いてるぞ?。
子供まで顔みてるぞ。
着替えてくるまで待合室で待たせる。知り合いにはちゃんと挨拶を返している。
落ち着いてゆっくり話せば全然普通なんだけどな。声もそんな悪い声じゃない。
「家でジジババに聞かれたくない話があるんだろ? 食べたばかりかもしれないけれど
いつもの小料理屋に寄って帰ろ。」
「お姉ちゃん、お祖父ちゃんには口が悪くなるね・・・。」
お前は回り皆に優しいな、うん吃音出ていない大丈夫だ。
小料理屋に入る、混んでる時間帯だがカウンターの端が開いている。
中学生連れだが、住宅街だし、料理が旨いので他に子供が来る事もある。
別に違和感はない。
ビールやら突き出しやらおしぼりやらショータがコマコマ世話を焼いてくれる。
性格なんだよなー、こういうの。これが自然にできてしまうの凄いわ。
小学生の頃なんか小さいのに、ほとんど喋らずニコニコ笑ってこれやるもんだから
店の女将が『養子に欲しい』と騒いでたものな。
ぜってぇあげないけど。ああ見ているだけで癒される。
なにこの可愛い生き物。
様子見てるとやっぱり少し落ち込んでる感じだ。
「どうした?相談があるんでしょ」ウーロン茶飲んでるショータに声をかける。
ショータが話してくれる。
爺がW実業の監督とやらを紹介したらしいが、今年は枠一杯だと断られたらしい。
爺に報告したらあのバカ(私の実父だが)あからさまに落ち込みやがったらしい。
ショータはそこまでやってもらったのにと申訳なくてどうしたら良いかわからないそうだ。
「翔太、あんたの人生なんだから爺のいう事ばかり聞いてたらダメでしょ。
だいたいW実業ごとき試験受ければ行けるでしょ。」
「うん。でもそれだと電車で通学になって時間が勿体ないからお姉ちゃんの母校に行こうと
思うんだ。」
「多摩近場高? あそこ勉強はキツイよ? 野球部あるかないかわからないよ?」
「野球やめようかと思ってるんだ。」
「ふーん。自分の道は自分で決められるようになったんだ良い事だね。
勉強はアンタは何も言わなくても頑張るからガンバレとは言わないよ。
勉強でわからない事があったら教えてやるから聞きにきな。相談ってそれか?」
「実はもう一つあって、例の感覚についてなんだけど・・・」
ホエっと声が出てビールを吹きそうになる。
ショータの”感覚”はヤバいんだよ~。なんだよ~。
感覚の何がヤバいんでしょうか。次で語ります。