35.焼き肉の誘惑(若さとは食欲)
海野美月(海月ちゃう)の視点
補講を終えて校門へ行くと礼華がいた。
あれ?今日の野球部は午前中だけで練習終わりやなかったっけ?
片付けか、明日の用意の手伝い頼まれるのかな?
「美月、ちょっと時間ある?」
「補講で部活出れなくてゴメン。それとお昼帰らないといけなくて。」
家事をするので部活をメインにはできない。
無理やり野球部に引き込まれた時に了承してもらった。
大変そうだと気を使ってくれるので、今では野球部の友達が大好きだ。
「何の用事?」
「妹にご飯作ってやらないと。」
心晴に単独で火や刃物を使わすのは怖い。
電気ポットの湯を注ぐカップ麺だけでは可哀そうだ。
冷蔵庫にお昼の時もあるが、出来るだけ一緒に食べてやりたい。
礼華の顔が明るくなる。
「それなら一緒にお昼食べに行かない?妹さんも一緒に。」
礼華が焼き肉屋の割引券を取り出す。
「いや、お小遣いそんなに無いけど。」
「奢るから。その代わり頼みたい事があって・・・。」
この目は、ひょっとして。
「ショータの事?」
「さすが勘が良いわね。お願いできない。」礼華が頭を下げている。
「うーん、焼き肉か~。」
結局、誘惑に負けた。この空腹が悪いねん。私は悪くない。
アパートの下で礼華に待ってもらい、部屋へ帰る。
ドアを開けるときの合言葉は礼華に聞かせたくない。
「なあ、心晴、焼き肉食べたいか?」妹に聞いてみる。
「食べたい!」妹の即答。
「お外?」声が小っちゃいな。
「お外や、お外の焼き肉食べ放題や。でも美月と友達が一緒や。」
「美月も一緒?」こっちを見て来る。
「一緒やで、ずっと傍におる。」
「友達は女の人?」
「女や。面白い子やで。」
考え込んでしまった。
「心晴、お外怖いか?」首を一旦縦に振ってから横に振った。
「美月と一緒やったら怖くない。」
「ホンでも暑いでー。」
「どこにおっても暑いがな」おっ元気出てきたな。
「よし、お腹パンパンになるまで食べよな。」
「お肉、お肉。」心晴が喜んでいる。
妹よ、代償は姉が払う、心置きなく喰え。
神よ・・・私の貞操が無事でありますように。
心晴はもともとここまで甘えた子やなかった。
大人しいけどしっかりした子やった。
そやけど、ボロボロのガリガリで逃げて来た後、赤ん坊みたいに私とオカンに甘えるようになった。
大人の男の声がしたら、それだけで怖がって動けへんかった。
何をどうしたら、こうなるねん! 関西におった頃にはあのクズ頻繁に来よったんよ。
実の母とかいうクズ女と一緒にな。
心晴は姿を見るか声を聴くだけで発作起こしよった。
私は抱きしめて部屋の隅へ逃げて救急車が来るまで動けんかった。
オカンは人に聞いた法律事務所に相談した。
来るないう裁判しようとしたけど、オカンうかつや当時住んどった家、クズの母親名義や。
そらあかんわ。
ついでに裁判って時間かかるねん。あんなん見たら発作起こす薄幸の美少女がおるんやで?
あんなクズ即刻牢屋に入れてまえや。何が立っとるだけや、そば寄るな。
遠い所の方が良いんちゃうかと言うてくれる人がおってこっちに来た。
なんとかなる、良かったと思っとったらクズが追いかけて来た。
ホンでも良い事もあって礼華ママが相談に乗ってくれる様になった。
元相談してた神戸の法律事務所がビビり倒す位凄腕で誰も勝てないって。
今度寄って来たら逮捕や、とあのクズ言われとるらみたいで姿みん。良かったで。
資産状況や前後の証拠集めるのに時間かかっとるけど、もうすぐ目の玉飛び出る位
慰謝料と財産分与とれるってオカンが言うとった。
アイツが二度と姿見せんと約束してくれるなら金なんか要らんけどな。
まあ、あっても困らんから 取れるだけ取ってもらお。




